史郎と霧島母娘㉗
「別にお邪魔虫してるわけじゃないの……ただ今日ぐらいは早く休んで……」
「だってまだ眠くないんだもぉん……ほんのちょっとだけだからいいでしょぉ……?」
窓越しの会話に亜紀も加わり騒がしくなってきた。
それ自体はむしろ好ましいところなのだが、今日のところは両親が泊まりに来ている。
もしあの二人にこんな夜中の会話を聞かれたら気恥ずかしいし、何より直美を早く寝かせると言っておいて夜更かしを助長するような真似をしていると思われたら説教されかねない。
「ま、まあ直美ちゃんの言いたいことは分かるけど親父たちも居……そう言えば直美ちゃん、聞きたいことがあるんだけど……」
だから俺も直美を説得すべく口を開こうとしたところで、ふと気になることを思い出して尋ねてみた。
「んぅ~? 史郎おじさんが直美にお尋ね事なんて珍し……ま、まさかスリーサイズぅっ!? いやぁ~んっ!! 史郎おじさんのエッチぃっ!! だけど史郎おじさんが相手なら特別に教えちゃうんだからぁっ!! えっとねぇ上から八十……」
「ち、違うからっ!! な、何でそうなるのっ!?」
「えぇ~っ!? 直美のこのナイスバディにきょぉみがないっていうのぉっ!? ま、まさかおかーさんの方が気になるっていうんじゃっ!? で、でもHはともかくBは直美の方が上だか……もがっ!?」
「な、直美っ!? 変なこと言わないのっ!!」
しかしそこで何かを勘違いしたらしい直美は興奮した様子でとんでもないことを口にし始めた。
そんな直美を慌てて止めようとするが、向こうは更に何か誤解した様子で亜紀の事にまで言及し始めた……ところで亜紀によって後ろから口を抑え込まれてしまう。
(な、何を言い出すんだ直美ちゃんは……何で俺がスリーサイズを知りたがってるだなんて誤解を……い、いやまあ全く興味が無いとは言わないけど……服の上からだと殆ど同じに見えるけど意外と中身に違……って何考えてんだ俺はっ!?)
少しだけ聞こえてしまった内容に気を取られそうになるが、必死に頭をふって思考を切り替えようとする俺。
「むぐぅっ!? むぐぐぐぐぅっ!!?」
「そ、そんなに暴れないのっ!? 向こうでは史郎のおじ様たちが休んでるんだから静かにしなきゃ……っ!!」
「むぅぅぅ……っ」
その間も窓の向こうでは直美と亜紀がバタバタと争っているが、俺の両親の話題が出ると流石に悪いと思ったのか直美も抵抗を止めたようだった。
果たして直美の様子を少し窺ってから亜紀は手を離したが、直美は露骨に不満タラタラな表情で俺と亜紀を睨みつけて来るのだった。
「もぉぉ……直美はただ聞かれたことを答えてあげよーとしただけなのにぃ……すぐ直美を悪者扱いするんだからぁ……ふんっ」
「別に悪者扱い何かしてないでしょぉ……全くもぉ……ごめんね史郎、騒がしくして……おじ様たちは大丈夫そう?」
「あ、ああ……廊下から物音とか聞こえてこないし多分……それより直美ちゃん、俺が聞きたいのはそう言うことじゃなくてね……亜紀の事、いつの間に俺の親父たちに話してたのかなって……」
「そ、そうよ直美……いつの間に私のことをおじ様たちに伝えてたの?」
そんな直美に俺は改めて疑問をぶつけたが、不機嫌そうな直美はプイッと顔を逸らしたままだった。
「ふん……別にそんなのわざわざ聞くこともないじゃん……おばちゃん達にこっちのこと聞かれたからふつーにお母さんが帰ってきたって教えてあげただけだもん……何か文句でもあんのぉ?」
「……いや文句どころか凄く感謝してるんだよ……直美ちゃんが事前にちゃんと亜紀の事を伝えておいてくれたおかげで俺の両親はすんなりと亜紀を受け入れてくれたんだから……」
「……うん、その通り……ありがとう直美、また私助けられちゃった……」
「な、なに急に二人してそんな褒めごろすような……むぅぅ……だ、だから別に大したことじゃないもん……」
直美は当たり前のようにそう呟くが、予め亜紀の事を伝えておかなければ色々と厄介な展開になっていたかもしれないのだ。
(多分最終的には俺の両親は分かってくれたとは思うけど……変に話がこじれたり互いに傷つけあうような状況になってたかもしれないんだ……その前に直美ちゃんが亜紀の事を大好きな母親だって紹介してくれたからこそ今があるんだよな……)
もっと言えば直美が帰ってきた亜紀を受け入れてくれたから今のこの幸せな生活があるのだ。
何せ当初の俺ですら直美の為になるかどうかで亜紀を認めるかどうか決めようとしていたのだから。
(何だかんだで俺は今では亜紀の事も大切に想ってる……亜紀と直美が揃って傍にいてくれることに幸せを感じている……もしあそこで亜紀を追い返してたらどうなって……いや、考えたくもないっ!!)
贅沢な話だが俺はもう直美は元より亜紀が居ない生活も考えられなくなっている。
だからこそ両親にも亜紀を受け入れて貰えて万が一にも離れる必要が無くなってほっとしているし、そのための下地を作ってくれた直美にはもっともっと感謝しなければいけないと思うのだった。
「直美ちゃんはそういうけど俺は本当にありがたかったんだよ……感謝してるよ……ありがとう直美ちゃん、大好きだよ」
「うん、私もすっごく感謝してる……貴方に親として認めて貰えて幸せ……貴方の親で良かった……ありがとう直美、大好き」
「にゃ、にゃぁあぁっ!? な、何で急にそんな褒めごろすような……は、恥ずかしいから止めてぇっ!!」
「でも直美ちゃん、俺は本当に……」
「でもね直美、私は……」
「はいはいっ!! もぉわかったからっ!! 直美も二人とも大好きだからっ!! だからもうおしまいっ!! 今日はお休みするのっ!! お休みなのっ!!」




