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金曜日

「おっかえり~、おじさぁん……今日は金曜日だよぉ~」

「ただいま直美ちゃん……そうだねぇ、じゃあお休み……」

「ちょっとちょっとぉっ!? 直美を無視するなんていい度胸じゃんっ!!」


 疲れているので窓越しに挨拶してベッドに横になろうとしたが、どうやら対応を間違えたらしい。

 ものすごい勢いで部屋を飛び出した直美が、すぐに俺の部屋に駆けつけてきた。


「とぉっ!!」

「ぐへぇっ!? ぼ、ボディプレスは止めてって言ったでしょっ!!」

「直美を無視するからでしょぉがぁああっ!!」


 思いっきり飛び掛かられてベッドに押し倒されてしまった。

 直美はそのまま四つん這いになり俺の身体の上に覆いかぶさると、舌なめずりをした。


「さぁ、直美を無視した罰だぁ……大人しくエッチなことされるのだぁっ!!」

「い、いや直美ちゃんっ!? 今俺お金ないからねっ!!」

「じゃぁ物でもいいよぉ……どぉせこの部屋使わないものたくさんあるんでしょぉ?」


 そう言って軽く首を動かして部屋の隅にあるゲームソフト群へ目を向ける直美。

 

「あれちょぉだい、そしたらぁ……していいよ、ほ・ん・ば・ん」

「な、直美ちゃん……」

「嫌なのぉ? 直美ってそんなに魅力なぁい?」

「い、いや物凄く魅力的だよっ!! だ、だけど……」

「はーい、今ので取引がせーりつしましたーっ!! お買い上げありがとーございまーすっ!! 直美をたっぷりと味わってねぇ」


 とても嬉しそうに笑いながら、直美はその豊満な胸を俺の顔に押し当てた。

 服越しに柔らかい感触と、香水に混じって女の子特有の香りが鼻に飛び込んでくる。

 それだけでもう俺は目の前がくらくらするほど興奮してしまう。


「……直美ちゃん」

「あ……えへへ、ようやくその気になってくれたぁ?」


 気が付いたら抱きしめていた。

 肉付きが良いのに、どこか折れてしまいそうな細い身体だった。

 子供の頃抱っこしていたのとはまるで違う……女の身体だった。


「ごめん……俺もう我慢できない」

「……しなくていいんだよ、おじさんはずっと頑張ってるんだから……直美の前では我慢しなくていいの……」

「……直美ちゃん、ごめん」


 謝りながら俺は両手を動かし、直美の顔を挟み込んだ。

 そして抵抗しないその顔を自らに寄せて、キスをした。

 直美の柔らかい唇の感触に蕩けそうになる。


(もっともっと……味わいたい……)


 舌を伸ばして唇の表面をなぞっていると、直美は口を開いて中へと誘ってくれる。

 そして直美もまた舌を伸ばして、互いに絡ませ感触を堪能する。

 ざらつく舌がこすれ合う刺激は、全身が震えるほど心地よかった。


「んぅ……んんっ……」


 直美が口の間から淫猥な吐息を洩らした。

 それが余りにエッチに思えて、俺はもっと聞きたくてさらに舌を絡ませる。

 ジュルジュルと口内に粘液が混ざり合う厭らしい音が反響する。


「んっ……んふぅ……ぷはぁ……お、おじさぁん……んちゅ……っ!?」

 

 直美が呼吸を求めるように口を離したが、俺はまだ味わい足りなかった。

 すぐに口を押し付けてディープキスを再開した。

 直美は軽く両手で俺の身体を押したが、決して拒むような真似はしなかった。


「……ぷはぁ、お、おじさぁん……な、直美とキスするの……そんなに好き?」

「……うん、凄く気持ちいい……直美ちゃんはこんなおじさんとキスするの辛いかな?」

「馬鹿ぁ……嫌だったらやってないってのぉ……ほら、もっとしていいんだよぉ?」

「……本当にごめん、俺もう止まれない……」

「うん……いいよぉ……おじさんになら……直美のしょ……」


『ピリリリリリリリリリッ』


 俺の携帯が鳴る無慈悲な音が響く。

 反射的に手を伸ばして、相手先の名前を見て全身から力が抜ける。


「……ごめん、仕事の電話だ」

「あ……うん」


 直美をどけて廊下に出て、上司の電話を取る。

 

『お前は何やってんだぁああっ!!』

「っ!?」


 第一声から怒声、そして罵声の嵐だ。

 内容はまたクレームらしい。

 別の奴の担当だというのに何故か俺に当たる上司。


『お前は近くに居たんだろうがっ!! 何で注意しなかったっ!!』

「す、すみません……ですが担当が違いますので……」

『そんなの言い訳になるかっ!! お前のせいで俺が責任を取ることになってんだぞっ!!』


 どうやら上司が確認を怠ったのも原因の一つらしい。

 その責任を俺に押し付ける気のようだ。


(何だよこいつ……どうしてこんなやつが人の上に立ってんだよ……)


