休日⑪
「……上手く行かないなぁ」
不採用通知を処分しながらため息をつく。
この間出した履歴書のうち、一通が戻ってきてしまったのだ。
恐らく年齢が理由だろうが、まさか書類選考すら通らないとは思わなかった。
(はぁ……どうしたもんかなぁ……)
まだ三カ所ほど送ってはあるが、最初がこうだと幸先が悪い。
尤も仕事を辞めることを撤回する気にはならない。
あんな職場で働いて落ち込んで、直美に迷惑をかける気にはなれないからだ。
(まあどうしようもなければバイトとかパートで何とかお金を稼いで……最悪家を売ることも考えるかなぁ)
両親が残してくれた家は、父親が亡くなったことで皮肉にも保険によりローンは帳消しになっている。
二階建ての一軒家に土地付きとなれば、売ればそこそこの金にはなるだろう。
(親父には申し訳ないけど……俺一人で暮らすには大きすぎるしなぁ……)
子供の時からずっと暮らしてきた家だ。
思い入れはかなりあるが、それでも必要になれば手放そうと思う。
俺にとって直美の笑顔を守ることのほうが大事なのだから。
「おっじさぁん、どうだったぁ?」
「いや、これは駄目だったよ」
「あ、そう……まあ次があるある~落ち込まない落ち込まない~」
「分かってるよ、大丈夫……それよりせっかく休みなんだから何かしよっか?」
「いえぇい、そうこなくっちゃぁっ!!」
嬉しそうに俺の腕に飛びつく直美。
可愛くて思わず頭を撫でそうになってしまった。
(危ない危ない……またへそを曲げられたら大変だ……)
「直美ちゃんは何かしたいことある?」
「えっとねぇ、おじさんと直美の身体を使ってテトリスを……」
「よし、ゲームでもしようね」
「ぶぅ……まあいいけどぉ……」
俺の部屋に向かいゲームを物色する直美。
「何かお勧めのゲームとかないのぉ?」
「お勧めねぇ……どんなゲームをやりたいかにもよるんだけど……」
「そりゃぁ、直美に相応しい知的なゲームでしょぉ?」
(直美ちゃんでもできる知的なゲームかぁ……難しいなぁ……)
正確には直美でも勝ち目のあるゲームにしないといけない。
じゃないと確実に機嫌を損ねてしまう。
(ボードゲームなら……運も絡むだろうし行けるかな?)
「この領土を取り合うゲームはどうだい?」
「天地……なにこれ?」
「サイコロを三つ降って兵力を配置して、ポイント付きの領土を奪い合うゲーム」
「……他には?」
どうやらお気に召さなかったようだ。
「じゃあこの……酸素量に注意しながら海の底に潜って宝を拾って帰るゲームは?」
「……なんか地味ぃ」
楽しいのだが、確かに地味ではある。
「そっかぁ、じゃあこっちのコインを使って宝石を集めて十五点になったほうが勝つゲームはどうだ?」
実際にコインの模型を使って遊ぶゲームなだけに地味ではないだろう。
「宝石なんて直美にぴったりなゲー……なんか色々ありすぎるんですけどぉっ!?」
「いやコインとタイルカードとポイントが印字されているカードだけで、意外とルールは簡単……」
「却下ぁ~、これ絶対ルールを熟知してるおじさんに勝てないゲームだもんっ!!」
「そんなこと言われてもなぁ……じゃあいっそ協力するゲームでもするかい?」
「そんなのあるのっ!? やるやるぅっ!!」
(まあ勝ち負けがないほうが気軽にできるもんなぁ……)
俺はいくつかのゲームの中から、ルールが優しくかつ頭を使うゲームを取り出した。
「変な兎と手裏剣のカード……ザ・ミンド?」
「……本当に英語の勉強をしようねぇ」
「もぉ、おじさんったら遊ぼうってときにそーいうこといわないのぉっ!!」
怒られてしまった。
確かにこれから遊ぼうというのに無粋だったかもしれない。
「ごめんごめん……それでこれは少ない数字を出し合うゲームなんだ」
俺はまずレベル1と書かれた兎のカードを床に置いて、1~100までの数字が印字されたカードをシャッフルして一枚ずつ配る。
「ほうほう、それでどーするのぉ?」
「さっきも言ったけど二人の手札の中から小さい順にカードを出していくだけ……ただし会話もジェスチャーも一切禁止」
「なるほどねぇ……じゃぁ~一回やってみよぉ~」
お互いに配られた札を持つ、俺は14だった。
小さいほうだ、俺は顔を上げて直美を見てからカードを出した。
すぐに直美もカードを重ねる、56だった。
「これでクリアー……って単純すぎない?」
「今はまだ一枚だからね……レベル1をクリアーしたから次はレベル2だよ」
今度は二枚配る。
俺は25と76だ……直美の顔を見ると頷きながら一枚を出してきた。
23だ、かなりギリギリだったが俺は25を出した。
「っ!?」
驚いた様子を見せた直美、そして改めて顔を見合わせる。
俺が出さないでいると、恐る恐る直美がカードを出してきた。
59だったので俺が76を出して何とかクリアーすることができた。
「ぎ、ギリギリせぇ~ふぅっ!!」
「ほら、意外と難しいでしょ……でもよく59出してくれたねぇ」
「だっておじさんが出さないからよっぽど数が高いんだと思ってぇ」
「流石直美ちゃん、よくわかってるねぇ」
「えへへ、とぉぜんじゃぁんっ!!」
「じゃあつぎはレベル3……3枚だよ」
カードを三枚配る。
ようやくゲームの醍醐味が分かったようで直美はにんまりと笑った。
「なるほどねぇ~、これは二人がいかに以心伝心かを試せるゲームなんだぁ……さいこーじゃんっ!!」
「確かにお互いの心理を如何に読めるかが大事なゲームだねぇ」
「直美とおじさんの仲ならよゆーよゆー……ちなみにレベル幾つまであるのぉ?」
「人数によって変わるけど二人だと12まである……俺の最高記録は8だったかなぁ」
「……一人でやったの?」
「出来るわけないでしょぉ……何度も言うけど学生時代は友達いたのぉ……」
特に当時はとても親しい友人が一人いた。
幼馴染の一件で落ち込んだ俺を気遣ってくれて……だけど馬鹿な俺は一人にして欲しいと言って、それで縁が遠のいてしまった。
確か最後に遠くのほうへ就職したと聞いた気がしたが、あいつは今何をしているのだろう。
「ふぅん……まあいいや、早速続きやろぉっ!!」
「後細かいルールとしてこの手裏剣とライフだけど……」
俺は詳細を説明しながら直美とのゲームに興じるのだった。
「あぁあああっ!! お、おじさんの馬鹿ぁっ!?」
「えぇっ!? だ、だって7だよっ!? どう考えても一番小さいでしょっ!?」
「もぉおおっ!! 直美の顔をよく見てよぉおおっ!! またやり直しだぁあっ!!」
「うぅ……おじさん就活もしなきゃいけないし……そろそろやめにしませんかぁ?」
「やだぁっ!! レベル8超えるまでは絶対やめないんだからぁああっ!!」




