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史郎と霧島母娘㉞

「ふっふぅんっ!! 直美のあっしょぉっ!!」

「もぉ、少しは手加減しなさいよぉ……ふふ……」


 皆で和気あいあいと時間を過ごしながら、俺は何とか亜紀か直美と二人きりになれるチャンスを見計らっていた。

 途中でどちらかが何かしらの用事で席を外したら、俺も適当な理由を付けてこの場を離れて……そう考えていたのだが中々上手く行かなかった。


(普段の休日ならこうして昼間に遊ぶときは、大抵亜紀が途中で抜けて家事をやりに行くんだけど……やっぱり俺の親父たちがいるから皆で過ごすのを優先しているのかな?)


 或いは普通に皆で遊ぶことを楽しんでいるのか……実際に直美などはいつも以上に楽しそうにはしゃいでいるし、そんな直美の反応を見て亜紀も自然と笑みを浮かべているぐらいだ。


(まあ別に急ぐことでもないし……親父たちが帰るまではこの話題は忘れてのんびりして……したいんだけどなぁ……)


 亜紀の母親に次いで父親の話題まで連続して出てしまったことで、俺はどうしてもこのことを意識せずにはいられなかった。

 おかげでゲームに集中できず、直美の独壇場を許してしまう。


「本当に強くなったわねぇ……前は史郎とどっこいどっこいだったのに……」

「ここまで一方的とはなぁ……まあ史郎も大人になって少しは腕が落ちたのかな……」

「うぅん、普段はもう少し張り合ってるんですけど……史郎ちょっと調子悪いの?」


 そんな俺を親父たちと亜紀は少しだけ不思議そうに見つめて来る。

 俺の不調を簡単に見抜かれてしまい、ちょっとだけドキッとしてしまう。


(逆に言うとちょっとしたことでも違和感を抱けるぐらい俺のことを知っている……親しい間柄だって証拠なんだろうなぁ……ありがたいことだけど、まだ正直に言うわけには……)


 それだけ親しい相手を一時的にとはいえ欺かなければいけないのは心苦しい限りだ。

 しかしまだどうするべきか気持ちが定まっていない以上、この不調の原因を話すわけにもいかなかった。


「い、いやそういうわけでは……たまたまだよ……」

「たまたまじゃないでしょぉっ!! 直美がじょーたつしたのぉっ!! もぉ史郎おじさんだって目じゃないんだからぁっ!!」


 だから適当に誤魔化そうとしたが、違う意味で直美が食いついてきた。


「もぉ、直美はすぐにちょーしに乗るんだからぁ……」

「事実だもんっ!! ねぇ史郎おじさぁんっ!!」


 自慢げに胸を張る直美のおかげで話が逸れ初めて、丁度いいので俺もその流れに乗ることにした。


「あはは……そうかもしれないねぇ……」

「ほらほらぁっ!! きーたきーたぁっ!? 直美の勝ちぃっ!! だからごほーびとしてお昼ご飯は直美の大好物でごちそーを作るのだぁっ!!」

「はいはい……って、もうこんな時間なのね……」

「おや、本当だわ……つい熱中しちゃったわねぇ……」


 調子に乗った直美の更なる言葉につられて皆で時計を見上げて、もう既に昼飯時になりかけていることに気が付いた。

 ついさっき朝食を食べたばかりのような気がしていたが、考えてみれば遊ぶ前にも軽い談話をしたり病院からの電話を受けたりして予想以上に時間を費やしていたようだ。


「じゃあ私は昼食作ってくるから、二人はおじ様達と……」

「あ……い、いやじゃあ俺も手伝……」

「ちょっと待った、亜紀ちゃんはまだ洗濯とかやることがあるでしょ? だから昼食は私が作るわよ」

「おぉっ!! おばちゃんのりょーりひっさしぶりぃっ!! おかーさんのも好きだけど、せっかくだから久しぶりに食べたい食べたぁ~いっ!!」


 さっと席を立ちあがった亜紀を見て、良い機会だと思い手伝いを装って二人きりになろうとした。

 しかしその前に俺の母親がそう提案して来て、すぐに直美も乗っかってきてしまう。


「それは……凄くありがたいですし私もおばさまの料理……久しぶりに食べてみたいですけど……いいんですか?」

「ええ、構わないわよこれぐらい……それにこうして勝てない遊びに付き合ってばかりだと逆に疲れるからねぇ」

「あー、じゃあよろしくお願いします……」


 果たしてあれよあれよという間に話が決まってしまい、俺が介入する余地は無くなってしまう。


(多分亜紀は霧島家に戻って家事を始めるよな……流石にそれを追いかけていくのは目立ち過ぎる……)


 下手に手伝うと言っても母親の料理の方に力を貸せと言われるのが落ちだ。

 だからせっかくの機会だというのに見過ごすしかなかった。


「じゃあ食事出来たら呼んでください……直美も遊んでばかりいないでおば様を手伝ってあげなさいね?」

「えぇ~っ!? 直美がゲームに勝ったご褒美でしょぉ~……ブゥブーっ!!」

「我儘言わないの……じゃあまた後で……」

「ああ、また後で……」


 実際に去って行った亜紀を見送りながら、俺は仕方なく別の方法を考えるのだった。


(亜紀が駄目なら先に直美ちゃんから……上手く二人きりになれれば……だけどこの調子だと難しいかもしれないなぁ……) 

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― 新着の感想 ―
[一言] なかなか難しいですねえ。 そこまで急ぐ話ではないけれど、そこまで余裕があるでも無し。やっぱり両親が帰ってから、でしょうか。
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