平日の夜②
「はぁ……死にてぇ……」
ふら付く足取りで改札を出て、最後の気力を振り絞って自宅へ向かう。
またしても残業に次ぐ残業だったのだ。
(どう考えても終わらない量割り振りやがって……おまけに残業申請通らないとかふざけてるだろ……)
これで薄給なのだ。
やってられない。
(はぁ……もう飯買わないで帰るかぁ……)
疲労もピークを迎えている。
俺はコンビニに寄る気力もなく、家に向かって無理やり足を動かした。
「お~じ~さ~んっ!!」
「うぉっ!? な、直美ちゃんっ!?」
「つ~かま~えた~っ!! GOGOっ!!」
「ど、どこに連れてく気なのっ!?」
へそが見えるぐらい短い上着に太ももが大胆に見えているショートパンツという際どい格好の直美が腕に抱き着いている。
そのまま俺を強引にどこかへ引っ張って行こうとするせいで腕にどうしても胸が当たってしまう。
(あ、あと少しずれたら乳首が当たって……それに物凄くいい匂いが漂って美味しそう……美味しそう?)
「じゃじゃーん、ここでしたぁっ!!」
「これって……おいおい、焼き肉屋さんじゃないかぁ」
和牛専門でかなり高級なお店だ。
俺は一度も入ったことすらない。
「おじさん、ごちそうさま~」
「ちょ、ちょっと待って……っ」
既に食べる気満々な直美を何とか押しとどめて、俺は財布の中身を確認した。
一番雑魚のお札が四枚ほどしか入っていなかった。
「……」
「うっわぁ……うわぁ……わぁ……」
無言で見せつけてやると直美は引きつった笑みを浮かべた。
しかしすぐに慈愛に満ちた眼差しを俺に向けると優しく口を開いた。
「あっちのコンビニにATMあったよぉ」
「……はぁ、わかったよ」
「あはは、冗談だってばぁ~どこかのファストフード店でいいよぉ」
どちらにしても俺の奢りで食べに行くのは決定事項のようだ。
俺は直美に腕を引かれるまま、ローマ字が描かれたお店に連れ込まれた。
そして山盛り頼んだポテトとナゲットを持ったまま近くの座席に腰を下ろした
「塩分取り過ぎじゃない? というかバーガー食べないの?」
「ダイエットってやつぅ……これでもボディラインには気を配ってんだからね」
ダイエットが本当かどうかは知らないが、自慢げに言うだけあって確かに見事なスタイルをしている。
露出しているおへそ周りや太ももなども艶々で張りがあり、触り心地はとても良さそうだ。
「おじさぁん……どこ見てるのぉ~」
「うわっ!?」
「あはは~慌てすぎぃ~っ!!」
ニヤニヤと笑顔を浮かべながら俺の顔を下から覗き込む直美。
顔があんまりにも近すぎて咄嗟に飛びのいた俺の様子を見て、心の底から嬉しそうに笑っている。
だけどこちらを馬鹿にする様子は見られなくて、笑われているというのに不思議と嫌な気持ちにはならない。
「一回千円で好きなところ触っていいからねぇ……月賦もリボ払いもOKだからさぁ」
「俺みたいな貧乏人には手は出ません……」
「えぇ~こんな魅力的な女の子に触れちゃうんだよぉ~」
直美は食べるよりも俺とのおしゃべりに夢中になっているようで、全く食べ物は減っていない。
困ったものだと思いながらも、俺はそんな直美を見ていると自然と仕事の疲れを忘れてしまうのだった。