史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん81
「……というわけで近いうちに有休をとらせてもらうつもりなんだけど……」
「はい喜んでっ!! 事情が事情ですし、雨宮課長にはあんな素敵な伴侶を紹介していただいた恩もありますから喜んで協力させてもらいますよっ!!」
会社の休み時間を利用して後輩の子に軽く事情を説明して見ると、すぐに勢いよく協力を申し出てくれた。
(ありがたい限りだけど……何か亮を生贄にささげた結果のような気がして後ろめた……い、いや幸せを押し付け……お裾分けしただけだからな俺……)
「あ、ありがとう……じゃあ早速だけど都合のいい日を教えてくれないかな……あんまり迷惑はかけないようにしたいし……」
「何時でも構いません……と言いたいところですけどダーリン……じゃなくて亮さんの予定を聞いてみないと……」
「あ……そ、そう……じゃ、じゃあこっちから電話して……」
「い、いいえぇええっ!! そ、そ、それには及びませぇえええんっ!! 雨宮課長の手を煩わせるほどのことではありませんからぁああっ!!」
しかし何故か俺が亮と連絡を取るというと物凄く動揺して必死に首を横に振り始めたではないか。
その姿を見ていると……やっぱり自分がとんでもないことをしてしまったような気持ちになってくる。
「……何か俺に知られたら不味い事でもあるの?」
「い、いえいえいえぇええっ!! べ、べ、別にそんなことは何も……あ、あははやだなぁ雨宮課長ったらぁ……ああっと、そろそろお昼休みが終わっちゃ……」
「まだ始まったばかりでしょうが……あれでも亮は俺の大切な親友だし、君も大切な後輩だからね……もしも二人が道を違えるような関係になってるんだとしたら出会いのきっかけを作った身として責任を感じちゃうんだけど……」
「あぅぅ……い、いえ別にそんな雨宮課長が心配するようなことは……うぅ……わ、わかりましたよぉ……」
流石に後輩の子の態度が怪し過ぎて無視するわけにもいかず、真面目な口調で語りかけた。
それでも後輩の子は少しだけモジモジしていたが、しばらくして諦めたようにそう呟くと自らの携帯を取り出しどこかへ連絡を取り始めた。
「……も、もしもし亮さん? い、いや別に何もないけどぉ……ふふ、呼び方が違うだけでそんなに心配しないでよぉ……あ、あのねちょっと雨宮課長から話があるって……う、うん……じゃ、じゃあ……どうぞ雨宮課長……」
「ありがとう……もしもし亮か?」
後輩の子から電話を替わってもらい、恐る恐る問いかけると聞き慣れた声が返ってくる。
『やあ、久しぶりだねマイフレンド……元気にしていたかな?』
「と、亮じゃねぇっ!? お前誰だぁっ!?」
声自体は亮そのものだが、その爽やかすぎる口調に俺は思わず叫び返してしまった。
『いやですねぇ、私のことがわからないのですか……それとも直美ちゃんの悪影響でふざけているのかい? 全く史郎君はおかしな人だなぁ』
「……済みません間違えました……さようなら」
色々と耐えかねて一方的に通話を終わらせた俺は、両手で目頭を押さえてしまう。
(俺の知ってる亮はもういないんだ……ごめんよ亮、俺が悪かったよ……)
「あ、あの……雨宮課長……?」
「……ねぇ、君は一体何を……っ!?」
『ピリリリリっ!!』
そんな俺に恐る恐る声を掛けてきた後輩の子に、何を言えばいいかもわからないまま口を開こうとしたところで今度は俺の携帯が鳴り響き始めた。
直美や亜紀からの連絡だったら困ると一旦会話を打ち切り携帯を取り出したところ、かけてきた相手は亮のようだった。
少しドキドキしながらも……次いで二、三回ほど深呼吸してから通話状態にした携帯を耳に当てる。
「も、もしもし……?」
『切るなよなぁ史郎ぉ~っ!! あははっ!! 冗談だってのっ!!』
「なぁっ!?」
しかしそこで聞こえてきたのはかつてと同じ口調で笑う俺の知っている亮の声だった。
『いやぁ、最近中々連絡とれなくて心配してんだろうなぁと思ってさ……悪い悪い』
「お、お前なぁ……はぁ……わかってんなら心臓に悪い事すんなよなぁ……」
向こうの言葉に少しだけイラっとしつつも、それ以上に安堵の気持ちで胸がいっぱいだった。
(だ、だよなぁ……幾らこの子が亮に執着してるからって同棲したぐらいで人格が変わるぐらい追い詰められるはずないよなぁ……何を過剰に心配してたんだか俺は……)
その事実を再認識した俺はようやく肩から重荷が降りたような気分になるのだった。
『ははは、まあそれはともかくとして用事って何なんだ? ハニ……あの子が連絡を許……外から連絡してくることなんて一時間おきにしかなかったのに……』
「……と、亮君? やっぱり君何か……」
『あはははは、史郎お前何言ってるんだ……俺は絶叫調だぞぉっ!! 何たってあんな魅力的な女性と身も心も結ばれ過ぎ……と、とにかく俺は滅茶苦茶ハッピーだぜぇ……ただちょっと……かなり……非常に……物凄く疲れるだけで……はぁぁ……一日のノルマをせめて一桁に抑えてくれればなぁ……」
最初は勢いよく語っていた亮だが、最後には枯れた老人の様な哀愁を漂わせた弱々しい声になっていた。
何やら色々と突っ込みたいような気もするが……突っ込んだら負けなような気もして結局俺は何も言えないのであった。
(亮ぅ……お前それ本当に幸せなのかぁ……うぅん……けどこいつさり気なく俺より先に卒業……しかもこんな美人な女性と……な、なんか悔しいというか寂しいというか……やっぱりこれはこれで一つの愛の形……なんだろうか?)




