史郎と霧島母娘㉜
電話を終えて食卓に戻った俺を皆は少し訝し気に見つめて来る。
そこそこの長電話だったことに加えて、漏れ聞こえていたであろう僅かな内容だけでも深刻そうな雰囲気が伝わってしまったのだろう。
しかし心配をかけても仕方が無いし……何よりこの事態に俺自身がどう対処しようか悩んでいるのだから何も言うわけにはいかなかった。
(ただこれは霧島家の問題でもあるからなぁ……とりあえず親父たちが帰るまでは保留にするけど、その後は……最低でも亜紀には伝えないとな……)
果たして母親のことを聞かされた亜紀がどう反応するのか……余り良い反応が想像できないだけに、考えるだけで落ち込みそうだ。
「史郎、あんた顔色悪いわよ……一体何の電話だったんだい?」
「そ、そうだってば……やっぱり変だよ史郎おじさぁん?」
「その……私達で良ければ相談に乗るから……どんなことでも遠慮なく言って欲しいな……?」
「……心配かけてゴメン皆、だけど本当に今すぐ俺がどうなるとかそういう話じゃないから……ただ少し考えたいことがあるから話すのはまた今度ってことで……」
そんな俺を見て、やっぱりみんな心配そうな声を掛けてくれる。
それ自体は本当にありがたい限りだけれど、どうしても今すぐ話す気にはなれなかった。
まだ俺が霧島家と……亜紀と直美の両親とどうやって関わっていくかの気持ちが定まっていないから。
(或いは今の心地よい空気を少しでも味わっていたいからか……いや、でもそんな情けない事じゃ駄目だよな……しっかりしろ俺……っ)
気を引き締め直した俺が何とか笑顔を浮かべると、皆は未だに何か言いたそうではあるがそれ以上追求してくることはなかった。
「そうかい、あんたがそう言うなら良いけど……」
「ああ、本当に困った時は素直に言うから……それより今度こそ皆で遊ぼっか?」
「……わぁいっ!! 史郎おじさん話が分かるぅっ!!」
「……やれやれ、勉強しなくていいってなったらこれだもんねぇ」
それどころかあからさまな話題の切り替えに、直美と亜紀はすぐ乗って来てくれた。
恐らくは内心は気になって仕方がないだろうに……それだけ俺の事を信じてくれているということなのだろう。
(絶対にこの信頼は裏切らないようにしないとな……信頼だけじゃない、二人の気持ちも……幸せな生活も……全部俺が守るんだっ!!)
笑顔の裏で改めてそう決意を固めながら、俺は皆で遊べるゲームを探しに直美と共に居間へと向かう。
「ふっふぅんっ!! 何にしようかなぁ~?」
「あんまり複雑なのは勘弁しておくれよ……私達はもう年だし、やり込んでるあんたらには敵わないんだから……」
「そうよ直美、おじ様達も楽しめるシンプルな奴にしなさいよ……トランプとかいいんじゃない?」
「むぅぅ……昨日もそう言ってトランプやったじゃぁん……それじゃあちょっと盛り上がりに欠けるような……あっ!! じゃぁさじゃあさぁ~、せめて優勝者には最下位の人から賞金が出るルールにしようよっ!!」
「えぇ……そ、それはどうかなぁ……?」
直美は二日連続で同じ遊びをすることに一瞬不満そうな顔を見せたが、突然いいことを思いついたとばかりに叫び出した。
「な、直美ぃ……昨日も言ったけど賭け事は……」
「賭けって程じゃないよぉ……ただビリの人が一位の人に百円支払うだけぇ~……ちょっとしたアイス代ぐらいなんだからいいでしょぉ~?」
「まあそれぐらいならあたしらは別に構わないけど……直美はそんなにお小遣いに困ってるのかい?」
「そ、そういうわけじゃないけどぉ……ちゃんと史郎おじさんからも、おかーさんだってたまにくれるし……」
「へぇ……」
そこで不意に直美が亜紀からもお小遣いをもらっていると口にして、それまで知らなかった俺は思わず感心して声を漏らしてしまうのだった。
「い、いや私はそんな……ただお洋服が売れた時だけしかあげられてないし……生活費も史郎に頼りっぱなしで……ごめんね直美、もっと私がしっかりしてたら……」
「べ、別にそーいうこといいたいんじゃないのぉっ!! おかーさんからは十分貰ってるってばぁっ!!」
「そうだぞ亜紀……お前は本当に頑張ってるって……そんな自分を卑下すんな」
「確かにこっちに来たばかりの俺が言うのも何だが亜紀ちゃんはしっかりしてると思うが……生活費かぁ……そう言えばちゃんとあの人からは振り込まれているのか?」
「っ!!?」




