史郎と霧島母娘㉘
「……ふぁぁぁ……今何時だぁ?」
自然と目が覚めた俺は寝ぼけ眼をこすりながら時刻を確認する。
果たして意外と早い時間に目覚めたのだと知った俺は、もうひと眠りするか起きるか軽く悩んだ。
そして隣にいるであろう直美と亜紀がどうしているのか見てから決めようと窓に近づいたところで、ふと居間の方から何か物音が聞こえてくるのに気が付いた。
(なんだぁ……ってそうだ昨日から親父たちが泊まりに来てたな……お袋あたりが朝食でも作ってくれてるのかねぇ……だけどそれにしては妙に騒がしいというか盛り上がっているような……?)
恐らく俺の両親が何かしているのだろうと結論付けたのだが、どうにも違和感がある。
だから先に居間がどうなっているのか確認するために廊下へと足を踏み出した。
「……っ!!」
「…………」
途端に伝わる音がより鮮明になり、俺の両親が誰かと話しているのがわかった。
尤もその会話の内容までは聞き取れなかったが、少なくとも言い争いなどの不穏な空気ではなさそうだった。
(……というかこの声……何よりこの時間帯に家を尋ねてくる人間なんか限られてるし……ひょっとして俺がビリッケツってことかぁ?)
その時点で大体のことを察した俺が恐る恐る声の聞こえる方へと向かっていくと、より鮮明になった声がはっきりと聞こえてきた。
「……っ!! だから直美のかちぃっ!! おじちゃんの負けぇ~っ!!」
「あはは、本当に直美はゲームが強いなぁ……ふふふ……」
「おば様、こっちの味も見て頂けませんか?」
「貴方の味付けで良いと思うけど……うん、おいしいわよ」
果たしてそれは想像通り直美と亜紀が俺の両親と和気あいあいと会話している声であった。
どうやら早く起きたつもりでいたが、俺の目覚めが一番遅かったらしい。
(あぁ……これ絶対何か言われるパターンだ……はぁ……)
小言を覚悟しながらも皆が居る場所に顔を出す。
すると台所には並んで料理する亜紀と母親が居て、居間の方では直美と父親がトランプをしている。
(まさか直美ちゃんにも抜かれるとは……というか皆起きてるなら俺も起こしてくれよぉ……ぐすん……)
俺抜きで盛り上がっている空間を見て少し疎外感と寂しさを覚えるが、同時に直美だけでなく亜紀も俺の両親と馴染んでいる様子を見て安堵もしていた。
恐らく俺の両親はもうほぼ完璧に亜紀のことを認めて受け入れてくれたのだろう……そう思えば、この光景もどこか微笑ましく感じられるのだった。
「ふふ……おはよう、皆早い……」
「ありがとうございます、じゃあこっちも……」
「やれやれ、そんなに頑張って私の味付けを覚えなくても大丈夫よ……史郎はあんたの手料理なら何でもおいしく食べるだろうし……」
「もういっかぁいっ!! おじちゃんもう一回なおみとしょぉぶぅっ!!」
「わかったわかった……史郎の分もおじちゃんが何度だって相手をしてあげるからなぁ」
「おーい……もしもぉ~し……」
(うぅ……み、皆手元の作業に夢中でこっちに気づいてくれない……もしかして俺って要らない子なのかなぁ……ぐすん……)




