有給⑧
「神の指先……相手は死ぬ」
「何このクソゲーっ!? こんなの双六じゃないよぉっ!?」
直美がコントローラーを投げ出してしまった。
次のソフトに切り替えよう。
「よぉし爆弾でジャンジャン壁を壊してアイテムをかき集めて……って何してるのおじさんっ!?」
「このゲーム、開幕10秒間は無敵なんだよねぇ」
「そ、そんなのずるいぃいっ!! 直美も真似して……し、死んだじゃんっ!?」
「止めるタイミングを見誤ると当然自爆しちゃうんだよ」
「はいクソゲーっ!! こんなのやってらんないっ!!」
直美が不満そうにしている。
また次のソフトに入れ替える。
「へっへぇん、ゲージを最大まで溜めた必殺技を喰らえぇっ!!」
「残像だ……霊ポイントも尽きたことだしお返ししよっと」
「な、なにそれぇ……じゃ、ジャンプで回避ぃっ!!」
「着地する瞬間は必中な上にダウン判定になるんだなぁ……パンチして霊魂を回収してからの必殺技……」
「こ、これのどこが格闘ゲームなのぉっ!? クソゲークソゲーっ!!」
某有名漫画を題材としたゲームすら気にくわないようだ。
仕方なく次のソフトを差し込んだ。
「AとBを連打するだけかぁ、なんか単純……って全然ゲージ溜まんないんだけどぉっ!!」
「遅い遅い、俺みたいに爪を使って擦るといい感じだよ」
「な、なんなのそれぇ……み、見事大失敗って……馬鹿にすんなぁっ!!」
これもお気に召さないようだ。
他のソフトにしよう。
「ふっふーん、このマップの敵は殆ど直美が倒しちゃったもんねぇ~」
「残念だけど残っている星に触るとこっちのポイントになるのだ……ついでに竜巻っと」
「あぁあぁっ!? な、直美のポイントぉおおっ!? し、しかも操作キャラも吹っ飛ばされたぁっ!?」
「相変わらず操作法が独特だなあ……よしこれでホールインワン、じゃなくてステージクリアっと」
「ふざけんなぁっ!? こんなんやってられるかぁっ!!」
ついに直美が音を上げてその場に倒れ込んだ。
(だから対戦はやめておこうっていったのになぁ……)
「やれやれ……じゃあ片付けるよ」
「うぅ……お、おじさんほんとぉにこんなクソゲーやってたのぉ?」
「そうだよ、当時はネットも普及してなかったから友達の家に集まってね」
(本当に懐かしいなあ……良く動いたもんだよこれも……)
全ては直美が昔の話をせがんだのがきっかけだった。
同棲するんだからもっと俺のことを知りたいと言われて……幼馴染のことは話せないから幼いころ遊んだゲームのことを話したのだ。
すると直美もやってみたいと言い出したので、久しぶりにこうしてプレイしていたのだ。
「信じらんなぁい……全然楽しくないじゃん」
「それは勝てないからでしょ……だから対戦は止めておこうって言ったのに」
「だってぇ……おじさん友達とそーいうゲームばっかりやってたんでしょ……じゃあ直美だってやりたいもん」
どうやら俺と遊んだ友達に張り合いたかったらしい。
(全く……本当にかわいい子だなぁ……)
拗ねる直美もまた魅力的だった。
「今は直美ちゃんとしか遊んでないでしょ……一緒に遊んでる時間ならもう直美ちゃんが一番だよ」
「……ほんとぉ?」
「うん…………多分……に、二番目なのは確実だよ……」
(一番仲の良かった友達とは連休潰してハッピーを99年やり切ったこともあるからなぁ……)
「や、やっぱりまだやるっ!! おじさん、次のゲーム出してぇっ!!」
「えぇ……じゃあせめて協力プレイにしようよぉ」
「ヤダぁっ!! 絶対おじさんを倒しちゃうんだからっ!!」
(それは無理だってばぁ……まあ、直美が諦めるまで付き合ってあげるかなぁ……)
何だかんだでこうして直美と遊んでいる時間が楽しくて仕方がない。
俺は直美が満足するまで付き合ってあげることにするのだった。
「このタイミングでジャンプすれば羽根なしでも飛び越えられ……っ!?」
「へっへぇ~ん、直美の雷はどうだぁっ!?」
「な、なんでっ!? 持ってなかったしコースにはもう……逆走したのかぁっ!?」
「いえぇいっ!! 勝てはしなかったけどおじさんをついに一位から引きずり下ろしたぞぉっ!!」
「……直美ちゃん、このコースもう一周ね」
「にゃぁあっ!? お、おじさん意外とムキになってるぅっ!?」
(そんなことはないが……タイムラップが気にくわないとか全然思ってないけど……もう一回やっておこう)




