史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん76
「ただいまぁ~」
「お帰りなさい史郎、今日もお疲れ様……ご飯もお風呂も出来てるけどどっちにする?」
仕事を終えて家に帰り着くなり、いつも通りエプロン姿の亜紀が笑顔で出迎えてくれる。
そしてもはや慣れた手つきで俺から荷物を受け取りつつそう聞いて来てくれるが、俺はそのたびに一瞬ドキッとしてしまう。
(やっぱりこのやり取り……何より亜紀の姿もだけど……確かに新婚とか仲のいい夫婦のやり取りにしか見えないよなぁ……)
「おっかえりぃ史郎おじさぁ~んっ!! もちろん選ぶのはな・お・み・だよねぇ~っ!!」
「おおっとぉっ!? と、飛びついたら危ないってば……ただいま直美ちゃん……」
更にそこへ俺の部屋から飛び出してきたであろう直美がドタドタと足音を鳴らしながらこちらに飛びついてきた。
そんな愛おしい直美を抱き留めてあげて、そのまま頭を撫でてやると嬉しそうに密着してくる。
その可愛らしい仕草に心が癒されそうになるが、同時に押し付けられる直美の胸部の感触にこれまたドキッとしてしまう。
(な、直美ちゃんったら……またわざとなのかなぁ……子供っぽい仕草は多いけど、やっぱりちゃんと成長してるんだよなぁ……)
幼い頃から面倒を見続けてきたためか、俺の中ではまだまだ子供のような印象が強い。
しかし直美はもう数年もすれば高校を卒業して、結婚もできる年齢になってしまうのだ。
(……まだまだ子供で居てほしいなぁ……多分亜紀もそう望んでるだろうし、そうなれば二人ともまだまだ俺の傍にいてくれるはずだからなぁ……いっその事ずっと傍にいて欲しいぐらいだし……それこそ誰かと結婚なんかしてほしく……って何考えてんだか俺は……)
昼間の話が意識に残っていたのか、結婚という単語が脳裏に浮かび……何故かそれを嫌がっている自分に気が付いた。
「……」
「……どうしたの史郎?」
「あれぇ? 史郎おじさん黙りこんじゃってぇ……どうかしたのぉ?」
「あ……い、いや別に……そ、そうだなぁ……今日のところは疲れてるし先にお風呂に入ろうかなぁ~」
思わず二人のことをじっと見つめてしまった俺だが、二人が不思議そうに尋ねて来たところでようやく現実に意識が戻ってきた。
慌ててごまかすようにそう呟き、俺は頭を冷やすためにもササっと二人から距離を取りお風呂へと向かうのだった。
(はぁ……どうしたんだか俺は……そんなにあの二人が俺の傍から離れるのが嫌なのか……嫌に決まってるよなぁ……)
服を脱ぎシャワーで軽く身体を洗い流しながら、ぼんやりと二人のことを思う。
世界で一番大切で愛おしい直美……そしてかつて愛していた初恋の女性であり、今は全力で俺達を支えようとしてくれている亜紀。
俺の人生は前半が亜紀、そして後半は直美への想いで占められていたと言っても過言ではない。
そんな二人が今、俺の傍で幸せそうに笑ってくれていて……しかも俺に対して好意を示してくれているのだ。
この状況に俺が幸せを感じないわけがなかった。
(そりゃあこの状況を手放したくないって思うのも無理はないけど……だけどあの二人の幸せを考えたらこんな疑似家族生活にいつまでも甘んじさせ続けるのは……どうなんだろう?)
俺はともかくあの二人はその気になれば素敵な異性と本当の家庭を築くことは不可能ではないだろう。
それなのにこんな歪な……とは言いたくないが、真っ当とは言い難い同棲生活をいつまでも続けていくのは余りよろしくない気がするのだ。
(少なくとも今の関係のままじゃ事情を知らない他人には何とも説明しがたいし、健全とは言い難い……下手したらそれこそ変な目で見られかねない……)
血のつながりの無い異性と共に暮らしているなどという状況は、傍から見れば爛れた関係に思われても不思議ではない。
ましてただでさえそう言う下種染みた視線に直美は耐えかねているのだから、余計にこのままではいけないと思ってしまう。
(それこそいっそのこと、昼間にあの子が言ってたみたいに二人のどっちかと俺が結婚でも出来れ……ってだから俺は何を勝手に一人で盛り上がってるんだっ!?)
無意識のうちにあの二人との結婚生活を夢想しそうになっていることに気付き、シャワーから冷水を出すことで文字通り頭を冷やした。
(全く……大体俺はあの二人とそう言う関係なんか……直美ちゃんはまだまだ子供だし……亜紀のほうは多分俺は男性の好みから外れてるはずだし……だから結婚なんか……)
『史郎おじさぁ~ん』
『史郎ぉ』
「……ってだから何考えてんだよ俺はっ!!」
またしてもあの二人が甘い声で呼びかけて来るところを妄想しそうになって、俺は今度こそ思考を紛らわすべく湯船に頭から飛び込むのだった。
「……ふぅ……落ち着い……っ!?」
「史郎おじさぁ~ん、あんまり遅いから直美がお手伝いしてあげるぅ~……にひひ~」
「し、史郎……の、のぼせてない……よね? ちょ、ちょっとさっき態度が変だったし……心配だから私達も一緒に……えへ……」
「っ!!!?」
ようやく気持ちが落ち着いて湯船から顔を出したところで、思いっきり肌色と鮮やかな桜色が目に飛び込んできて……俺は再度息を止めて湯船に潜るのだった。
(な、な、なななななっ!? 何でお風呂入って来てるのぉっ!? し、しかも二人してはだ……も、もろに見ちゃ……っ!?)
「直美も入るぅ~そしてしろぉおじさんつっかまえたぁ~っ!!」
「だ、大丈夫史郎? 私が今後ろから支えて……え、えへへ……さ、三人で入ると流石に狭いねぇ……」
「っ!!!!?」
(ま、前と後ろから柔らかい何かがっ!? 何かがぁああっ!?)




