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史郎と霧島母娘⑰

『メッセージ見たっ!? おじちゃんとおばちゃんこっち来るってっ!! これは久しぶりにお小遣いタイムだぁっ!!』


 昼休みになって携帯を確認したところ、直美から興奮した様子のメッセージが届いていた。

 どうやら俺の両親は律儀にも直美の方へもメッセージを送っていたらしい。

 もちろん俺も既に確認済みではあるが、素直に喜んでいる直美とは逆に頭を悩ませていた。


(はぁぁ……直美ちゃんはあの二人にもかなり可愛がられてたから一緒にいても問題ないだろうけど……どうしたもんかなぁ……)


 俺の幼馴染だった亜紀は隣の家ということもあって、お互いに家族ぐるみでの付き合いがあった。

 しかしそれも亜紀が学生時代に道を踏み外すまでの話であり、その後は霧島家全体が色々とおかしくなっていったこともあり自然と疎遠になって行った。


(うちの両親もかつては亜紀とも好意的に接してたけど……俺と亜紀の仲が悪くなった後は露骨に関わろうとしなくなってたし、名前だって一度も出さなくなってたからなぁ……)


 尤も亜紀に振られた俺がろくに言葉も話せないぐらいに落ち込んで引きこもり一歩寸前にまでなっていたがために、気を使ってあえて話題に出さないようにしていた面もあるとは思う。

 だけど同時に実の息子をそんな風にした元凶である亜紀の事を悪く思ってないとは到底考えられなかった。


(本当にあの時は物凄くショックで滅茶苦茶落ち込んでたもんなぁ……それこそ亮が傍にいて支えてくれたから何とか立ち直れたけど、もしあいつが居なかったら俺は……そして直美ちゃんはどうなってたんだろうなぁ?)


 亜紀が誰の子供ともわからぬ直美を残して失踪した後、まだ幼い直美は亜紀の母親に虐待染みた躾を受けていた。

 それを放っておけなかった俺は亮と両親に相談し、協力して保護したわけだけれどあれは俺の精神が立ち直っていたからこそできたことだ。


(それこそあの時点で立ち直れてなかったらむしろもっと深い心の傷になってトラウマめいた状態になってたかもしれない……そうなったら亜紀の面影のある直美ちゃんを果たして庇うことができただろうか?)


 勿論それは俺の両親にも言えることだ……俺が早い段階で亜紀の事を振り切っていたからこそ、直美の保護を切り出した際も実際にお世話することになっても嫌な顔一つせず手を貸してくれた。

 しかしこれで俺が立ち直るどころか亜紀の事で苦しんでいる状態が続いていたら、彼らだって亜紀の面影がある直美の保護に協力してくれたかどうか……少なくとも今のように実の娘か孫を見る様な目で接することはできなかったような気がする。


(本当にその辺りは上手く行ってくれてよかったよ……俺の両親にまで疎まれてたら直美ちゃんの人生は更にハードモードだったもんなぁ……)


 何かが少しでも違っていたらどうなっていたことか……そう考えるとうちの両親が直美へ愛情を向けてくれている現状はありがたい限りだった。

 しかしだからこそ逆に可愛く思っている直美を苦しめる元凶を作った亜紀の事は余計に悪く思っていても不思議ではない。


(改心した……って口で言うのは簡単だけどそれを理解してもらうには……どうしたもんかなぁ……)


 実際に俺たち自身が亜紀を心の底から信じられるようになるまで、かなりの時間を共に過ごす必要があったのだ。

 ましてここの所ずっと離れた田舎で隠居生活を送っていた両親からすれば、今の亜紀がどれだけ変わっていようとも過去の印象のままに対応してもおかしくはないのだ。


(困ったなぁ……今の亜紀は本当に良い母親をしてて……俺にとっても大切な家族のような相手なんだけど……出来れば仲違いしてほしくはないんだが……特に直美ちゃんの前では……)


 どちらにも懐いている直美からすれば、両者が険悪な雰囲気を出しているところなど見たくはないはずだ。

 だからこそどうすればいいか、俺はずっと頭を悩ませてしまっているのだった。


(何だかんだで両親は俺のことも直美のことも信じてくれてるから時間をかけて説得すれば、少なくとも表面上は納得してくれるとは思う……ただ最初の対面時の対応だけはなぁ……)


 出来れば落ち着いてタイミングを見計らって話したいから当面は何とかやり過ごしたいところだ。

 しかし俺の両親も亜紀もお互いに面識があり過ぎるため、一目でも見れば相手の正体に感づいてしまうだろう。


(予め両親に話しておく……と余計に拗れそうだなぁ……それこそ亜紀の変化は劇的だから実際に見ないととても信じられないだろうし……逆に亜紀の方へは話を通しておかないと……覚悟も無しに俺の両親と顔合わせしたら気まずいとかじゃ済まないぐらいの衝撃を受けそうだしな……)


 どうすればいいか分からないまま、とりあえず昼休みが終わる前に亜紀へと連絡を取っておくことにするのだった。


『も、もしもし史郎? ど、どうしたの急に……仕事中に掛けて来るなんて珍しいけど……ま、まさかまだ朝のこと気にして……で、でも私別に嫌じゃなかっ……』

「済まない亜紀急に電話して……聞いてくれ、田舎で隠居生活してる俺の両親が久しぶりに顔を見せに来るって連絡が入った……」

『……え? あ……そ、そうなんだ……おじさまとおばさまが……そっかぁ……直美が沢山お世話になったみたいだしお礼を……いやその前に沢山迷惑かけた謝罪かなぁ……顔も見たくないって言われたらどうしよう……』

「その辺は俺達からもちゃんとフォロー入れるから……ただ出来れば最初の顔合わせは直美ちゃんの居ない所で済ませておきたいんだが……あの子の前で争うところ見せたくないし……」

『そ、それもそうだよね……え、えっとじゃあ……おじ様たちは電車で来るの? そうなら私が駅まで迎えに行ってそれで……』

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、やっぱり色々と問題は起きそうだよねえ。 うまく受け入れてもらえるといいけれど。
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