史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん80
「じゃあ行ってくるよ」
「行ってくるねぇ~っ!!」
「行ってらっしゃい二人とも、気を付けてね……」
玄関先まで見送りに来てくれる亜紀へ手を振り返しながら、今日も早めに家を出た俺は俺は直美と共に通学路を歩いていく。
これは人目を気にする直美のためなのだが、今回だけは別の理由もあった。
「……直美ちゃん、ちょっといいかな?」
「……なぁに史郎おじさん?」
俺は亜紀の目が届かない場所までたどり着いたところで足を止めて直美に向き直った。
すると直美は少しだけ周りの様子を伺っていたが、それでもまるで俺の問いかけが分かっていたかのように落ち着いて尋ね返してくる。
「実はさ、亜紀のことなんだけど……」
「……なぁんか昨日の夜から変だったよねぇ」
「ああ、やっぱり直美ちゃんも気づいてたんだね……」
「うん……だってあんな顔するおかあ……あの人、最近全然見なかったから……」
俺の言葉に直美は神妙な顔で頷いて見せた。
(そっか……直美ちゃんも感じてるんなら俺の勘違いってわけじゃなさそうだな……)
恐らくは直美もはっきりとは確信が持てなかったようだが、俺が同じ気持ちを抱いていると知って確信したようだ。
不安そうに家の方を振り返った直美は、そのまま繋いでいた俺の手をきゅっと握りしめて来る。
「史郎おじさん……直美ね、なんかあの人があんな顔してるの見たくないの……昔はすっごく憎んだり怨んだりしてたはずなのに……笑っててほしいの……だから何か……」
「直美ちゃん……直美ちゃんは本当に良い子に育ってくれてたね……俺の自慢だよ……」
「あ……えへ……」
そんな直美を安心させるように優しく語りかけながら、子供の頃のように頭を撫でてあげる。
それだけで直美は安心したような笑い声を洩らすのだった。
「安心して直美ちゃん……ちゃんと考えてあるから……」
「……えへへ、そっかぁ……史郎おじさんが考えてくれてるならだいじょぉぶだよねぇ……直美、信じてるから……」
直美は俺のことを心底信頼してくれているのか、何も言わないうちにそう言ってくれるのだった。
(こんないい子が俺なんかを信頼してくれてるなんて……この期待は絶対に裏切れないっ!!)
改めてやる気を出した俺は、直美に向かって再度安心させるようにはっきりと頷いて見せるのだった。
「そうだよ、こういうのは大人の俺に任せておけばいいの……直美ちゃんは何も気にしないで、安心して毎日を楽しんでてよ」
「はぁい、直美史郎おじさんのゆーとぉりにするぅ……」




