史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん84
「史郎……本当に大丈夫なのか?」
「むしろお前こそ大丈夫なのか? あの子もいないのに勝手に俺達を家にあげたりして……」
着替えを受け取るため亮が指定した部屋へ向かった俺達だが、そこは何と後輩の子が住んでいる家だった。
(聞いたことのない住所だけど、てっきり戻ってきた亮が一人で暮らしてた場所だとばっかり思い込んでたけど……なんか落ち着かねぇ……)
亮と一緒に暮らしているとはいえ、仮にも女性が暮らす部屋なのだ。
幼い頃の亜紀や子供の頃から面倒を見ている直美という存在を除けば異性と殆ど関わりの無かった俺からすれば、ここはまさに異空間ともいえる場所であった。
(……というか直美ちゃんも亜紀も同じ家の同じ部屋で暮らしてたわけだし、何より小さい頃からずっと行き来してた場所だからなぁ……)
もちろん後輩の子が亮の恋人だということは理解しているので別にその手のことを意識しているわけではない。
ただ何というか色々と新鮮で不思議な感じがして……つい意味もなく室内を見回しそうになってしまう。
(あんまりじろじろ見ちゃ悪いとは思うんだけど……しかしやっぱり女性が住んでるからか小奇麗なもんだなぁ……なのにどうしてかつての亜紀や直美ちゃんのお部屋はあんな……はぁ……)
「ああ、ちゃんと許可は取ってあるからな……何より俺の住んでたとこは賃貸住宅だったから個々に住み込みになった時点でお金の無駄だから手放しちゃってね……色々と節約してお金貯めないといけないし……出来る前に早く結婚資き……と、とにかくあの子も納得してるから気にすんなってっ!!」
何やら口走りそうになった亮が慌ててごまかすようにそう叫び出した。
「お、おう……そ、それならいいんだが……し、しかしやっぱり女の人の家ってのは綺麗に片付いてるもんなんだなぁ……これだと専業主夫になる亮……人は楽でいいんじゃないかなぁ……」
「……ウン、ソーダネ……オレモオンナジコトオモッテタヨ……アハハハハ……」
俺もこの話題を下手に突っ突いたら藪蛇になると思いあえて違う話題を振ったのだが、亮は力の無い片言でわざとらしく笑って見せるのだった。
「お、おい亮……お前本当に大丈夫なのかっ!?」
「……ああ、大丈夫は大丈夫だって……何だかんだで俺すっごく幸せだから……確かに滅茶苦茶疲れるけどよ、本当に毎日が楽しいんだ……」
流石に無視できず再度気遣う声を掛けるが、こちらの態度を見て亮はやんわりと首を横に振ると……穏やかに微笑んで見せてくれた。
その顔が全く似ていないのに直美や亜紀の笑顔と重なって見えるのは、きっと心の底から幸せを感じているからなのだろう。
(そして多分この顔は俺が直美ちゃんや亜紀と一緒にいる時に浮かべてる笑顔なんだろうなぁ……そっか、この二人はちゃんと愛し合ってるんだなぁ……)
ここに至ってようやく俺は二人を合わせてよかったとはっきり確信することができたのだった。
「そっか……それならいいんだ……」
「ああ、こっちのことは心配しないでくれ……それよりもう一度言うけど、本当に大丈夫なのか直美ちゃんを連れてったりして……」
一通りこの話が終わったところで、今度はこちらの番だとばかりに亮が尋ねて来る。
「大丈夫だよ……亜紀はもう二度と俺達を裏切ったりしないよ」
「確かに俺もそうは思ってるよ……だけどあの時も俺はおんなじことを思ってたんだ……あの霧島さんがあんな真似するはずないって……お前だってそうじゃないか?」
「それは……」
亮の言葉に一瞬だけ言葉に詰まってしまう。
確かにあの時の俺も亜紀のことを信頼していて……裏切られてからも何かの間違いだと思い未練がましく話しかけていたぐらいだ。
(そうだよなぁ……確かにあの時も俺は亜紀を信じてた……そして裏切られて酷いショックを受けた……だから万が一同じことになったら直美ちゃんも物凄くショックを受ける……だけど……っ)
「だからこそ心配なんだよ……直美ちゃんがそんな場を目撃したらそれこそあの時のお前みたいに……いやそれ以上に酷いことになるんじゃないかって……」
「……亮の言うことは最もだと思う……だけど俺は……俺達はそれでも亜紀を信じようと決めたんだ……直美ちゃんの母親をやろうとして頑張っている亜紀のことを……」
心配そうに呟く亮に対して、それでも俺は亜紀を信じようと思うのだった。
(そうさ、あの時とは違う……大体あの時は俺も幼馴染という関係に甘えて、亜紀のことを知ろうとせずにずっと同じ関係が続くと思ってた……ちゃんと亜紀のことを見ていなかった……だけど今度はずっと見てきたんだ、亜紀が直美ちゃんの母親に成ろうと頑張っているところを……今度こそ亜紀の本心を見間違えたりしないさ……)
「そっか……そこまで言うならもう俺は何も言わないけど、せめて俺も連れてってくれないか?」
「亮……だけどお前まで巻き込むのは……」
「巻き込むなんて言わないでくれよ……俺だって直美ちゃんのことは大切に想ってるんだ……保護者の端くれぐらいには……だから万が一の時に備えて傍にいてあげたいんだよ……直美ちゃんの有事なんだから関わらせてくれよ……頼む……」
「……」
そう言って頭を下げる亮に俺はもう何も言い返すことはできなかった。
(……俺は本当に良い親友を持ったよ……そして直美ちゃん、やっぱり亮は恋人が出来ても君のことをないがしろにする奴じゃなかったよ……じゃあ俺と亮と……直美ちゃんの三人で行くとしますかっ!!)
「しかし遅いなぁ直美ちゃん……まあ女の子だから着替えに時間かかってるんだろうけど……」
「いやいや、女の子って言ってもお洒落に興味の無い直美ちゃんのことだから着替える衣服の着方が分からないとかじゃ……そう言えばどんな服を用意したんだ?」
「ん? 何言ってんだ史郎……直美ちゃんは予め自分の服は用意してあったって言ってたぞ?」
「えぇっ!? で、でも行くって決めたのはついさっき……ま、まさか俺が何を言っても内緒で付いてくるつもりで準備して……っ!?」
「おっまたせぇ~史郎おっじさぁ~んっ!! 亮おじさぁ~んっ!!」
「「っ!!?」」
不意にドアが開き姿を現した直美……と思われる女の子の姿に俺も亮も目を丸くしてしまう。
何故なら……金髪に染めた髪の毛に臍が丸見えな上着にハーフパンツとでもいうのか物凄く面積の少ないジーパンのようなものを来ている……ギャルのような子がそこに立っていたからだった。
「えへへ~どぉだぁ~っ!! 直美だっていっしょぉけんめーお洒落をべんきょぉすればこんな魅力的なかっこぉできちゃうんだからねぇ~っ!!」
「な、な、な、な……直美ちゃんっ!? そ、そ、そ、その髪の毛はぁっ!?」
「な、な、な、なんですかそのエッチな格好はぁっ!? はしたないから止めなさいっ!! そんな子に育てた覚えはありませぇんっ!!」
「な、なんでそんないじわるゆぅのおっ!! せっかくおか……あの人に教わった若者向けのファッションをさいげんしよーと陽花と美瑠に頼んでカツラとか色々よぉいしてもらったのにぃっ!!!」




