有給⑦
「えへへ、デートデート楽しいデートぉ」
「ただの買い物でしょ……」
「恋人同士でのお出かけは何でもデートなのぉ、ほーりつで決まってるんだよ?」
「そんな法律聞いたこともないんだけどね……」
お店の中を直美に腕を取られたまま並んで歩く。
これから一緒に暮らす上で必要となる当面の食材を買い出しに来たのだ。
「直美の中ではそーなってるのぉ……うーん、卵高いなぁ」
「二百円行かないんだから別に気にしなくても……」
「駄目っ!! 曜日によっては百円で買えちゃうんだからねっ!! けーざいけーざいっ!!」
(い、意外にしっかりしてる……まあお金には苦労してたもんなぁ)
ストレスで精神的に死んでいた時は気にならなかったが、こうして意識してみると直美はしっかりと物の値段を見定めている。
わざわざ夕方に買いに来たのも値引きシールが貼られるタイミングを見計らってのことらしい。
同棲する上で家事全般を引き受けると直美は明言してくれたが、この調子だと家計管理までこなしてくれそうだ。
「これならきょぉの晩御飯はぁ……直美の女体盛りだぁっ!!」
「……どうして献立は変になるのかなぁ」
「だいじょーぶぃ、盛り付けはおじさんのや・く・め」
「やりません……卵がないなら単純に焼肉でもしようか」
「ぶぅ……うーん、だけど焼肉だとおじさん野菜食べないからなぁ」
「直美ちゃんだって同じでしょ……でもそっかぁ、野菜かぁ……」
余り野菜は好きではないが、直美の栄養を考えればちゃんと買わないとまずいだろう。
普段は素通りする野菜のコーナーをじっくり見定めることにしたが、いまいち値段の高低がよくわからない。
仕方なく特売と書かれている辺りに手を伸ばすことにする。
「とりあえずキャベツを買っておこうか……」
「おじさん一つ丸ごとなんか二人で使い切れるの? 半分のでいいと思うよ」
「そ、そっか……後はキュウリと玉ねぎと……」
「何に使うかちゃんと考えてる? 安そうってだけで買っても腐らせるだけだからね」
「うぐっ!?」
これ以上ないぐらい的確な指摘だ。
確かに何度か食材を腐らせたことがあり、それで買い置きをしなくなったのだ。
「もぉおじさんったらぁ、ダメダメなんだからぁ~」
「あんまり自炊とかしなかったからなぁ……」
「コンビニべんとぉばっかり食べてるからそんなお腹プニプニになるのぉ……でもこれからは直美がきちんと管理してあげちゃうんだからねぇ」
嬉しそうに笑う直美、本当にありがたい。
直美の為に提案した同棲だが、助けられているのは俺のほうかもしれない。
「うん……悪いけどやっぱり家事は直美ちゃんにお願いするよ」
「まっかせといてぇっ!! お肉屋さんが買い取りたくなるぐらい完璧におじさんの品質管理しちゃうんだからねっ!!」
「家畜扱いですかぁ……うぅ……売り飛ばされるぅ……」
「大事なおじさんを売るわけないでしょ~……グラム1000円以上なら考えるけどぉ~」
「止めてぇ……それ以上稼いでくるからぁ~」
一生懸命お役に立てることをアピールしておこう。
「そうそう、可愛い直美を養うために頑張るのだぁ~……だけどもう無理はしないでよ?」
一転して心配そうに俺の顔を見つめる直美。
どうやら前の会社でのことを直美はまだ気にしているようだ。
手を伸ばし優しく頭を撫でて落ち着かせてあげる。
「わかってるよ、もう直美ちゃんに心配かけたりしないよ」
「ま、また子ども扱いしてぇ……えへへ」
直美は少し不満そうにしながらも気持ちよさそうに目を細めた。
俺もまた幸せをかみしめながら、直美を撫で続けるのだった。
「もぉ、おじさんのば……はぅ、こ、この曲はぁっ!?」
「や、ヤバい閉店時間が迫って……急ごう直美ちゃんっ!!」
「え、ええとあれもこれも買わないとぉ……おじさんのおばかぁあああっ!!」




