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史郎と霧島母娘⑧

「ご馳走様ぁ~、はぁ~食べた食べたぁ~」

「こ、これだけの量をよくもまぁ……ご馳走様」

「お粗末様……だけど本当によくこんなに……食べ盛りとはいえ二パック丸々使ったのにまさか完食するなんて……」


 夕食を終えてご機嫌な様子で手を合わせる直美を、俺と亜紀は呆れとも感心ともつかない目で見つめてしまう。

 何せ文字通り山盛りになっていたおかずを殆ど一人で食べてしまったのだから。


(……前はここまで熱心に食事を取ったりしなかったんだけどなぁ)


 今回のおかずが好物だったというのもあるのだろうが、かつての直美は食事よりもゲームをやる時間の方を優先していた。

 だからご飯などはササっと済ませて部屋に戻り横になって……たまに小腹が空いたらお菓子を齧っていたのだ。


(よっぽど亜紀の食事が口に合ってるってことなんだろうなぁ……やっぱり亜紀が戻って来てくれてよかったよ……このまま生活習慣も改善していくと良いんだけど……)


「お腹いっぱぁい……直美幸せぇ~……」

「直美ちゃん、食べてすぐ寝るのは流石に……せめて食べ終わった食器ぐらい片付けたほうが……」

「やぁん、直美お腹いっぱいでうごけなぁ~い……史郎おじさんおねがぁ~い」


 満足した様子で椅子から降りた直美は、そのまますぐに隣にある居間へと移動すると床の上にゴロンと横になってしまう。

 そんな直美に最低限の後片付けをするよう告げるが、彼女はお腹をポンポン叩きながら甘えるような声を出すばかりだった。


(前は最低限の家事はやってたんだけどなぁ……色々と改善されてる面もあるけど、甘えん坊になって駄目になってる面もあるな……いやでも本当に最低限しかしてなかったからやっぱり変わってないような……)


「直美ぃ、食べてすぐ寝たら豚になるわよぉ……ただでさえ最近体重増えてるみたいなのに、そのままじゃおデブ一直線よぉ?」

「えっ? そ、そうなの直美ちゃん?」

「にゃぁぁっ!! ふ、太ってなんかないもんっ!! お母さん嘘つかな……みゃぁっ!?」

「こんな膨らんだお腹見せつけておいて嘘も何も無いでしょ? ほら起きて、攻めて史郎の前でぐらいしゃきっとしなさいってば」


 しかし亜紀が近づいて直美の上着を捲り食後で膨らんでいるお臍周りを露わにしようとすると、慌てて身体を起こした。

 そして俺の方を見ると恥ずかしそうにしながら必死に膨らんだお腹を隠そうとする。

 どうやら流石の直美もあれだけ食べた後のお腹を見られるのは嫌なようだ。


「お、お母さんっ!! 人の服、捲らないでよぉっ!!」

「さっきまで下着姿でうろついてた子が何言ってるのよ……ほらほら良いから手伝いなさい、じゃないと明日のお弁当は野菜中心にしちゃうからね?」

「はぅぅっ!? そ、それは勘弁……うぅぅ、仕方ないなぁ……」


 更なる亜紀の言葉に直美はしぶしぶと言った態度を取りながらも、素直に食器を片付け始めた。


(す、凄いな亜紀……俺なら間違いなく言い負かされて甘やかしちゃうところなのに……本当にちゃんとしたお母さんしてるんだなぁ……この調子なら俺達が育てるよりずっと上手に……って手腕に見惚れてないで俺も……っ)


「お、俺も何か手伝おうか?」

「史郎はお仕事して来て疲れてるんだからゆっくり休んでていいよ?」

「い、嫌だけど俺だけ何もしないってのは……」

「そうだそうだぁ~……っていーたいところだけど、台所に三人もいたら逆に動きにくくなっちゃうからなぁ……仕方ない、しろーおじさんには直美がやってるRPGのレベル上げのお仕事を……」

「はいはい……それより史郎、何ならお風呂沸いてるから先に入っちゃってくれると助かるかなぁ?」


 直美に偉そうに言っておいて自分だけ何もしないわけにはいかないと手伝いを申し出るが、あっさりと却下されてしまう。

 それどころか一番風呂に入ってくれと頼んでくる亜紀……何だかんだで別れて暮らすようになっても生活費の節約を兼ねて、食事だけでなくお風呂や洗濯などもこっちでまとめてやることが多いのだ。

 だから今日もそう言って誘ってくれるのだろうけれど、二人を働かせて一人お風呂でくつろぐような真似はどうにも躊躇われた。


「で、でもなぁ……」

「どうせこの後また皆で何かして遊ぶんでしょ? だったら少しでもその時間を伸ばすためにも効率的にお風呂の順番を済ませたほうがいいと思うんだけど?」

「そ、それはまあ……」

「それとも今日は自宅で入りたい気分だったりするの? それなら無理強いはしないけど……そっちも一応後はお湯を入れるだけの状態にしてあるから戻って入ってきても……」

「あぁん、もぉいいからしろーおじさんは早くお風呂入って来ちゃいなさいっ!! じゃないとこっちも動けないでしょぉっ!!」


 しかし結局は二人に押し切られてるように、俺はお風呂場へと押し込まれてしまうのだった。












「全くぅ、史郎おじさんは変なところに拘るんだからぁ……」

「史郎は昔っから生真面目だったねぇ……そこが良いところでもあるんだけど……私が小学生の時も良く……」

「はいはい、そぉやってすぐ惚気ようとするぅ……もうたくさん聞いたからお腹いっぱいだってばぁ……」

「お腹いっぱいなのは沢山食べたからでしょぉ……全くもぉ、少しでも史郎のこと教えてあげようって親心なのにぃ……」

「史郎おじさんのことは直美だってよぉく知ってるもぉん……それよりお母さん、直美こうしてちゃんと手伝ってるからさ……明日のお弁当は今日の残りでいいからお肉大目にお願いね?」

「何も残ってないでしょうが、全くもぉ……ふふふ……でも仕方ない、何か考えてからね」

「わーいっ!! お母さん大好きぃっ!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 大好きと呼んでもらえる間柄。 料理も本当に上達したねえ。
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