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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん79

「にゃはは~っ!! 直美ちゃんのあっしょぉ~っ!!」

「ふふ、本当に強いなぁ……私、全然敵わないや……」

「……そうだなぁ」


 俺達は今日もまた夕食とお風呂を終えた後、眠くなるまで一緒にゲームして遊んでいた。

 しかしいつものことだが、今日も直美一人が圧勝している状態が続いている。


(元々直美ちゃんは俺よりゲーム全般の腕が上回ってた……だからそれ自体は問題ないんだけど……どうしたんだ亜紀の奴は……?)


 それに対して一度も勝てていない亜紀だがこれもまた一応いつも通りではあった。

 何せ亜紀は殆どのゲームに触れたことも無い素人なのだから安定して勝てるはずがないのだが、それでも俺と直美がやり合っている間に勝ち抜けすることは零ではなかった。


(なのに今日は一度も勝ててない……直美ちゃんと遊びという形とはいえ向き合えるんだから、手を抜いたりはしないと思うんだけどなぁ……)


「さあさぁ~、次々ぃ~……このまま直美が勝ち続けて史郎おじさんの朝ごはんから晩ごはんまでのオカズぜぇんぶ独り占めしちゃうんだからぁ~っ!!」

「ちょ、ちょっとぉ……流石にそれは勘弁してぇ……俺お腹減って倒れちゃうってぇ……」

「ふふふ……あんまり史郎を虐めちゃ可哀そうよ……」


 亜紀の様子が何か引っかかる俺だが、直美の方は全く気にしていないようでニヤニヤと笑いながらこちらに絡んでくる。

 そんな直美を見て亜紀もまた穏やかな微笑みを浮かべている……のだが、やはりその笑顔が俺の目にはいつもより弱々しく見えてしまう。


(気にし過ぎなのか俺は……昨夜の亜紀に感じた違和感のせいで、少し考え過ぎてるだけなのか……?)


「だめだめぇ~っ!! しょぉぶの世界はきびしぃのだぁっ!! さあもう一試合、今度はお昼ご飯のおかずを掛けて勝負を……」

「終了っ!! 今日のお遊びはこれで終了ですっ!! ほらもう十一時過ぎてるし、そろそろ寝ないと直美ちゃんも明日学校があるでしょっ!? 俺達だって仕事と教習所に行かなきゃいけないんだからもう寝ないときついんだって……なぁ亜紀?」

「……うん、そうだよね……明日も教習所行かなきゃだもんねぇ……」


 更に罰ゲームを迫ってくる直美に、これ以上付き合ったら大変なことになると判断した俺は強引にこの話題を打ち切ろうとした。

 そして亜紀にも話を振ったのだが、そこで亜紀は少しだけ困ったような声を発したのだ。


「ほぇ……おか……何か顔色良くないけどぉ……教習所でなんかあったのぉ?」

「えっ!? い、いやそんなことないけど……あはは、ただちょっと私には難しいかなぁって……まあせっかく史郎がお金出してくれたんだから頑張るけどね」


 流石にこうなると直美も亜紀が少し変だと感じたようだが、それでも亜紀は何でもないとばかりに首を横に振って笑顔でごまかしてしまう。


(何か変だな……確か亜紀が通ってる教習所って俺がかつて通ってたところだよなぁ……俺ですら簡単に取れるぐらい優しいことで有名だったのに難しいって……?)


 色々な教習所を調べた亜紀だが、結局は家事と両立させるため一番近所にある場所に通っていた。

 だからかつての記憶から亜紀の言うことが不思議に思えてならないが、俺が免許を取ってから十年以上が経過している。


(まさか嘘を言ってるのか……だとしたら何かを隠し……いや、今の亜紀が俺達を騙すような真似するわけないじゃないか……)


 一瞬、かつて裏切られた時のことを思い出して疑心暗鬼が芽生えそうになるがすぐに俺はそんな気持ちを振り払った。

 昔からずっと俺は亜紀を見続けてきた……裏切られる前も裏切られた後も、こうして再開してからもだ。

 多分今では俺が亜紀と誰よりも長く、それこそ両親よりも傍で見続けてきたのだ。


(そんな俺が改心した亜紀を信じてやらなくてどうするんだよ……だけど、だとしたら亜紀は一体何が……?)


 これが俺の勘違いならば問題はないが、もしも本当に亜紀が嘘をついているのだとしたらそれは当然何か知られたくないことを隠していることになる。

 しかし亜紀が俺達を裏切っていないのだとしたら……裏切っていないに決まっているのだから、知られたくないこととは多分……俺達が知ると心を悩ませるような問題なのではないだろうか。


(或いは自分の問題だから、これ以上俺達に迷惑をかけないよう一人で解決しようとしてるのかもなぁ……もしそうだとしたら俺達が問い詰めても逆に心苦しくなれど素直に答えたりはしないだろうなぁ……)


「……そっか、でも無理だけはするなよ?」

「……うん、わかってるよ史郎……大丈夫、私頑張るから……」

「うぅん、お車の運転ってそんなに難しいんだぁ……直美出来るかなぁ……」


 だからあえてそれ以上突っ込まずにそう告げると、亜紀はどこか安堵したように……それでいて何かを決意した様子で深く頷いて見せるのだった。


(やっぱり何か抱え込んでるのかな……だとしたら何とかして力になってやりたいんだけどなぁ……)


 かつて俺が亜紀に振られて落ち込んでいた頃、寄り添おうとしてくれていた亮を遠ざけようとしたことを思い出す。

 あの時の俺も自分の問題だからと他人を遠ざけて、自分一人で解決しようとして……余計に苦しんでいた。

 それでも亮が傍にいて支え続けてくれていたからこそ何とか立ち直ることができたが、そうでなければどうなっていたことか。


(ひょっとして物凄く精神的なトラウマを背負って……下手したら女性恐怖症とかになって精神がボロボロになってて……社会にも適応できず人生が滅茶苦茶になってたかもしれない……)


 そう思うからこそ俺は本当に亜紀が何かで苦しんでいるのならば……かつて亮が支えてくれたみたいに亜紀のことを支えてあげたいと思うのだった。


(……今度時間作って内緒で教習所に様子を見に行ってみるかな……有給さえ取れれば問題ないけど……後輩の子が頑張ってくれてるから事情を話せば一日ぐらいはいけるかな?)

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― 新着の感想 ―
[一言] 色々とよくない雰囲気が、、
[一言] 教習所では、色々あるんでしょうねえ… うまく助けてあげられるかなあ。
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