史郎と霧島母娘③
「「「いただきますっ!!」」」
霧島家の食卓に三人腰掛けたところで一緒に手を合わせ、早速目の前に並んだ食事を頂き始める。
目玉焼きにお味噌汁と簡単なサラダというシンプルな朝食だけれど、見た目も味付けも素晴らしいの一言だ。
(うぅん、亜紀の奴どんどん料理の腕が上達してるなぁ……もう俺じゃぁ敵わないかもなぁ……直美ちゃんも……)
「むぐむぐ……うぅん、お野菜が多いぃ……きょぉの料理は六十てぇん……」
「あのねぇ、これでも朝だから少なめにしてるんだからねぇ……」
「そうだよ直美ちゃん……大体作ってもらってるんだから点数着けてないでありがたく頂こうよ……」
「むぅぅ……そぉやって史郎おじさんはすぐママの味方するぅ……ぶぅぶ~……」
嫌そうにサラダを頬張りながらぶつくさ文句を言う直美だけれど、何だかんだで亜紀の作った料理は好きなのか野菜も含めて今まで一度も食べ残したことは無かったりする。
そして同時に自分で料理することも無くなってしまった。
(前はたまぁには自炊してたんだけどなぁ……全力で亜紀に甘えちゃってるよなぁこれ……)
仮にも高校生だというのに直美の言動や行動はもっと幼い子供のようで、下手したら幼児返りしているようにすら見えてしまう。
恐らくこれは今まで母親が居なくて甘えられなかった反動なのだろう……そして亜紀もまたそんな直美の態度を見て、窘めるような言葉を呟きつつもどこか嬉しそうにしている。
(やっぱり今まで失ってた時間を取り戻そうとしてるんだろうなぁ……しかも高校卒業するまでの短い時間でだから余計に色々と……)
「そんな事無いってば……それより直美ちゃん、学校の時間は大丈夫なの?」
「ふぇ? あ……や、ヤバっ!? お、お母さん鞄どこっ!? 制服はっ!?」
「はいはい、ちゃんと準備できてるから安心しなさい……それよりまずはご飯をちゃんと食べようね?」
「はぁ~い……もぐもぐ……ごっちそうさまぁ~っ!! お母さん持ってきてぇ~っ!!」
時計を確認して唐突に慌て始めた直美の言葉を受けても、亜紀はやはり微笑みながら言われるままに学校へ行く支度を一から十までよういして来てくれる。
「……亜紀、流石に甘やかし過ぎじゃないか?」
「そ、そうかなぁ……けどほらまだ二人で暮らし始めて色々と生活リズムが慣れてなさそうだし、これぐらいしてあげなきゃ……」
「そぉそ~、それにおかーさんこの時間暇だからちょーどいいのぉ……ついでに制服きれぇにしてぇ~」
更には一足先に食事を終えて隣の部屋で支度を始めた直美に請われるままにお着替えまで手伝い始める亜紀。
(慣れるもなにも直美ちゃんは少し前まで一人で暮らしてたんだけどなぁ……やっぱりちょっと甘えすぎというか、これは不味いような……)
「よし、綺麗に整ったよ……可愛い可愛い」
「えへへ~、ありがとぉ~……どうだ史郎おじさんっ!! この魅惑のじょしこーせぇの制服姿に見惚れるのだぁ~っ!!」
「……せめて一人でお着替えしてから威張ろうねぇ……ご馳走様」
着替え終えた制服姿の直美が俺の前で胸を張るが、一通りのやり取りを見ていた俺からするとむしろお子様が得意げになっているようにしか思えないのだった。
「お粗末様……史郎も前に置いてってくれた着替えアイロンかけてそっちの部屋に置いてあるからね」
「あ、そ、そうなのか……い、いつも済まん助かる……」
「ふふふ、これぐらい大したことじゃないってば……そこで着替えていいからね、その間に鞄用意しておくから」
「え……あ、た、助かる……」
「にひひ、そぉいぅ史郎おじさんだっておかーさんに甘えまくりじゃぁ~ん……やーい、甘えんぼぉ~」
(な、直美ちゃんよりはマシだと思うんだけど……だけど確かに俺も最近全然家事とかしてないような……あ、あれ俺も亜紀に甘えすぎ? 本当に人のこと言ってる場合じゃないのかこれっ!?)




