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平日の夜㉑

「はぁ……疲れたぁ……」


 今日もまた激務だった。

 しかし珍しいことに何とか定時に帰ることができた。

 

(これなら直美ちゃんとご飯でも食べに行けそうだなぁ……)


 早速、直美に電話して待ち合わせしようと思ったが何故か繋がらない。

 不思議に思っていると、しばらくしてメッセージが帰ってきた。


『たすけて』

「っ!?」


 まさかのメッセージに心がざわつく。

 

(直美ちゃんに何がっ!? あんな格好してるから攫われたとかっ!?)


 そして誘拐犯に電話に気づかれないようメッセージを送ったのだろうか。

 俺は慌ててどこにいるのかメッセージを送り返した。


『じたく』


 予想に反して帰ってきたメッセージは簡潔で、しかも自分の家にいるという。

 訳が分からないが、とにかく急いで帰ろうと思い駅に着くなり全力で帰路を走った。

 そして明かりがついている直美の家に駆け込もうとして鍵に阻まれる。


「あぁああああっ!!」

「な、直美ちゃんっ!?」


 開いている二階の窓から直美の悲鳴が聞こえてきた。

 慌てて非常用の鍵を取り出して開錠すると、一直線に直美の部屋に向かった。


「直美ちゃん大……丈…………えぇ……?」


 ドアを開けた俺が見たのは……コントローラーを握ってテレビ画面に集中する直美の姿だった。


「全然大丈夫じゃなぁいっ!! ほら、代わってぇっ!!」

「え、ええとぉ……何がどうなって……っ!?」

「いいから、こいつらぶっ倒してっ!!」

『おっさんっ!?』『おっさんが来たっ!?』『最高の助っ人じゃんっ!!』

  

 直美のスマホから合成音声が流れてくる。

 よく見ればマイクなども用意されていて、ちょうど実況プレイの真っ最中だったようだ。

 画面を見れば確かにいつもやっているFPSの試合中だった。


「い、いやいきなり代わるのは駄目じゃ……」

「いーのっ!! こいつらチーム組んで初心者狩りしてる屑だもんっ!! やっちゃってよぉおっ!!」

「えぇ……だけど……うわぁ確かにマナーわるぅっ!?」

 

 チマチマ左右に動いたり倒したキャラの上で屈伸したり、あげく復活ゾーンの手前まで来て物凄くこっちを煽っている。

 しかもチーム構成を見ると透明になってこっちの行動を阻害する奴やテレポートする奴など初心者じゃ対抗が難しいキャラばかり使われている。


「……はぁ、もうおじさん心配したんだよ」

「だってこいつら凄いムカつくんだもんっ!! やっちゃってよぉっ!!」

「やれやれ……」


 仕方なくガンマンを選び、片っ端から気絶させて打ち抜いて突破口を開いた。

 その後は高台に陣取ってヘッドショットを狙いまくる。

 相手はこちらを舐め切ってまともなタンクを選んでなかったからいい的だった。

 

(腕前は金と白金ってとこだなぁ……確かにこの銀と銅が混じるランクに居るのは悪質すぎる……)


 サブアカウントをわざわざ用意したのか、それとも勝率を調整しているのか。

 どちらにしても酷い連中だと言わざるを得ない。

 こちらも別人がプレイしてるから言える義理ではないが……叩きのめしておこう。


「これで……よし、チームキルっと……これで勝ちだねぇ」

「やったぁっ!! ざまーみろぉっ!!」

『よくやったっ!!』『相手ざまぁっ!!』『おっさん強すぎ……』


 俺にキルされ過ぎて敵のチームワークが乱れたことと、味方が誰も諦めてなかったお陰で何とか勝利することができた。

 こちらもマナー違反なのに意外と非難のコメントが少なかったのは助かった。


「でもびっくりしたよ……お願いだからあんなメッセージはもう止めてね……」

「だってほんとーにイラっとしたんだもん……心配したぁ?」

「物凄く心配したよ……なお……ナァミに何かあったらどうしようかと思ったよ」

「えへへ……ごめんねぇ、今度お詫びにいいことしてあげるからぁ~」

『おーい』『実況中だぞー』『そのままエロ配信に切り替えてどうぞ』


 ついついいつも通りの会話をしてしまった。

 

「ほら、実況中だろ……続きでもやってなさい……おじさんは晩御飯でも買ってくるよ」

「えぇ~、もう少しで終了予定時間だからそれまで一緒にやってから食べに行こうよぉ~」

「……まあいいけど、もう手伝わないからね?」

「もちろん、あんなのが相手じゃなきゃナァミが負けるわけないんだからねっ!!」


 強気な発言でゲームに取り掛かる直美。

 その姿は幼馴染とは似ても似つかない。


(同じようなギャルになっても……中身はやっぱり別人なんだなぁ……)


 わかり切っていたことを再認識しながら、俺はどこか嬉しい気持ちになるのだった。


「こ、こいつまた強い……あぁ~っ!? な、仲間が抜けたぁっ!?」

「あらら……これじゃぁどうしようもないねぇ……」

「えぇえええっ!? お、おじさんパスっ!!」

「ちょ、お、おじさんでも一対六は無理……ぐ、ぐぅうっ!?」

『すげぇ三キルした』『だが無意味だ』『おっさん初敗北回』『ざまぁ』


(な、何か急にみんな俺に冷たくなってないかっ!? さ、さっきのやり取りをイチャついてると勘違いされたっ!?)

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― 新着の感想 ―
[一言] 傍から見れば、爆発しろ、と。 まあ、言われてもしょうがないですよねえ。なにせ生きる支えにまでなっているのだから。
[良い点] おっさんの認知度が面白いことになってる めっちゃ楽しそう キタ、おっさんキタ、コレデカツル
[良い点]  今日は直美ちゃんにとって、おじさんが助けになってくれたみたいですね。ゆっくり二人でなにかを育んでほしい。
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