休日⑩
「おじぃさぁん……」
「お爺さんみたいだから止めて……今度はどうしたの?」
「直美はぁ……ぱたぁ……」
休日の昼下がり、唐突に人の部屋にやってきた直美は目の前でわざとらしく倒れた。
物凄く嫌な予感がするので相手をしたくない。
だけどここで放置すれば機嫌が悪くなるのは確実だ。
「どうしたの、直美ちゃん?」
「…………」
仕方なく声をかけるが反応がない。
腕だけ伸ばして身体を揺すってみるがやっぱり反応はない。
(うわぁ……絶対何か企んでるぅ……)
どうしたものかと悩んでいると、直美のお腹が鳴り響く音がした。
「お腹減ったの?」
「……」
反応はない、どうやらお腹がなったのは目論見とは別のようだ。
しかしちょうどいいので下に降りて食事を用意することにした。
(お肉が少し残ってるなぁ……ミルフィーユカツでも作るか)
バラ肉の中心にチーズをのせてぐるぐる巻きにして、小麦粉と卵とパン粉を塗して油で揚げるだけ。
あっさりと美味しそうな匂いのする揚げ物ができあがった。
ついでにキャベツを二つに切り、皮むき器で乱暴にスライスして千切りモドキを作り盛り付けて完成だ。
それを食卓に持っていくと、何故か俺の部屋にいたはずの直美が仰向けで居間に倒れていた。
「直美ちゃん、ご飯できたよぉ」
「…………っ」
反応しないように踏ん張っているつもりだろうが鼻の穴がヒクヒク動いている。
そしてまたしてもお腹の虫が鳴いた。
せっかくなのでお皿を近くに持って行って、うちわであおいでやった。
「美味しぃよぉ……早く食べないと冷めちゃうよぉ……」
「……うぅ……もぉ我慢できなぁいっ!!」
飛び起きた直美が俺から皿を奪うと食卓に座り、さっさと食べ始めてしまった。
俺もご飯を二人分用意して隣に座り、改めて食事をとり始めた。
「むぐむぐ……おじさんさぁ、せっかく女の子がむぼーびに転がってるんだからよくじょぉのままに襲い掛かってよぉ」
「もぐもぐ……そんなことできるわけないでしょうがぁ」
「介抱するふりしてオッパイ揉んだりスカートめくったりしてよかったのにぃ……もぐもぐ」
全く変なことを企んでいたものだ。
「そんなことしたらお金かかるんでしょぉ……おじさん今月は本当にもうお金ないのぉ」
「来月分から引き落とすからへぇきだよぉ……それにおじさんなら特別価格にしてあげてもいいしぃ……」
「はいはい……ほら、ご馳走様したら歯を磨こうね」
「もぉ……だから子ども扱いしないのぉっ!!」
不機嫌そうにしながらも、俺の言う通り洗面所に向かった直美。
そして俺の家用に置いてある自分の歯ブラシで歯を磨き、口を濯いだ。
俺も隣に並んで歯を磨き口の中を綺麗にする。
「……よし、ちゃんと歯を磨けたね」
「だからぁ、子供扱……おじさぁん……直美の歯、ちゃんと綺麗になってるぅ?」
急に口を横に広げて、白い歯を見せつけてくる直美。
(何か違和感でもあるのかな?)
よくわからないが確認しようと顔を近づける。
「どれど……っ!?」
「んっ……んふぅ……」
近づいた俺にニヤリと笑うと、直美はさっと唇を押し付けてきた。
油断していた俺は抵抗もできず、成すがままにキスをされてしまった。
それに調子を良くした直美は、さらに舌で軽く口内をまさぐり始めた。
(で、ディープキス……こ、これが……あぁ……気持ちいい……)
直美の口内から僅かに歯磨き粉の香りと味が伝わり、同時に舌のざらつきが俺を痺れさせる。
気が付けば俺も夢中で舌を伸ばして直美の口内を味わっていた。
必死に直美の舌をなぞり口内のあちこちを堪能し、唾液を飲んで飲ませた。
「んふぅ……ぷはぁ……はぁ……はぁ……おじさぁん、激しいよぉ」
「はぁ……はぁ……ご、ごめん……夢中になって……」
長い時間をかけてお互いの口内を堪能し合った俺たちは、ようやく唇を離すと呼吸も荒く見つめ合った。
「ごちそぉーさまぁ……にひひ、美味しかったよぉおじさぁん」
「お、俺も美味しかった……けどどうしたの急に?」
「友達が小さいときこーいう悪戯をお兄さんにしてたって言ってたのを思い出して……したくなっちゃったのぉ」
「そ、そうなんだ……び、びっくりしたよ……」
「直美はとっても楽しかったよぉ……続きもしたいなぁ?」
直美がもじもじしながらそっと俺の背中に腕を回して抱き着いてくる。
当然胸が俺の身体に当たり、弾力と柔らかさ……そして鼓動が伝わってきた。
とても激しく脈打っている……俺の心臓と同じぐらいだ。
「いいでしょ、おじさぁん……」
「な、直美ちゃん……っ」
余りに魅力的な発言だった。
俺も自然と直美の身体に手を回し抱きしめていた。
そして胸のドキドキに押されるまま口を開いた。
「直美ちゃん……俺は直美ちゃんがす……」
『ピンポーン』
「……良いから、続き聞かせてぇ」
「あ、ああ……俺は直美ちゃんが……」
『ピンポンピンポンピンポン』
連続して鳴るインターホンを無視し続けることができなかった。
俺たちは無言で身体を離すと玄関へと向かうのだった。
「すみませーん、宅配ピザの……」
「頼んでませ……」
「あっ!?」
直美ちゃんが物凄く失敗したような顔をしている。
どうやら心当たりがあったようだ。
「ありあとーございやしたー」
お金を渡して帰って行ったピザ屋を見送り、俺たちはどちらからともなくため息をつくのだった。
「そうだったぁ……頼んでおいて驚かせてやろーと思ったんだぁ……忘れてたぁ……」
「ごめんね、勝手にご飯作ったりして……これは晩御飯にしようね」
「はぁい……うぅ、どぉしてあんないいタイミングでぇ……おじさぁんつづきしよぉよぉ」
「はいはい、また今度ねぇ」
「もぉおおっ!! おじさんのヘタレ童貞ぇえええっ!!」




