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史郎と霧島母娘㉚

「よぉしっ!! そろそろ皆でお遊びタイムだぁっ!!」


 朝食後の和やかな談話が一段落下あたりで、唐突に直美がそう宣言し始めた。


「直美ちゃんたら……お勉強はしなくていいの?」

「も、もうその話はお終いなのぉっ!! せっかく今はおじちゃん達が居るんだから一緒に遊ぶのが先決でしょぉっ!!」

「そんなこと言ってあなたいつだって遊んでるじゃないのぉ……本当に大丈夫なの?」

「お、おかーさんまでぇ……まだ受験まで時間はあるし後で美瑠と陽花にお願いしてお勉強会するからいーのぉ……おじちゃんとおばちゃんだってせっかく来たんだから皆で遊びたいよねぇ?」


 遊ぼうとばかりする直美を見て、先ほど進学したいと聞いていた俺と亜紀は……直美の学力を知っているが故につい心配して咎めそうになってしまう。

 しかし当の本人が呟いた通り確かにせっかく俺の両親がやってきているというのに、いつでもできる勉強をさせるのも悪い気がする。


「別にこっちのことは気にしなくていいぞ直美、明日には帰るがその気になればいつでも時間を作って遊びに来れるからな」

「そうそう、何なら亜紀ちゃんが免許を取ったらその運転でそっちが遊びに来てもいいぐらいよ……だからお勉強するならしたほうが……」

「お、おじちゃん達までぇ……あ、後でちゃんとお勉強するってばぁ……だから今は遊ぼうよぉ~」


 尤も俺の両親は無理して構わなくていいと言ってくれるが、直美は甘えたような声を出して両親の身体に飛びついてゆすり始める。


(それだけ遊びたいのか、それともお勉強が嫌なのか……両方っぽいなぁ……今後は俺と亜紀でちょっと真面目にお勉強するところを見守った方が良いかも……)


 今までは直美の我儘に振り回されっぱなしだったが、彼女自身の人生を思えば少しは厳しくしていく必要があるかもしれない。


「ふふふ……はいはいわかったから身体をゆすらないの直美……」

「もぉ、仕方ないわねぇ……私達が帰った後ちゃんとお勉強しなさいよ?」

「はぁいっ!! さっすがおじちゃんおばちゃん話が分かるぅっ!! 二人ともこー言ってるし史郎おじさんとおかーさんもいいでしょぉっ!?」

「直美ったらすぐおじ様たちを巻き込んでぇ……」

「やれやれ……分かったよ、じゃあ何をしようか……」


 それでも今日のところは直美に甘い親父たちの顔に免じてそれ以上言うのは止めておいた。

 代わりに皆で遊ぶゲームを探そうと腰を上げた……ところで自分の携帯から着信音が鳴り響き始めた。


「ごめんちょっと電話だ……最初は俺抜きで遊んでてよ」

「あら? 珍しいわねあんたの携帯が鳴るなんて……あたしら以外に連絡取り合う相手なんかいたのかい?」

「お、おば様……一応史郎も嵐野君とか……あ、あと会社関連の連絡だってありますし……」

「お母さん、それフォローになってないよぉ……実際に史郎おじさんの着信履歴、トールおじさんか直美かおかーさんで埋まっちゃってるしぃ……大体どぉせ今回のもとーるおじさんでしょぉ?」


 まさかこのタイミングでなると思わなかった俺は携帯を取り出すのに手間取ってしまうが、その間にお袋と直美は好き放題言ってくれる。


(い、いいんだよ……大人になるにつれてお友達は減るんだからむしろこれだけの相手と連絡を取り合えてるだけで十分だっての……べ、別に俺がポッチとかそういうわけじゃ……あっ!?)


 少し涙目になりつつようやく携帯を取り出した俺は、そこで表示されている相手先の名前を見て驚きに目を見開いて固まってしまう。


「ん? どしたの史郎おじさん?」

「し、史郎?」

「どうしたんだい急に固まって?」

「会社からか?」

「…………」


 そんな俺の様子を見た皆は困惑した様子で尋ねて来る。

 しかし俺はあえて何も言わず無言のまま廊下に出てから電話に出て、皆に聞こえないように声を潜めながら通話を始めるのだった。


「……もしもし」

『あっ!? よかったぁ通じた……済みません突然、霧島様の自宅にご連絡差し上げたのですが繋がらなかったので書類に書かれている二番目の連絡先であるこちらに掛けさせていただきましたが……雨宮史郎様でお間違いないでしょうか?』

「はい、あっています……それより連絡してくるってことはその……あの人に何かあったんですか? 入院中の……霧島亜紀の母親に……」

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、いい知らせではないのでしょうかねえ。 亜紀は多分まだ母親には顔合わせていないんですよねえ。
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