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平日②

「ただいま、直美ちゃん」

「お帰りおじさぁんっ!! どぉだったぁっ!?」

「悪くなかったよ、皆優しいし業務内容も前と似てるからやっていけそうだよ」

「それは良かったねぇ……うん、本当に良かったぁ……」

「ただ、またちょっと残業漬けになるかも……急ぎの仕事があるんだってさ」


 だから出社当日から早速仕事を任されてしまった。

 尤も今日のところは初日だからか加減されていたみたいで、半日で終わる量だったからこうして定時に帰れたのだ


(きっと明日から本格的に仕事を割り振られるんだろうなぁ……頑張らないと)


 余った時間で業務に役立ちそうな自動化ツールを作っておいたが焼け石に水だろう。

 まあ残業は慣れているし、何よりこっちの会社では当たり前だが残業代が出るのでそこは全く辛いとは思わない。


「そぉなんだぁ……遅くなる時は連絡してね」

「わかったよ、帰る前には直美ちゃんに連絡するよ」

「そうだよぉ、後辛いこととかもきちんと報告することっ!! 一人で抱え込まないことっ!! いいねっ!!」


 直美はとても真剣な顔で俺を見つめてくる。

 もちろん俺も正面から見返して頷いた。


「うん、わかってるよ……もう直美ちゃんを不安にさせるような真似はしないから安心してね」

「よぉし、いい子だぁ……そんな良い子には直美のてりょーりをごちそーしちゃうのだぁっ!!」

「う、うわぁ嬉しいなぁ……普通のカレーとかシチューだよね?」

「それは見てのお楽しみぃ~、温めて持ってくから座って待っててねぇ」


 俺を食卓の椅子に座らせて、直美は台所へと入っていく。


(ま、また変なアレンジしようとして失敗料理になってないといいけど……)


 不安を抱えながらも言われた通り待機していると、しばらくして直美がお皿をもってやってきた。


「愛のハンバーグ定食おまたせぇっ!!」

「あ、愛のって……おお、ハートマークっ!?」

「形取るの物凄く苦労したんだからっ!! よく味わって食べるんのだぁっ!!」

「うん……だけど焦げ目も盛り付けも綺麗だし……凄い上手だね」


 ハートマークという異常さを差し置いても中々食欲をそそる見た目に整っている。

 正直この前まで変な料理ばっかり出していた直美とは思えない進歩だった。


「へっへ~ん、直美は着実に花嫁しゅぎょーを積んでいるんだよぉ……ただぁ一つだけおじさんの協力がないとどぉしても上達しようのないことがあるのぉ……だからぁ今夜は直美とぉ……」

「もぐもぐ……うん、このハンバーグとっても美味しいよ直美ちゃん」

「あぁああっ!! な、直美の話聞いて無いなぁあああっ!?」


(だって……絶対下ネタにつなげてくるって分かってるんだもん……)


 無視してハンバーグを食べてみたがとても美味しい。

 花嫁修業と言う名目なのはともかく、きちんと学習しているようだ。

 本当にいい子に育った……立派に成長し続けているものだと感動すらしてしまいそうになる。


(帰ってきたら可愛い女の子が美味しい手料理を作って待っていてくれるとか、俺って物凄く幸せ者なんじゃないか?)


 生活の全てが直美のお陰でどんどん改善されていく。

 本当にありがたい……感謝してもしきれない。


(俺も何か直美ちゃんにしてあげないと……そのためにもたくさん稼がないとなぁ……資格給とか目指すかなぁ)


 直美を養うためにも、俺はもっともっと頑張ろうと決意を固めるのだった。


「ありがとう直美ちゃん、おじさんなんだか物凄く幸せだよ」

「じゃぁその幸せおすそ分けするのだぁっ!! 直美にご褒美をよこすのだぁっ!!」

「はいはい、じゃあまた今度給料日にお小遣いあげるから……」

「そんなのいいからぁ、それよりおじさんの愛を頂戴よぉ~」


 椅子に座る俺を後ろから掴んで揺さぶる直美。

 これではとても食事の続きは出来そうにない。

 だからって叱ることもできない……物凄く可愛くて、愛おしくてたまらないのだから。


「仕方ないなぁ、じゃあちょっとだけだよ」

「えぇっっ!? ほ、本当にいいのぉっ!? つ、ついにおじさん覚悟決めちゃったぁっ!?」

「ここまでしてくれたんだからおじさんだってね……少しだけだよ?」

「う、うんっ!! え、えっとじゃあ直美どうしよう……お、お風呂入って、あ、は、歯磨きもしなきゃ……あ、後は……」

「それより、ほらお口開けて」


 俺は直美に愛情の返しをしようと、ハート型のハンバーグの一部を箸で持ち上げて口元へと運んであげた。


「はい、あーん」

「え、あ……あーん……もぐもぐ……」

「はい、愛情のおすそ分けお終い」

「むぐぅっ!? な、何よそれぇええええっ!?」


 何せ愛のハンバーグ定食だ、この一部を分ければ愛情を与えたことになるはずだ。

 しかし俺の意図を理解したらしい直美は、すぐにフグのように頬を膨らませるのだった。


「むぅーっ!! おじさんの馬鹿ぁっ!! そんなズルは駄目なんだからねぇっ!!」

「ズルじゃないよ、全く直美ちゃんは困った子だなぁ」

「だから子ども扱いするなぁっ!! 絶対に直美はみとめないんだからねっ!!」

「わかったわかった、じゃあもう一切れね……あーん」

「もぉおおっ!! 馬鹿にしてぇええっ!! そんなおじさんなんかぁ…………あーん……もぐもぐ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も素晴らしいですねぇ(´∀`*)ウフフ ひとまず、おじさんの職場がホワイトそうで良かったε-(´∀`*)ホッ 直美ちゃんの愛の籠ったハンバーグ・・・。 ・・・、食べたい・・・。(切…
[一言] その日常の積み重ねで、心を癒していくんだなあ。まず。 そしてその先に、未来があるのかな。
[一言] (主人公、実は寝取られて無くない?好きだった幼なじみに彼氏ができて…が正しいような) 明日も頑張ります! ほんわかして、和みます
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