史郎と霧島母娘㉟
「ふぁぁ……駄目だ、お前らには敵わん……眠くなってきたし、少し休むかな……」
亜紀とお袋が去ってから少しして、一方的に負け続けていた親父がついに音を上げた。
「親父、この程度で疲れるなんて体力落ちたんじゃないか?」
「あのなぁ、お前らと違って何時間も集中してゲームなんかできないってぇの……しかも一方的に負け続けてるしな……もう勘弁してくれ……」
「ごめんねおじちゃん、直美楽しくてつい本気出しちゃったの……ちょっと休んでまた後で続きやろうね?」
「直美がそう言うな……ふぁぁぁ……ああ、また後でな……じゃあ史郎、ちゃんと相手してやるんだぞ……」
眠そうに自分が寝泊まりしてる部屋へと向かう親父を見送りつつ、内心ちょっとだけ罪悪感を抱く。
何故なら俺が直美とどうやって二人きりになろうか考え続けていたせいで上手く集中できず、結果的に直美と一騎打ちさせるような形になってしまっていたからだ。
(直美ちゃんとタイマンしてたらそりゃあ普段ゲームやってない親父なんか疲れても仕方ないよなぁ……だけどある意味で丁度いいや)
狙ってやったわけでこそないが、これで当初望んでいた通り直美と二人きりになれたわけだ。
後はさり気なく直美に亜紀の両親であり自身の祖父母でもある二人のことをどう思っているか聞き出せばいい。
(ただこの場所だといつ邪魔が入るかもわからないし、一旦俺の部屋に移動したほうが良さそうだな……)
「直美ちゃん、えっとさ、二人で勝負するなら……」
「よぉし、史郎おじさんと一対一でしょぉぶするならぁ……やっぱお部屋でTVゲームっしょっ!!」
「あ……そ、そうだねっ!! そうしようっ!!」
場所を変えようと提案しようとしていたところ、直美の方から水を差し向けてくれる。
これなら話に乗るだけでいい……俺は一も二もなく頷きつつ直美と共に自分の部屋へと向かった。
そしてドアを閉めて改めて直美に何と切り出そうか考えようとした……ところで直美に後ろからギュっと抱きしめられてしまう。
「な、直美ちゃん……ど、どうしたの?」
「……しろぉおじさん何か隠してるでしょ?」
「えっ!?」
「さっきのお電話からずっと変だもん……直美の目はごまかせないんだからね……」
「っ!?」
そう言って更に強く俺を抱きしめて顔を埋めてくる直美。
(き、気づいてたのか……いや違和感を抱かれてるとは思ってたけど直美ちゃんはさっき、俺のごまかしに乗るようなことを言ってたのに……)
ゲームに集中できていないことは指摘されていたが、直美だけは自分の腕が上がったからだと自慢げに言っていたではないか。
「どぉせまた直美かお母さんの事を気遣って……おじちゃんとおばちゃんにあくいんしょー与えたくないから皆の前じゃ平気な振りしてたんでしょ……?」
「あ……だ、だからさっきは俺のごまかしに乗るようなこと言って……」
「うん……史郎おじさんは絶対に直美達のことを想って行動するって分かったから……ごまかすにしてもその方が直美達に都合がいいんだろうなって思って……史郎おじさんのやること信じてるから……」
「そ、そうだったんだ……ありがとう直美ちゃん……」
「お礼は良いからぁ……それより直美にはちゃんとお話してよぉ……何のお電話だったのアレ?」
そこでようやく身体を離した直美は、さっと俺の前に回り込むとじっとこっちの顔を見つめながら尋ねて来る。
しかしこう改めて聞かれると、どう切り出すか少し迷ってしまう。
(ストレートに亜紀の母親が面会を希望してるって教えていいものか……困ったなぁ……)
直美も色々と幼い面もあるがこれでもちゃんと成長している。
だから電話の内容を伝えれば、それに対して自分なりの考えを持って答えてくれることだろう。
それでも教えにくいのは、やっぱり直美が悲しんだり苦しんだりするところを俺が見たくないからだった。
(何より亜紀の母親を今後どうするかって話にも繋がるし、当然そこからは亜紀の父親ともどうするかってことになるし……絶対に不快な話題になっちゃうもんなぁ……)
少なくとも直接の親子であり、ある意味で霧島家がここまで歪む元凶の一つであった亜紀には事情を説明しないわけにはいかないだろうと思っていた。
だけど出来れば直美には……幼いうちからずっと家族のことで思い悩んできたこの子にだけは、もう家庭のことで余計な苦しみを背負って欲しくなかった。
(だから直美ちゃんには祖父母をどう思っているかを聞いて、その上で話すかどうか決めたかったんだけど……この調子だとやっぱり話さないと駄目かもしれないなぁ……)
それでもできる限り直美に余計な負担を掛けなくて済むように考えながら、俺は口を開き始めるのだった。




