表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

274/319

史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん82

「えっと、じゃあ悪いけど最初にお風呂入らせてもらうね?」

「ごっめんねぇ~、今ちょっと盛り上がっちゃってるとこだからぁ~」

「悪いな亜紀、もうちょいで切りのいいところまで行くからさ……」


 直美と二人で俺の部屋の中でゲームに興じるふりをして、いかにも手が離せないという雰囲気を醸し出す。

 会社から帰ってきた俺はあえて直美と二人で期間限定のイベントがあると言って食事後にすぐゲームを始めた。

 そしてその流れで先にお風呂へ入る様に亜紀を促したのだ。


 果たして元々ゲームなどに詳しくなかった亜紀は簡単に信じてくれて、あっさりと俺達を残して部屋を出て行った。


(ふぅ……何とか怪しまれずに済んだみたいだな……)


「……お母さ……あの人、下降りてったみたい……もぉいいかな……」

「そっか……ならそろそろいいかな……」


 亜紀が出ていくなり直美はコントローラーから手を離してドアに耳を当て向こうの動向を伺っていた。

 そんな直美がこちらに頷きかけてくるのを見て、俺もまたゲームを止めて頷き返した。


「それで史郎おじさん……直美に話って何なのぉ……?」

「ああ、実は亜紀のことなんだけど早速動こうと思ってるんだ……だから直美ちゃんに一応伝えておこうと思って……」


 おそるおそる尋ねて来る直美に安心させるように語りかける俺。

 何せ会社から帰ってすぐに相談があると耳打ちしただけだったから、直美は話の内容もわからず不安だったのだろう。


「あ……やっぱりそうだったんだぁ……だけどこんなに早く動けるなんて流石史郎おじさんだぁ」


 それでもある程度内容は察していたのか、ほっと息をついたかと思うと安堵したように笑いかけてくれた。


「俺にとって一番大切なのは直美ちゃんだからね……その直美ちゃんが苦しんでるんなら最優先で行動するってだけだよ」

「……ほんとぉかなぁ? 実はあの人のことだから早く動いているわけじゃないのぉ?」

「えっ!?」


 しかしそこで直美は余裕を取り戻したからか、何やら疑いの眼差しを向けて来る。

 その様子は俺を揶揄っているようでもあり……真剣に何かを伺っているようでもあった。

 だから思わず間抜けな声を出してしまったが、すると直美は今度こそはっきりと俺を睨みつけながら叫び出した。


「あぁ~っ!? どーよぉしたな今ぁっ!? やっぱりほんとぉはあの人の事をぉ……」

「ち、違うってっ!! 俺が一番大切なのは直美ちゃんだからねっ!! 亜紀はその直美ちゃんの母親だか……あっ!?」


 直美の機嫌を損ねたのかと慌てて言いつくろおうとした俺は、思わず直美の前で亜紀のことを母親だと言ってしまう。


(し、しまったっ!! これじゃあ亜紀のことをもう許してると……直美の母親に相応しいと認めてるって言ってるようなもんじゃないかっ!?)


 何だかんだで内心ではそう思っていた俺だけれど、やはり一番の被害者である直美を差し置いて勝手に許すだのなんだのと決めていいはずがない。

 だからこそ直美の前では絶対に言うまいと気を付けていたのだが、どうやらやらかしてしまったようだ。


「……ふぅん」

「あ、あの……な、直美ちゃん……?」

「そっかそっかぁ……史郎おじさんは直美のことが一番なんだぁ……にひひ」


 しかし直美は意外と気にした様子もなく、むしろ俺の発言を聞いてニヤニヤと嬉しそうに笑うばかりだった。


(こ、これは俺の失言に気付いてない……のか?)


 無邪気に笑っている直美をついつい不思議そうに眺めてしまう。

 するとそのせいで気が付いたのか、直美は仕方ないとばかりにため息をついてから穏やかな口調で話し始めた。


「……なぁにその顔ぉ……ふふ、まさかあの人をお母……って呼んだの気にしてるのぉ?」

「あ……や、やっぱり気付いてたんだ……ご、ごめんつい……」

「もぉ、謝るひつよぉなんかないってばぁ……しょーじき直美も今のあの人をそう言う風に見ちゃってるし……」

「えっ!? そ、そうなのっ!?」


 直美の発言に驚愕した俺は思わず尋ね返してしまうが、直美は当然のように頷いて見せた。


「うん……まだほんのちょっとだけなぁにか引っかかってるし、最初にあんなこと言っちゃったから素直にそう呼べないんだけどさぁ……」

「……そっか」

「悪いなぁとは思ってるんだぁ……だからせめて向こうが先に名前を呼んでくれたらなぁとか思ってるんだけど……」

「……ゆっくりでいいと思うよ……直美ちゃんはなにも無理する必要ないんだし……亜紀はきっと待っててくれるから……」


 困ったように呟いた直美の言葉に俺は感激しつつ、そう優しく告げるのだった。


(そうか……やっぱり直美ちゃんも内心では亜紀のことを……なら余計にこのままにはしておけないよな……ただもしも亮が前に危惧していたみたいに亜紀が裏切るような真似してたら、この調子じゃ逆にそれこそ二度と立ち直れないぐらいのダメージを……いやっ!! そんなことは絶対にないっ!! 二度も馬鹿な真似するはずないっ!! 俺達が亜紀を信じなくてどうするんだっ!!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 一回だけれど、さらに一文字。 本当にあと一歩ですねえ。
[気になる点] 正解はわからないのですが『霧の良いところ』に違和感が
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