史郎と霧島母娘㉓
「ど、どうですか?」
「うん、美味しいわ……それに品目も栄養バランスを考えた上で揃えてあるし、大したものよ」
「そ、そうですかっ!!」
恐る恐ると言った様子でうちの両親が夕食を食べる様を見守っていた亜紀だが、母親の称賛を聞くと安堵の表情を浮かべ喜びの声を漏らした。
夕食が完成して皆で食卓を囲み食事を始めたのだが、亜紀は自分の料理が俺の両親にどう評価されるのかが気になっていたようだ。
「これっ!! こっちのお味噌汁は直美が作ったんだからねっ!! ほらほら味わって食べて食べてぇ~っ!!」
「お味噌汁も美味しいなぁ……ふふ、あの小さかった直美がこんな料理を作れるぐらい立派に育ったなんて……感激だなぁ……」
「えへへ~っ!! でしょでしょぉっ!! 直美はちゃぁんとこうして家事を頑張っているのだぁ~っ!!」
またその隣では直美が張り合うように自分が作ったというお味噌汁を進めていて、それを口に入れた父親の感慨深そうな声を聞いて喜びながらも自慢げに胸を張っていた。
(直美ちゃんたら露骨に猫を被ってぇ……調子いいんだからなぁもぉ……まあ親父たちも多分わかっててあえて騙された振りしてるんだろうけど……絶対俺達よりこの二人の方が直美ちゃんを甘やかしてるって……)
困ったものだけれど俺の両親からすれば直美は孫のようなもので、逆に直美からすれば実の母親である亜紀が戻ってきたこともあってこの二人はそれこそ祖父母のように感じているのだろう。
だから甘えて甘やかして、な関係になっても仕方がない気もするのだがやはり理不尽な物を感じてしまう。
「ふふ、良い子ねぇ直美は……史郎も少しは褒めてあげなさい」
「……まあ今日は直美ちゃんよく頑張ったし……偉い偉い」
「むぅぅ、今日はっていう一言がよけぇだけど……ふっふぅんっ!! 直美だってその気になればこれぐらいちょろいちょろいなのだっ!! 何せずっと花嫁しゅぎょーとして頑張ってたんだからっ!!」
それでも今日の直美が頑張ったこと自体は事実なので、そこは素直に褒めておくことにした。
すると直美は少しだけ不満そうにしつつも、胸を張りながらそんなことを言い出す。
「は、花嫁修業って……学生の直美ちゃんには早すぎるでしょうが……」
「おやおや、直美はまだ史郎のお嫁さんになるって夢を諦めてないのかな?」
思わず突っ込んだ俺に対して父親が笑いながら……多分冗談半分でそんなことを呟いたがそれを受けた直美ははっきりと頷き俺の傍に近づくと横から抱き着いてくるのだった。
「とーぜんなのだっ!! だって直美は史郎おじさんのことだぁいすきなんだからぁっ!! 史郎おじさんの一番は誰にも譲らないのだっ!!」
そして直美は意味深に亜紀の方へ視線を投げながらそう宣言するのだった。
「ちょっ!? ちょっと直美ちゃん何言ってんのっ!?」
「あらあら……これは大変ねぇ……」
「わ、私はそんな別に……た、ただ史郎の傍にいられればそれで十分……二番目でも……」
「あ、亜紀まで何言ってんのっ!? い、良いから早くご飯食べようなっ!! さ、冷めちゃうからっ!!」
「……史郎お前、ここまで言わせておきながら……我が息子ながらヘタレというかなんというか……」
「やれやれ……まあアンタの人生だから多くは言わないけど……孫の顔だけは期待してるからね……」




