史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん83
「行ってくるねぇ~っ!!」
「行ってくるよ亜紀」
「行ってらっしゃい……気を付けてね二人とも……」
朝になり、いつも通り手を繋いで家を出た俺達は亜紀の視線が届かない所についた時点でお互いに顔を見合わせる。
「じゃあ俺はこのまま会社に行かないで亮と合流してくるよ……スーツ姿じゃ目立つから着替えを用意してもらってるんだ」
「……うん、わかった」
俺の言葉にどこか神妙な面持ちで頷く直美。
今日は俺が亜紀の教習所に様子を見に行く日なのだから無理もない話だ。
(一体どんなことが待ち受けているのか全く分からないからな……実際に現場へ行けない直美としては幾ら俺を信じているとはいえ不安を感じちゃうよなぁ……)
尤も実際に赴く俺も緊張している面はあるのだが……それでも二人のためだと思えば何があっても絶対に亜紀を助けてやらなければという使命感の方がずっと強い。
だからこそ俺は直美を安心させるために、心の底からの微笑みを向けることが出来ていた。
「大丈夫、俺が何とかするからさ……直美ちゃんは何も考えずお友達と学校生活を楽しんでおいでよ」
「……ね、ねぇ史郎おじさぁん……な、直美も一緒に行っちゃ駄目ぇ?」
「えっ!?」
しかしそこで直美が唐突に口にした言葉に俺は少しだけ取り乱してしまう。
あれだけ俺を信じていると言ってくれた直美なのに、今更どうして同行したいと言い出したのかがよく分からなかったのだ。
(ま、まさか土壇場でやっぱり俺には任せられないと思った……りするわけないよなぁ直美ちゃんが……でもじゃあなんでだろう?)
それでも直美が俺を信じてくれているように俺もまた直美を信じているからこそ、すぐに冷静さを取り戻すことができた。
「……学校を休むことになるから出来れば止めてほしいけど……一応理由を聞いてもいい?」
「り、理由なんか特にないけど……た、ただ直美もあの人がどうなってるのか見ておきたいって言うか……史郎おじさんがどうやって解決するのか知っておきたいなって言うか……」
「不安なのはわかるけどね、だけど学校に行くのだって直美ちゃんの大事な仕事なんだよ……お願いだから俺のこと信じてるなら任せてほしい」
「……っ」
今度は優しく諭すように語りかけるが、直美は無言で俯くときゅっと俺の指先を握りしめた。
「直美ちゃん……」
「……せっかくあの人が戻ってきたのに……もしま、またどっか行っちゃったら……な、直美っ……こ、こんな気持ちじゃがっこぉなんか行ってらんないよぉ……っ」
「っ!?」
絞り出すような声で俺の胸に力なくもたれ掛かる直美。
その弱々しい姿を見て、俺は反射的に力強く直美を抱きしめてしまっていた。
(直美ちゃんはそんなにも亜紀のことを……ああ、くそっ!! 俺は何してるっ!! 信頼されてるからって調子に乗って……この子を苦しめてたら何にもならないじゃないかっ!!)
確かにまだ学生である直美にとって学校をさぼってまで何かするのは余り褒められたことでは無い。
何より大人の俺が確認に行くのだから直美が付いてきたところで、特に何かが変わるとは思えない。
しかしそんな正論よりずっと大切なことがある……少なくとも直美にとってやっと戻ってきた母親に関することなのだ。
今の直美にとって……いや誰にとっても、家族より大事なことがあるはずがない。
「し、史郎ぉおじさぁん……」
「わかったよ直美ちゃん、ごめんねそこまで言わせて……一緒に行こう」
「ふぇっ!? い、いいのぉっ!?」
まさか俺が頷くとは思わなかったのか、直美は驚いた様子で顔を上げてこちらを見つめてきた。
その瞳はほんの僅かに湿っているように見えて……だけど俺の言葉を理解したのか徐々にいつもの可愛らしい笑顔に戻っていくのだった。
「ああ、学校には俺から連絡しておくからさ……確かに今の直美ちゃんにとって一番大切なのは学校じゃなくて亜紀のことだろうし……こんな調子じゃお勉強にも集中できないだろうからね……ちゃんと問題を解決するところ見せてあげるから、それで落ち着いてから勉学に本腰を入れようね?」
「う、うんっ!! あ、ありがとう史郎おじさぁんっ!! だから直美、史郎おじさんの事だぁいすきなのぉっ!!」




