平日の夜⑱
マイルドに書き直しました。
元の原稿は別の場所に乗せておきます。
「はぁ……きつい……」
旅行に行ってきたらしい女性陣のお土産は見事に俺の分だけはぶられていた。
謝る振りをして見下し嘲笑う醜い表情を思い出すと震えてくる。
気にすることはないと自分に言い聞かせてもどうしても女性恐怖症は強くなる一方だ。
(早く直美ちゃんに会いたい……癒されたい……)
直美と一緒にいる時間だけが救いだった。
あの子がいつか誰かのものになるとしても、今だけは俺だけの直美でいてほしかった。
(笑顔が見たい……他愛のない会話がしたい……)
もしもそれがお金目当てでも構わない。
直美が居なければ俺はもう生きて行けそうにない。
急いで自宅に向かい、ドアを開錠しながらチラリと隣の家を見た。
(明かりがついてない……だけど電話したときは早く帰ってこいって言ってたし……)
恐らく俺の家にいるのだろう。
そう思って中に入って、一階にいないことを確認するとすぐに二階に上がった。
そして俺の部屋までたどり着くと中から明かりが漏れていた。
(やっぱりここにいた……っ!?)
『……だろ、ほらこんなに……』
『……ああん……だめぇ……』
部屋の中から男の声が聞こえた。
そして女の色っぽい声もだ。
(な、なにしてるの……直美ちゃん……っ)
かつての幼馴染が彼氏と共に見せつけた光景と嘲りがフラッシュバックする。
凄まじい吐き気が込み上げて、急激に全身から力が抜けていった。
(は、はは……早く帰れって……見せつけるつもりだったのかな……)
立ち上がろうにも力が入らない。
もうこのまま死んでしまいたかった。
『……からぁ……帰ってきちゃ…………』
部屋の中から声が聞こえてくる。
耳を塞ぎたくて、だけどそんな気力もなかった。
俺はもう何もかもに絶望してそっと目を閉じた。
『昭にも見せつけてやればいいだろ……ほら、いい加減こっち見ろよ月音』
(……誰だそいつ……いや、何か聞き覚えがあるような……)
しかし耳へ入った名前は俺の想像していたものではなかった。
何よりどこかで聞いたことがあるような気がして、俺は最後の力を振り絞って部屋のドアを開いた。
「おっじさーん、おかえ……ど、どうしたのっ!?」
「な、直美ちゃ……」
「もぉしっかりしてぇっ!!」
廊下に崩れ落ちた俺を見て、俺のTシャツを着た直美が駆けつけてきた。
ベッドに引きずられていきながら部屋の中を見回すが男の姿はない。
代わりにパソコンが起動していて……エロゲーの画面が見えた。
(あ……そうだ、確かなんかのエロゲーでそんなシーンがあった……)
ただの勘違いだったと気づいて、だけど思い起こされたトラウマで受けた衝撃が強すぎて起き上がることはできなかった。
「おじさんしっかりぃっ!! 救急車呼ぶっ!?」
「……大丈夫だから」
「全然大ジョーブじゃないでしょぉっ!? 何があったのっ!?」
俺を心配して声をかけてくれる直美、だけどどうしても声が幼馴染のそれと重なって聞こえてしまう。
「本当に大丈夫だから……お願いだから一人にして……」
「絶対やだぁっ!! こんな状態のおじさんを一人になんてできないよぉっ!!」
俺を抱きしめる直美、その体温が温かくて……必死に顔を見ないようにその胸に頭を押し付けた。
「……よしよし、大丈夫大丈夫……直美はここにいるから……ずっと居てあげるから」
「ふっ……ぐぅ……」
心が苦しくて締め付けられて痛くて辛くて訳が分からないまま、涙が流れてきた。
情けないけれどどうしても泣くのを止められない。
そんな俺を直美は優しく抱き留めて、いつまでも頭を撫で続けてくれるのだった。
「……落ち着いた?」
「落ち着いたよ……ありがとう」
しばらくしてようやく直美の顔を見れる程度になれた。
だけど未だに心の中には痛みが残っている。
やっぱりあの幼馴染の一件は、俺に消えない傷を刻み込んでいったようだ。
「それで……何があったの?」
「……ごめん、言えない」
「何でも言ってくれていいんだよ……絶対笑ったりしないし、馬鹿にもしない……誰にも言わないから……」
「ごめん……これだけは言えない……ごめん」
頭を下げる。
(言えるわけがない……直美ちゃんが……幼馴染に似ていて……トラウマが刺激されるだなんて……)
「どぉしても駄目? 直美は信用できない? 頼りない?」
「そんなことはないよ……だけどこれだけは……どうしても言えないんだ」
「……わかったよぉ、もう聞かない……けど辛いときは言ってよ……いつでも駆けつけるんだからね」
「ありがとう直美ちゃん……俺なんかにそこまでしてくれて感謝してるよ」
「当たり前だよ……だって先にしてくれたのは……ううん、何でもない」
笑って直美は俺に抱き着くと強引にベッドへと連れ込んだ。
「ほらぁ、今日はもぉ寝ちゃお?」
「……直美ちゃん一緒に寝る気?」
「とぉぜんでしょぉ? おじさんを一人にしておけないよぉ」
そう言って俺を抱き枕にするように抱きかかえる直美。
そして抱きかかえられた左手の指先が、何故かズボンではなく直美の身体に直接触れた。
「な、直美ちゃん……し、下はどうしたのっ!?」
「着替えるのめんどぉ~だったからねぇ……触ってもいいよぉ、ワンタッチ千円ねぇ~」
「そ、そんな……な、直美ちゃん……ふ、太ももが……あぁ……っ!?」
「にっひっひぃ、美少女学生のお・は・だ……触り心地はどぉ?」
耳に優しく吐息を吹きかけて、俺を興奮させて弄ぶ直美。
だけどやっぱりその表情に俺を見下す意図はなくて……純粋に楽しそうだった。
(やっぱりあいつとは違う……直美ちゃんは……俺の……)
直美のぬくもりに心が満たされるのを感じながら俺はそっと目を閉じるのだった。
「んぅ……はぁ……んふぅ……」
「ちょ、ちょっと直美ちゃんっ!? ひ、人の身体を使って何してるのぉっ!?」
「だってぇ、脚が痒いんだもぉん」
「ほ、本当にここ脚なのっ!?」
「そうだよぉ~……あん、気持ちいぃ~」




