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史郎と霧島母娘㊲

「だから何の電話だったのぉ~っ!? 早く教えてよぉ~っ!!」

「あ、後でって言ったでしょ……ちゃんと折を見て話すから……」

「やぁ~っ!! 今聞きたいのぉ~っ!! 史郎おじさんは直美に隠し事しちゃダメダメなのぉ~っ!!」


 むくれながら俺の両肩を後ろから掴み、ぶんぶん身体を振り回してくる直美。

 しかし直美の気持ちを知った以上、今すぐ話そうという気にはなれなかった

 もちろん直美にとっても祖父母に当たる人の事なのだからいつかは教えなければならないだろう。


(だけど直美ちゃんにまた苦しい思いはさせたくない……せっかくこんな楽しそうに過ごせるようになったのに……)


 ずっと精神が不安定だった直美はようやく最近になって心の底から幸せそうな日々を過ごせるようになったのだ。

 それなのにまたしてもこんな厄介な話を持ち出して……それこそ亜紀と再会した直後のような目には絶対に合わせたくない。


(まあ亜紀の時は結果的に物凄く良い形に落ち着いたけど、今回もそう上手く行くとは限らないし……やっぱりこの件は亜紀と相談して決めたほうが良さそうだもんな……)


 そうして俺達である程度話を付けておき、大体の対策が済んでから教えたほうが直美が下手に頭を悩ませずに済むと思う。

 だからこそこの場で伝えるのは止めておきたいのだが、どうしても聞き出したいらしい直美は不機嫌そうに俺の身体を揺さぶり続ける。


「史郎おじさぁ~ん教えてよぉ~……一人で悩んでたって絶対いい考えなんか浮かばないんだからさぁ~……少しは直美のことも信頼して頼ってよぉ~」

「直美ちゃんのことはちゃんと信頼も信用もしてるってば……それに本当に困った時はちゃんと相談するし……ただこの件はデリケートな問題でもあるからもう少し時間を置いておきたいんだって……」

「むぅぅ……じゃあ話せる時になったらちゃんとお話してよぉ……それも約束だかんね? 嘘ついたら史郎おじさんの童て……は駄目みたいだから髪の毛をカッパにしちゃうんだからねっ!!」

「か、カッパねぇ……う、うんまあいいよ……ちゃんと教えるから……うぅん、カッパかぁ……」


 直美の言葉に一瞬だけ河童のごとき髪型になった自分を想像しそうになり、余りに哀れな姿にそれだけでげんなりしてしまう。

 そんな俺の様子が面白かったのか、直美は更に興奮した様子でしゃべり続ける。


「そうだよカッパだよぉ~、しかもお母さんに頼んでコスプレグッツも用意しちゃうんだからねぇっ!! 沙悟浄の槍に甲羅の盾にぃカッパスーツもでしょぉ~……えっと後は源氏に伝わる小手にどっかの道場で皆伝した証も貰ってきてぇ~……」

「あ、あのねぇ……ゲームじゃないんだからそんな最強装備を整えようとしないでよぉ……何かと戦わせる気なのか?」

「うぅん、それはそれで面白そうだけどぉ大変そうだから一緒にお寿司屋さんに行くだけでいいよっ!! それを動画にとってアップロードしたら直美のフォロワー爆上げ間違いなしっ!!」

「はいはい、わかったから……絶対にちゃんとお話しするから罰ゲームはそのぐらいにして……」

「ちょっと直美ぃ、何史郎と二人で遊んでるの?」


 楽しそうに語る直美だったが、テンションが上がって声も大きくなったためかそれを聞きつけたらしい亜紀が隣の家の窓から顔を出してきた。


「あっ!! ちょーどいいところにっ!! おかーさん、史郎おじさん用のカッ……むぐぅっ!!」

「い、いらないからねっ!! そんなもの作らせないのっ!! き、気にしなくていいからな亜紀っ!!」

「もぉ、二人しておじ様やおば様のことを放って楽しんでちゃ駄目じゃないの……それに私抜きで盛り上がっちゃって、ズルいってばぁ……」


 余計なことを言おうとする直美の口を抑える俺、そんなこちらの様子を見て亜紀は呆れたようにため息をついたかと思うと恨めしそうにジト目で睨みつけてくる。


「い、いや別に亜紀を仲間外れにしたとかじゃなくて……そ、それに親父は疲れて少し休みたいらしいし……」

「でもおば様は私たちの為に料理作ってくれてるんだからちょっとは手伝ってあげたほうが……そう言っておいたでしょ直美ぃ?」

「むぐぐ……ぷはぁ……だ、だってぇ史郎おじさんが直美と二人で話したいことがあるって言うからぁ……」

「えっ!?」


 亜紀の言葉に少しは申し訳なさを感じたのか、俺の拘束から逃れた直美は視線を逸らしつつさり気なく俺のせいにしようとしてきた。


(い、いや確かに二人きりで話したいとは思ってたけど別に口に出してお願いしたわけじゃないのに……ず、ズルいぞ直美ちゃんっ!!)


「……そうなの史郎?」

「い、いやそんなこと……っ」

「うん、二人だけの内緒のお話したのっ!! そうだよね史郎おじさんっ!!」

「そ、それは……まぁ……」

「……ふぅん」


 何やら含みある口調で今度は俺をじろっと恨めしそうに見つめて来る亜紀。

 別に悪いことをしたわけではないのだが何となく居心地が悪くなってきて、思わず助けを求めるように直美の方へ顔を向けてしまう。


「で、でも大したことは話してないよね直美ちゃん?」

「それは秘密ぅ~……わかってるよね史郎おじさん、さっきにはお母さんにも内緒なんだからねっ!!」

「何よそれぇ……史郎、本当にそんな私にも言えないような大事な話してたの?」

「い、いや何というかデリケートな問題というか……な、直美ちゃ……っ!?」

「じゃあ直美、そろそろおばちゃんのお手伝いしてくるねぇ~っ!! じゃねぇ~っ!!」


 しかし直美はこの場の空気をかき乱すだけかき乱しておいて、さっさと逃げるように部屋を飛び出して行ってしまうのだった。

 

(はぁぁ……全く直美ちゃんはぁ……いやでもこれはある意味で好都合だよな……)


 ちょうど霧島家のことで亜紀と二人きりで話し合いたいと思っていたところだったのだ。

 そう考えると直美も居なくなった今の状況はまさに望んでいたものだとも言える。


「直美ったら調子いいんだからぁ……それで史郎、本当の本当に私には教えられない話をしてたの?」

「あ……い、いや何というか別にそんな重要な話じゃなくて……ただ直美ちゃんのプライバシーというかなんというか、とにかくそういうのに関わることだから……」

「うぅん……あの子も年頃だから隠し事の一つや二つはあるだろうけど……私じゃなくて史郎に相談するなんて……やっぱりまだまだ母親として駄目なのかなぁ……それとも私にだから言えないことだったのかなぁ……すっごく気になるんだけどぉ?」


 そんな俺の前で亜紀は上目遣いで、まるで懇願するように俺へ尋ねてくる。

 思わず答えてあげたくなるが、約束が約束なのと……内容的にもやっぱり亜紀に話すわけにはいかないだろう。


(こ、この追及をかわしてその上で霧島家の話し合いに持ち込まないといけないのは結構辛い……う、怨むよ余計なことを言って居なくなった直美ちゃん……っ)


 意外な難関にぶつかり、これをどう乗り越えようか俺は必死に頭を悩ませるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、直美ちゃんとの話は秘密として、亜紀にも話をしないといけないでしょうねえ。 どうなりますか。
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