 涙が出てくる。

 どうしようもないやるせなさと、それに逆らえない自分が情けない。


「で、ですけど……」

『いいか、今すぐ職場に行ってミスを訂正して来いっ!!』

「い、今からでは電車も何も……そもそも会社だって施錠されて……」

『そんなこと知るかっ!! いいから責任を……』


「もういいよ、おじさん……」

「な、直美ちゃんっ!? な、何をするのっ!?」


 直美が横から手を伸ばして通話を切ってしまった。


「もう辞めなよこんな職場……そんな顔してまで働くことないよぉ……」

「だ、だけど俺は……俺なんかが働ける場所は……」

「アルバイトでも何でもいいじゃん……お願いだから無理しないでよぉ……」

「な、直美ちゃん……泣いてるの?」

「な、泣きたくもなるよぉっ!! おじさんがそんな顔してたら直美だって辛いよぉっ!!」 


 直美が俺の胸に縋りついて泣き始めた。


「い、いっつも顔色悪くしてさぁ……一人で部屋に篭ってぼーっとしちゃってさぁ……い、いつ自殺しちゃうかって直美ずっと不安だったんだよっ!!」

「な、直美ちゃん……気づいてたの……?」

「分かるに決まってるじゃんっ!! ずっと一緒にいたんだよっ!!」


 号泣する直美の姿に胸が締め付けられる。

 先ほどまでの仕事で感じていたストレスより遥かに辛い。

 

「お、おじさんが居ないと直美も一人ぼっちなんだよっ!! お願いだからぁ……お金が必要なら直美もアルバイトでも何でもして頑張るから……もう辞めてよぉ……心配させないでよぉ……」

「……」

「うぅ……おじさぁん……」


 目の前で直美が泣いている。

 俺が生きる唯一の目的であり、一番大切な直美を泣かせてしまった。

 

(俺は……何をしてるんだ?)


 そんなにこの仕事が大事なのだろうか。

 一番大切な人を……俺のことを気遣ってくれる人を困らせてまで……続けることだろうか。

 

『ピリリリリリリリリリっ!!』


 携帯電話が再度鳴りだした。

 直美が憎いものを見るような目付きで手を伸ばそうとする。


(直美ちゃんにこんな顔させて……俺は馬鹿だなぁ……)


 その前に俺は携帯を手に取って通話を再開した。


『お前何切って……』

「うるせえ……」

『はぁっ!? テメー何言って……』

「うるせえって言ったんだよクソ野郎っ!! テメーの仕事ぐらいテメーでやりやがれっ!! 二度と電話してくんじゃねーぞっ!!」


 言いたいことを言い切りすぐに電源を落としてやる。

 物凄く心臓がドキドキしている。

 とんでもないことをしてしまったかもしれない。


「お、おじさん……?」

「直美ちゃんの言う通りだ……ありがとう」


 だけど、この子を泣かせるよりは全然マシだ。


「ちょっと本気で新しい仕事探すよ……バイトとかパートかもしれないけど……だから安心して」

「……おじさんの馬鹿ぁっ!!」

「えぇっ!?」


 安心させたつもりが何故か怒られた。

 そして叩かれる。

 少し、いやかなり痛い。


「馬鹿ぁっ!! あほぉっ!! 鈍感っ!! ドスケベぇっ!! ヘタレぇっ!! 童貞ぃっ!!」

「ちょ、な、直美ちゃんっ!?」

「本当に……本当に心配してたんだからねぇっ!! 直美……本当に……ぐす……」

「……ごめんね、本当にごめんね直美ちゃん……もう大丈夫だから……おじさん頑張るから……」

「だ、だからぁ……頑張るなって言ってるのぉおおおおっ!!」


 直美の攻撃がさらに激しくなった。

 もう俺ではどうすることもできない。

 仕方なくされるがままに殴られ続ける。


「もぉ……今度直美を泣かせたら罰金じゃすまないんだからねっ!!」

「わ、わかったよぉ……うぅ……身体中が痛い……」

「何か文句あるのぉっ!?」

「あ、ありませぇんっ!!」

「よろしいっ!!」


 ようやく納得してくれた様子の直美が、涙をぬぐいやっと笑顔を見せてくれた。

 それを見ているだけで何もかもがどうでもよくなる。


(こんないい子を……二度と泣かせるもんか……)


 そのためなら何でもやろうと思った。

 

「でもありがとうね、俺を元気づけるためにあんなエッチな事してくれてたんでしょ?」

「え、違うけど……直美がしたいからしてただけだよ?」

「……そうですかぁ」

「だぁかぁらぁ……続きしよぉよぉ~」

「……新しい仕事見つかったらね」

「……約束だよ、おじさん」


 にっこりと笑う直美に、俺もまた笑顔で頷いて返すのだった。

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 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに・・・辞めたぁ〜〜❗️
[一言] おめぇら、早く付き合ってしまえよ お願いします、おなしゃす、しゃす・・・・
[一言] 直美ちゃんの涙と叫びに 心を打たれました
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