史郎と霧島母娘⑮
「……ろぉ……しろぉおおっ!!」
「うぉっ!?」
布団の中で眠っていた俺は、ふいに何かが飛び乗ってくる感覚で目を覚ました。
一瞬何が起きているのか困惑したが、目が覚めた後も布団越しに感じる重圧には覚えがあった。
(こ、これは直美ちゃんの必殺ボディプレス……ひ、久しぶりに喰らうと結構……うぐぐ……っ)
かつて直美にこうして起こされていたことをデジャブと共に思い出した俺は痛みを堪えつつ毛布を捲……ろうとしたところでふとあることを思いつく。
(このまま外に出たらまた直美ちゃんのペースに乗せられてしまう……それ自体はまあ嫌いじゃないから良いけど、毎回直美ちゃんにやられっぱなしなのも癪だなぁ……一度ぐらいお返ししてやりたい)
普段は考えもしないことだが寝起きの頭でボケていたのか、俺はニヤリと笑うと毛布の下で両手を広げるとそのまま上に圧し掛かっている相手を抱きしめた。
「し、史郎早く起き……えぇっ!? ちょ、ちょっとしろ……っ!?」
「ふっふっふ、捕まえたぞぉ~っ!!」
「っっっ!!?」
当然向こうは毛布に包み込まれる形になり、慌てて逃げ出そうと抵抗を始める。
しかし俺は更に相手を抱きしめたままベッドの上で強引に身体を半回転させて位置を逆転させることに成功した。
結果的に直美は毛布ごとベッドに押し込まれる形となり、俺はしてやったりとばかりにその上に圧し掛かった。
「ふはははっ!! どうだ圧し掛かられる気分はぁっ!! これに懲りたらもうボディプレスで起こすのは止め……」
「おっそぉおおおいっ!! 史郎おじさんまだ寝てんのぉおおおっ!?」
「……え?」
今までのお返しとばかりに調子に乗っていたところ、何故か窓の外から直美の叫び声が聞こえてきた。
強引に首を回してそっちの方を見ると、視界の隅に僅かにだが怒りとも焦りともつかぬ感情で顔を歪めながら直美が上体を突き出しているのが見えた。
(えっ!? な、何で直美ちゃんがそっちにっ!? ど、どうなってんのっ!?)
「もぉおおっ!! きーてるのぉっ!? おかーさぁああんっ!! そっちいるんでしょぉおっ!! 起こすだけなのに何でこんなに時間かかってるのぉおっ!?」
「……え?」
向こうからはちょうどベッドの上にいる俺が上手く見えないようで、直美は身体と顔を動かし必死にこっちを見通そうとしながら更なる言葉を発した。
それを聞いてようやく自分が何をしたのかに気づいた俺は恐る恐る彼女の背中に回していた両腕を引き戻し、また向こうに体重が掛からないよう片手をベッドへ付きながら……そっと毛布を捲った。
「…………っ」
「……あ、亜紀?」
果たしてそこに居たのは……顔を真っ赤にして目を潤ませながらも、何かを期待するかのように俺を見つめている亜紀だった。
(あ、亜紀だったのかっ!? な、何で亜紀がボディプレスなんかして……と、というかこの体勢は……っ!?)
ベッドに押し込まれ横になっている亜紀とその上からのぞき込むようにかぶさっている俺……そんな自分たちの状態に気づいた俺は興奮とも気恥ずかしさともつかない感情に襲われて一瞬で顔が真っ赤になるのを感じた。
「ご、ごめん……っ!?」
「……ぁ……っ」
「えっ!?」
慌てて謝罪してその場を飛びのこうとした俺だが、それを見た亜紀は反射的に手を伸ばして腕を掴んでくる。
驚いたのも一瞬、亜紀は勢いよく飛びのいていた俺を抑え込むことは出来なくて一緒にベッドから飛び降りることになってしまう。
「うぉっ!?」
「きゃっ!?」
そしてベッドから転げ落ちた俺達は、直美の目の前で今度は床に転がった俺の上に亜紀が圧し掛かる形となった。
「あ……し、史郎……」
「あ、亜紀……」
「にゃぁああっ!? ちょ、ちょっと二人して何してんのぉおおおっ!!」
「っ!? い、嫌別に何もしてないってっ!!」
「う、うん別に何でもないからっ!!」
目と目が合うと何故か妙に視線が吸い込まれるような気がして、俺もまた先ほどの亜紀と同じ様に手を伸ばしそうになる。
しかしそんな俺達を見ていた直美が今にもこっちに飛び移らんばかりの勢いで身体を乗り出しながら叫んできて、おかげで何とか冷静さ……というか正気し慌てて身体を離すのだった。
「す、済まない亜紀……てっきり直美ちゃんの悪戯かと思って……」
「う、ううん別に気にしてないから……うん、気にしてない……ただちょっと……ううん、凄くドキドキしちゃったけど……史郎が相手ならあんな風に強引でも全然……」
「だぁかぁらぁっ!! そぉいうこと直美抜きでしちゃだめなのぉっ!! それにほんとぉに時間無くなっちゃうよぉおっ!?」
「あっ!? そ、そうだよ史郎っ!! じ、時間っ!! ち、遅刻しちゃうってっ!!」
「えっ!? あ……うぉっ!? こ、これはヤバいっ!!」
心底焦っている様子の直美の言葉を聞いて亜紀もまた焦り出し、二人に言われて時計を見た俺も……いつも起きるよりずっと遅い時間になっていることに遅れて気が付くのだった。
(あぁっ!? そ、そうか昨日夜中まで話し込んじゃってたから寝過ごしたんだっ!? 多分亜紀たちも……そ、それで隣から声を掛けても起きなかった俺を起こそうとああやって……あぁ、お、俺の馬鹿ぁっ!!)




