史郎と霧島母娘⑨
「むぅぅ……史郎おじさんお風呂出るの早すぎぃ……」
「もう少しゆっくり入っててもいいのに……ちゃんと温まった?」
「ああ、今日も十分堪能させてもらったよ……いつもありがとう」
ササっとお風呂を済ませた俺が脱衣所に亜紀が用意してくれている寝間着に着替え終えたところで、ドアが開き亜紀と直美が一緒に姿を現してきた。
そして俺を見ると二人して少しだけ不満げな声を漏らしてくる。
しかし俺はそんな二人の様子にあえて気付かないふりをして笑顔で語り掛けつつ、内心で安堵の溜息をついていた。
(やっぱり今日も入ってくるつもりだったんだなぁ……早く出て来て正解だったぜ……)
霧島家で俺がお風呂に入っていると、この二人は隙あらば乗り込んで来ようとするのだ。
本人たち曰く金銭面を含めて色々とお世話になっている俺に恩返しとして背中ぐらい流してあげたいとのことだが、ついでにそのまま自分達もお風呂に入るつもりで裸になってやってくるからたまらない。
まして直美は遊び半分なのか或いはPCゲームの影響か、垢擦りやタオルではなく素肌でもってこっちの身体を洗おうとしてくる始末だった。
また亜紀も普段ならそんな悪乗りをする直美を咎めたりするところだが、この時ばかりは何故か楽しそうに微笑んで見守るばかりなのだ。
(二人とも物凄く魅力的な外見してることを自覚してほしい……いや自覚してやってるのかなぁ……色々と我慢する方の身にもなってくれよぉ)
ある意味で誘惑染みた真似をされて……だけどまだ手を出すわけにはいかないと決めている俺としては二人との入浴は精神的に疲れるばかりだった。
だからこそ今回のように早めに出たり、たまには自分の家で入ったりしているのだ。
「全然たんのぉしてないでしょぉ……せっかく直美が身体をスポンジ替わりにして綺麗綺麗してあげよぉと……」
「はいはい、良いから冷めないうちにさっさと入りなさいって……」
「もぉ、史郎ったらぁ……私たち家族なんでしょ? だったらお風呂ぐらい一緒に入ってもいいじゃない……」
「また一緒に暮らすようになったらね……とにかく早くお風呂済ませちゃって三人で遊べる時間を増やしてくれよ」
やはり直美だけでなく亜紀まで未練がましく見つめて来るが、首を横に振りながら今度は俺が二人を脱衣所へ押し込んだ。
「だからお風呂でも一緒に遊べば……何なら大人の遊……ってそんな強く押さないでってばぁっ!?」
「はいはい、ほらほら入った入った……亜紀も直美ちゃんと一緒に入るんだろ?」
「まあせっかくだし……このままこの子が成人したらそれこそ入る機会無くなっちゃうだろうし……だからこそ史郎も今のうちに一緒に家族風呂の時間を……あぅっ!? そ、そんな強引に押し込まないでぇっ!?」
「はいはい……俺は遊ぶ道具なりを用意して待ってるからねぇ……はぁ……」
二人に最後まで言わせないまま脱衣所のドアを閉めた俺は、改めて安どのため息をつきながらこの場を後にした。
(家族風呂って言われても……あんな魅力的な女の子二人と裸で同じ空間に居たら、どうしても興奮しちゃうからなぁ……だけどまだ手を出すわけにはいかないもんなぁ……)
ずっと自分の子供のように育ててきた直美……その子を性的な目で見たくないという想いもあるけれどそれ以上にあの子はまだ未成年だ。
そして初恋の相手であり、今は当時と同じ笑顔を向けてくれる亜紀……彼女はもう大人だけれど生活費に関して俺に頼りっぱなしだ。
(俺の気持ちが定まっていないってのもあるけど……まずは対等な立場になってからじゃないと……)
父性愛の延長線上や経済面などで支えてもらっている感謝の気持ちなどで……純粋な男女の愛情以外であの二人とそういう関係にはなりたくなかった。
だからこそせめて二人が自立するまでは……直美が学生を卒業して社会に出れるようになり、亜紀も手に職を持って一人でも暮らせるようになるまでは今の関係を続けようと決めているのだ。
(そうじゃないと……ある意味で相手の弱みに付け込む形になりかねないから……もしあの二人のどちらかと……或いは二人とも、は駄目だろうけど……とにかく恋人になるとしてもやっぱり対等な立場になってからだよな……)




