休日⑧
「おっじさーんっ!! じっきょープレーやろーっ!!」
「まだ懲りてなかったの……やり方は教えたでしょ?」
「実はちょくちょくやってたんだよぉ……ほら、ランクもあがってるっしょ?」
直美は勝手に俺の部屋でゲームを起動して自らのアカウントでログインしてしまう。
言われた通り見たところ確かにランクは最下層から一段階上に上がっていた。
「頑張ったなぁ、それで実況のほうは……うわぁ、地味にお気に入り登録者が増えてるぅ……」
「へへ、すごいっしょっ!!」
動画サイトのほうは俺のアカウントを乗っ取ってそのまま使っているようだ。
俺がやってた時は0人だったお気に入り登録者が既に三桁に突入している。
(やっぱり女の子がゲーム実況すんのは強いよなぁ……)
「さっそくやろぉーっ!! タイトルは冴えないおっさんと美少女パートツーっ!!」
「……ちなみに普段はなんてやってるの?」
「すーぱぁ美少女がこのゲームで天下を取るぅっ!!」
(よく炎上しないなぁ……)
やはり女の子だから皆優しいのだろうか。
「とにかく始めるよーっ!! みんなこんちわーっ!!」
「……はぁ、どうも」
SNSか何かで事前に告知してあったのか、始まった時点で数十名ほど閲覧していた。
『記念すべきおっさん回』
『幻の第一話以降の出演』
どうやら俺はレアキャラ扱いされているようだ。
さらさらとコメントが流れてくる。
大体の内容はナァミへの応援と、俺との関係を尋ねるものばかりだ。
「おじさんはおじさんだよぉ……近所に住む赤のたにぃん」
「大体あってるのが酷い……知り合いの娘ですよ」
犯罪とか通報したとか言われている。
とりあえず今の時点でゲーム内容に踏み込んだコメントは無い。
「ねぇ、いいからゲームやろうよぉ」
「はぁい……じゃあナァミのかれぇなプレイ魅せちゃうからねぇ」
そして早速FPSのゲームが始まる。
ナァミはアタッカーばかり使って、しかも相変わらず前線の奥まで突っ込んでは死んでいく。
最も多少エイムは上手くなったようで、そこそこキル数は稼いでいる。
(立ち回り……というかマップごとの基本的なセオリーを覚えたら化けそうだなぁ)
「あぁもぉっ!! どーしてナァミを回復しないのぉっ!!」
「あんな前線までヒーラーさんは出ていけないよ……もう少し仲間と足並み合わせて……」
「いいのぉっ!! ナァミが倒さないで誰が倒すのぉっ!!」
熱くなってチーム戦であることを完全に忘れている。
『酷い』『雑魚』『良い負けっぷり』『底で死ぬのは酷い』
コメント欄も辛らつだ。
ランク的にもタイトル的にもどうやら弱さを売りにした動画だと思われてるっぽい。
「雑魚くねぇしーっ!! 私をフォローできねぇ仲間が悪いしぃいいっ!!」
「ナァミちゃん……それを言ったらお終いだよ」
『おっさんちゃんとアドバイス城』『トロール育成すんな』『もっとビシッと言えや』
何故か俺にも非難が殺到してくる。
こんなにまともにアドバイスしているのに酷い。
「あぁーーっ!! また負けたぁっ!! もぉ、どーしてナァミが戦ってる間にタンクは下がってるのぉっ!?」
「タンクは味方と一緒に行動するからねぇ……」
尤も直美の言うこともそこまで的外れではない。
低ランク帯なので仲間の動きも似たり寄ったりなのだ。
『もっとしっかり』『サポートも触ってみれば?』『絶対組みたくない』
「こ、こいつらぁあっ!! ナァミのどこがいけないのよぉっ!?」
「これは一人で勝てるゲームじゃないから仲間と足並みそろえないと……」
「もぉ、じゃーおじさんがお手本見せてよっ!!」
「ちょ……人のアカウントでやるのは……」
コントローラーを手渡されたが流石にランク戦をやるのは駄目だろう。
『おっさん出勤っ!?』『口だけおっさんファイト』『期待』
しかし何故か微妙に盛り上がっている。
直美も怒り心頭でコントローラーを受け取ってくれない。
仕方なくフリーマッチを行うことにした。
(まあこれなら許されるだろ……)
『逃げたw』『ランクから逃げるな』『ヘタレ』
「違いますぅ、一応俺ランク上のほうだからサブ垢扱いされないためですぅ」
『言い訳』『高ランク様のプレイを拝見』
「よぉし、ここまでいったおじさんが負けた時の為に視聴者のみんなから罰ゲームを募集しまぁす」
「えぇ……勘弁してよぉ……」
『顔出し』『住所氏名年齢晒し』『全裸で散歩』
どいつもこいつも酷い。
「おぉ、いいねぇいいねぇ……ほら始まったよぉ」
「はぁ……しかたない、本気出すかぁ」
腐ってもランク自体はぎりぎり最上位一歩手前をキープしている。
フリーマッチで遊んでいる相手ならばそうそう負けないだろう。
スナイパーを選択して、片っ端から打ち貫くことにした。
「……ほい、これでとれるだろ……」
「え、ちょ……なにこれぇ?」
『普通に上手い』『え、ナニコレ?』『おっさん上手すぎない?』
ナァミの勝率が関わっているのか、相手は素人ばかりのようだ。
狩りのようになって申し訳ないが、負けるわけにはいかないのでこのまま勝たせてもらおう。
「これで……うーん、ここまでチームキルできると気持ちいいなぁ」
「お、おじさんキル数が……何でこんなに伸びるのぉ?」
『初心者狩りかよ』『最悪だこのおっさん』『大人げねぇ』
何故か物凄く責められている。
それでも何とか試合には勝つことに成功した。
これで罰ゲームを受けずにすむとほっとしたところでふと気が付いた。
「……よく考えたら、これじゃあ参考にならないよね?」
「あったりまえでしょぉっ!! ナァミあんなに上手く狙えないよぉっ!!」
「ですよねぇ……じゃあ、ナァミがよく使ってる76でも使うかぁ……」
基本的な立ち回りのキャラだから少しは参考になるだろう。
俺は淡々と基礎的な立ち回りを披露して敵を処理していった。
『サイコパス使え』『盆踊りおじさん使えないの?』『早打ちは?』
コメント欄にリクエストが増えてきた。
「……これはナァミの動画なのぉっ!!」
「じゃあ、今のを参考に頑張って……」
「あんなのさんこぉになるかぁっ!!」
怒られた……全く持って理不尽な話だった。
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