史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん78
「……ってなわけで、最近は後輩の子が物凄く活力的で仕事自体はかなり楽になっててねぇ……まあ代わりに亮は……多分幸せにやってるとは思うけど……」
「あはは、やっぱり捕まっちゃったんだぁ……だけどあの子は変な目的じゃなくて純粋に愛情だけで嵐野君を見てるみたいだからあれはあれでいい関係だと思うよ」
三人で同じ部屋で横に成りながら、俺は今日の出来事を語っていた。
眠る時間まで三人で遊んだ後はこうして一緒に布団へと入り、そして眠くなるまでお互いに今日会った出来事を話し合うようにしてるのだ。
「ふぅん……そぉなんだぁ……やっぱり亮おじさんはあの人と……どぉりで最近、お家に顔を出さないわけだぁ……なぁんか寂しいなぁ……」
亮の状況を聞いた直美は少しだけ寂しそうに呟くと、ギュっと俺の身体にしがみ付いてきた。
「……大丈夫だよ直美ちゃん、今はまだ生活が安定してないから動くに動けないだけだって……また少ししたら一緒に遊べるようになるにきまってるよ」
「……うん、わかってる……とーるおじさん優しいからあの人と付き合いだしても直美と仲良くしてくれるはず……だけどやっぱり、ちょっとは遠慮しないとね……せっかく亮おじさんに来ないはずの春が来たんだから……」
俺の言葉に頷いて見せながらも直美は寂しそうに笑って見せる……さりげなくきつい言葉を吐きつつ。
(こ、来ないはずの春って直美ちゃん……いやまあ間違っても無いけどさぁ……だけど親代わりの亮が離れていくのをこうして一応笑顔で受け止められるなんて……それだけ余裕ができた証拠だよな……)
前に亮が離れて行った際に見せていた取り乱しようからは考えられない姿に、直美の成長を実感してしまう。
そしてそれは間違いなく亜紀が戻ってきて、彼女が与えてくれた影響のおかげだろう。
「……そうよね、嵐野君にとって初めての恋人だもんね……もう少しだけ水入らずで居させてあげたほうが……寂しいだろうけど少しだけ関わるのは我慢しなきゃね」
「別に寂しくないもん……直美、もう遊び相手沢山いるから……史郎おじさんもいるし陽花と美瑠もいるし……それに……」
「あ……っ」
そこまで口にしたところで直美は布団の中でモゾモゾと身体動かし……亜紀が驚きの声を上げた。
そしてすぐに亜紀は嬉しそうに微笑みながら自分の方を見つめて来る直美の顔を見つめ返した。
「……もいるから……だから亮おじさんと遊べなくなってもへーきなの……その分、お家にいる二人にたっくさん直美の相手してもらっちゃえばいいもん……」
「……うん、私で良ければ幾らでも付き合うから」
「ああ、俺も……直美ちゃんと遊ぶのは楽しいから幾らでも付き合うよ……ただ、さっきみたいな罰ゲームありきの遊びはごめんだけどね……」
「えぇ~、あれはあれで楽しかったじゃぁ~ん」
俺と亜紀に挟まれている直美はこちらの返事を聞くと、寂しさなど消え失せたような微笑みを見せてくれるのだった。
(少し早いけど、ちょっとした親離れを直美ちゃんは無事に済ませられたんだな……この調子だと俺から巣立つ日も早いかもな……嫌だけど……ずっと俺の傍にいて欲しいけど……)
「あ、あはは……流石に負けたら脱衣するのは今の私には刺激が強すぎるというか……ま、まさかとは思うけど学校でもあんな遊びしてるんじゃ?」
「そんなわけないじゃん……直美はこれでもがっこぉじゃあゆーとーせぇでとぉってるんだからねぇ~」
「……絶対嘘だぁ」
亜紀が不意に心配したように呟いた言葉に、直美は自信満々に胸を張って……大嘘を答えて見せる。
(成績から出席頻度まで問題しかない生徒じゃないかぁ……まあ最近は出席の方はかなり改善されているけど……)
「むむぅ……史郎おじさんたら可愛い直美の言葉が信じられないのぉ?」
「信じられる要素が欠片も無いんだよぉ……」
「ま、まあまあ史郎……ここまで言うんだから信じてあげようよ……それで今日は学校でどんなこと習ったの?」
「……デッキの組み方とか捨て牌の読み方とか……FPSする際のコントローラーの持ち方とか……」
「……うん、それってお友達とのお話した内容だよねぇ……授業内容一切覚えてないじゃないかぁ……」
やんわりとした亜紀の問いかけに、何故か明後日の方を見ながらしぶしぶと答え始める直美。
その内容は余りにもお勉強とはかけ離れていて、少しだけ涙が零れそうになる。
(はぁぁ……これじゃあ下手したら留年するんじゃ……まああの二人が見ててくれるから大丈夫だろうけど……だけどまあ直美ちゃんが学校での出来事を話してくれるようになっただけでも十分嬉しいけどさ……)
しかしそれ以上に、今までは学校での出来事など触れようともしなかった直美がお友達とどんな会話をしてくれているかだけでも話してくれることが嬉しかった。
それだけでも俺はこの深夜の話し合いに意味はあるように思えるのだった。
「も、もぉ史郎おじさんはいちいちうっさいのぉっ!! がっこぉの話よりきょぉしゅーじょのこと教えてよぉっ!! 約束したでしょぉっ!!」
「あ……う、うんいいけど……あのね教習所では学科と実技の二つを学ばなきゃいけないんだけど……学科は要するに学校でのお勉強と一緒……それで実技は先生と二人で車に乗って色々と……はぁ……」
「亜紀、どうかし……」
「にゃぁぁっ!? が、がっこぉといっしょぉっ!?」
最後に亜紀が教習所であったことを話し出して……だけどその際にほんの僅かに表情を歪めてため息を漏らしたように見えた。
だから思わず尋ねようとしたが、その前に直美の悲鳴が室内にひびき渡り俺の言葉をかき消してしまうのだった。
「だ、大丈夫よ……テストとかも無いみたいだし学校の授業よりはずっと楽よ……ただちょっと眠いけど寝たら駄目ってだけで……」
「そ、それだけでもじゅぅぶんつらいよぉ……うぅ……寝ちゃだめなんてぇ……」
「……直美ちゃん、本当に学校でどんな生活態度取ってるのさぁ……ついでに言うと免許を取る際には九十点以上取らないと駄目な足切りテストあるからね」
「はぅうぅっ!? そ、そんなぁあああっ!?」
「えぇっ!? きゅ、九十点以上ってっ!? う、うそでしょぉっ!?」
俺の指摘に直美だけでなく亜紀までも更に驚愕の声を上げ始めて……先ほどの雰囲気がまるで俺の期のせいだったかのようにしか感じられなかった。
(……何だったんだろう……本当に気のせいなのか……それとも……?)




