史郎と霧島母娘⑦
「ど、どうだ亜紀……直りそうか?」
「……うん、これぐらいなら大丈夫」
「よ、よかったぁ……思いっきりビリィって鳴ってたからもう駄目かと思ったよぉ……」
窓越しに直美が汚してしまった洋服を手渡し返事を伺うが、どうやら何とか修繕は可能な範囲だったようだ。
それを聞いて毛布に包まったままの直美が、安堵したように息を吐いた。
「だけど直美ぃ……黙って逃げないでこういうことはちゃんと言いなさい……怒ったりなんかしないから、ね?」
「はぁぁい……ごめんなさぁい……」
そんな直美に亜紀は困ったように微笑みながら窘めるように語りかけると、直美は叱られた子犬のように頭を下げた。
(何というか……本当に親子してるんだなぁ……)
亜紀はただ甘やかすだけでなくて咎めるべきところはこうしてしっかりと……ちょっと甘い気もするけれど釘を刺している。
少し前までは育児放棄した負い目からかどこかご機嫌を伺うような様子が見られたのだけれど、和解してからはこうして良い意味で遠慮強いない関係になれたようだ。
こうなるとむしろ直美を叱ることが出来なくて我儘に育ててしまった俺や亮より、ずっと立派な保護者をしているように見えてしまう。
(直美ちゃんも亜紀に優しく諭されると素直に謝るもんなぁ……俺や亮だとちょっと強く言うとむくれたり、逆に誤魔化すように甘えてきたりして……結局有耶無耶にされちゃうからなぁ……)
「よろしい、じゃあ素直に謝れた良い子にはご褒美として夕食のおかずを少しだけ増やしてあげるからね……だから史郎と一緒に早く帰ってきなさい」
「えぇっ!! きょぉって確か鶏のから揚げ……やったぁっ!! しろぉおじさん早く直美のお家にGOっ!!」
「ちょ、ちょっと直美ちゃんっ!? そ、その恰好で出歩くのは不味いってっ!!」
亜紀の言葉を聞いた直美は途端に元気を取り戻し勢いよく毛布を脱ぎ捨てて……下着姿でもって俺に飛びつき、腕を引っ張ろうとしてくる。
当然その健康的……というか肉付き良く立派に育った直美の肌の感触と下着に抑えられながらも身体の動きに合わせて胸が震える様がはっきりと五感を通して伝わってきて一瞬心臓がドキッとしてしまう。
だからそれ以上興奮しないよう慌てて目を逸らしつつ叫ぶが、直美はそのまま俺の上着の中に潜り込もうとしてくる。
「だいじょぉぶぃっ!! すぐ隣だからこぉして史郎おじさんのお洋服の中に隠れればノーもんだぁいっ!!」
「そ、そんなわけないで……あぁっ!? ちょ、ちょっと直美ちゃん服が伸びるから止め……っ!?」
無理やり俺の服の中に上半身を滑り込ませた直美……当然服はパツパツになり、お互いの身体が押し付け合わさる形となる。
当然下着しか身に着けていない直美の身体の感触が今まで以上にダイレクトに伝わってくるようになり、二つの柔らかい何かが押し付けられる感触に思わず硬直してしまう。
(か、考えるなっ!! 意識するな俺ぇっ!!)
「にひひぃ、どぉしたのかなぁ史郎おじさぁ~ん……お肌が赤くなってなぁい?」
「くぅっ……そ、そんなこと……ひゃぁぁっ!?」
「うひひぃ~、軽く指先でなぞっただけで可愛い声出しちゃってまぁ……これは直美をゆぅわくしてるに決まって……」
「はいはい、二人ともいつまでも遊んでないの……早く来ないと私が唐揚げ全部食べちゃうぞぉ?」
そんな俺達のやり取りを窓越しに見つめていた亜紀は呆れたように呟きながらも、直接止めようとはしないのだった。
「うぅん、しろぉおじさんをたんのぉすべきか唐揚げか……うん、唐揚げのかちぃっ!! ごめんね史郎おじさん、続きはまた今度っ!!」
「えっ……あ、ああ……」
しかしその言葉は十分効果が有ったようで、直美はさっと俺から離れると慣れた手つきでクローゼットから同居していた際に来ていた服へと着替えるとそのままドタドタと家を出て行ってしまった。
余りの勢いに後に残された俺は乱れた服を治しながらも、何故か寂しさを覚えてしまうのだった。
「ふふふ、唐揚げに負けちゃったねぇ史郎……」
「そ、そうみたいだなぁ……あ、あはは……はぁぁ……」
「……ちょっと残念だったって思ってる?」
「な、何を言うかと思えば……」
「声がちょっと上擦ってるぞぉ……史郎なら心配ないと思うけどあの子はまだ学生だから、もう少しだけ我慢してあげて欲しいなぁ……」
そんな俺を楽しそうに笑いながら……だけどどこか真剣な面持ちでじっと見つめて来る亜紀。
何故かその視線が妙に艶っぽく感じられて、何やら変なきもちになりそうでつい目と話を逸らしてしまうのだった。
「だ、だからそういうのじゃ……そ、それよりも俺も今すぐそっち行くから……」
「はぁい……ちなみに史郎、私なら何も問題ないからね……あの子が成長するまでの繋ぎでもいいから我慢できなくなったらいつでも言ってね?」
「っ!? あ、亜紀ぃっ!? な、何を言ってっ!?」
「ふふふ、わかってるくせにぃ……じゃあ私も先に直美と一緒に夕食食べてるから……早く来ないと本当に全部先に食べちゃうんだからね?」
「えっ!? あ、ああ……い、今すぐ行くから待ってて……」
「…………史郎がそういうなら、私はいつまでも待ってるよ……多分あの子も……」




