有給③
「おじさぁん、きょぉは何して遊ぶぅ~?」
「お金のかからないことがいいなぁ……」
「もぉ~、おじさんのけちぃ~」
「ケチって……この間買い物したでしょ?」
「そぉだけどぉ~……暇なのぉ~」
俺のベッドに横たわり不満そうな顔を俺に向ける直美。
ここの所直美はずっとこうだ、俺の部屋でゴロゴロしている。
(まさか直美ちゃんの夏休みが俺の有給期間と重なるなんてなぁ……)
正直こうして一緒に居られるだけで俺は満足なのだが、やはり年頃の直美はやることがないと退屈らしい。
「前みたいにお友達とゲーム配信でもすれば?」
「……あいつらどっちも彼氏持ちだから今頃デートしてやがんのぉ……直美もデートしたいなぁ」
「……直美ちゃんも、彼氏欲しいの?」
聞きながら自分の胸が痛むのを感じた。
直美にそっくりな幼馴染、彼氏が出来ると同時に変貌したあいつに傷つけられた記憶はまだはっきりと残っている。
直美なら恋人ができたところであんなことはしないと思うが、どうしても怯えてしまいそうになる。
(いや……多分それだけじゃない……俺は年甲斐もなく直美ちゃんを……)
「そりゃあ~欲しいよぉ~……どこかに居ないかなぁ、直美だけを愛してくれる人ぉ~」
笑いながらまっすぐ俺を見つめる直美。
目と目が合ってドキッとする、こうして改めて見るとやはり直美は美人だ。
俺みたいなくたびれたおじさんのそばにいるのは似つかわしくないと思ってしまうほどだ。
「……直美ちゃんは可愛いから、きっといくらでもいい人が見つかるよ」
「たった一人でいいんだけどなぁ~、直美のことちゃぁんと見てくれて……我儘聞いてくれて……彼氏役だけじゃなくて父親役までこなしてくれる人……近くに居ないかなぁ?」
「……きっと見つかるよ、直美ちゃんなら」
(俺がなるから……って言えないのが情けない……)
どうしても女性に見下される自分が、直美に釣り合えると思えない。
どうしても幼馴染のことが思い出されて、断られる恐怖が脳裏にちらついて離れない。
どうしても……万が一にも直美に嫌われたらと思うと一歩を踏み出せない。
「ちぇ…………おじさんのばかぁ」
直美が目を逸らして……切なそうに小さく言葉を洩らした。
俺はあえて聞こえないふりをした。
(本当に俺は……どうしてこう情けないんだろう……)
せっかく仕事の面でのストレスが取り除かれたというのにいつまでウジウジしているつもりなのだろう。
頭ではわかっているのだ、いつまでも直美との関係を曖昧なままにしておくわけにはいかない。
だけどどうしても心がそれを許してくれない、ふとした瞬間に直美と幼馴染が重なって見えてしまうのだ。
「……ごめん」
顔をそらして俺も小さく呟いた。
多分直美も聞こえていると思うけど、何も言わなかった。
「もぉゲームでいいからなんかないのぉ?」
重い空気を飛ばすように直美が話題を露骨に変えてきた。
渡りに船とばかりに俺もそれに乗ることにした。
「何かねぇ……じゃあこのゲームでも一緒にやる?」
「ええとぉ、エーとアールとケーで……アルケ?」
「直美ちゃん、やっぱり今日は勉強しようねぇ」
「な、なんでそぉなるのぉっ!?」
悲鳴を上げる直美をよそに、俺は粛々と勉強の支度を始めるのだった。
「そう言えば夏休み前に期末テストあったよね……どうだったの?」
「……秘儀、上着目隠しの術ぅ!!」
「ちょっ!? か、顔に柔らかいのが直接当たってるぅっ!?」
「きょぉはのーぶらでぇだったからねぇ……うりうりぃ、忘れろ忘れろぉ~」
「こ、ここまでするって……何点だったのさぁっ!?」




