史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん74
あれから俺は幸せな日々を送っていた。
「とぉっ!! 史郎おじさんおっはよぉっ!!」
「がふっ!? お、おはよう直美ちゃん……何度も言うけどボディプレスで起こすのはいい加減やめて欲しいんだけど……」
「えぇ~、おはようのちゅぅで起こしちゃだめだって言ったの史郎おじさんじゃぁ~ん」
「あ、当たり前でしょうがぁ……まったくもぉ……」
朝はアラームの無機質な音ではなく直美によって優しく……ではないが起こして貰える。
そして最初に見る光景は満面の笑みを浮かべている可愛らしい直美の姿。
それだけでも癒されるのに、そんな直美に連れられて食卓へと移動すると既に美味しそうな朝食が並んでいるのだ。
更にエプロン姿の亜紀が起きてきた俺を笑顔で……かつて大好きだったころの顔で出迎えてくれる。
「おはよう史郎、よく眠れた?」
「ああ、おかげさまでぐっすりと……おはよう亜紀、いつも朝食作ってくれてありがとな……」
「これぐらい大したことじゃないよ、これから学校と職場に出向く二人のためだもん……さあ座って食べましょ?」
「はぁ~い、直美は史郎おじさんの隣で一番おかずの多いお皿のある席~」
亜紀の言葉に素直な返事をした直美が俺の隣に座り、亜紀もまた反対側になる俺の隣に座り直美と向き合う形となった。
「「「いただきます」」」
そして三人で手を合わせて、まるで家族のように一緒に食事をとり始める。
「もぐもぐ……うん、今日も美味しいよ亜紀」
「ふふ、そう言ってくれると嬉しいなぁ……頑張ったかいがあるよ」
「むぐむぐ……はぁ……ほぉんと最初の頃に比べるとすっごくじょーたつしたよねぇ……このちょぉしで直美の好物をどんどんおぼえるよーにっ!!」
毎日料理を作ってくれているだけあって亜紀の料理はかなり上達してきている。
おかげで俺も直美もついついお腹いっぱい食べてしまい、逆に体重が不安になってくるぐらいだ。
(はぁ……幸せ太りってのはこういうことなんだろうなぁ……本当に俺は幸せ者だなぁ……)
亜紀が家事を全てこなしてくれて、また直美とも仲が良くなったことで彼女の精神状況を気にすることも減ってきた。
その為俺は仕事に今まで以上に打ち込めるようになり、近々出世も見えてきているほどだ。
(そりゃあ仕事にも力が入るよ……こんな可愛くて愛おしい女性二人を養うためなんだから……このままずっと亜紀には家にいてもらいたいぐらいだ……)
余りにも幸せすぎて俺は今の状況がずっと続けばいいと思ってしまう。
しかしそう言うわけにはいかない……亜紀は直美の母親として立派にやって行こうと就活やそれに伴う資格の獲得を頑張っているのだから。
(いつかは外に出て行っちゃうんだよなぁ……こんな家族みたいに上手くやれてるのに……残念というか名残惜しいというか……)
今では俺の生活に亜紀は欠かせない存在になっている……恐らく直美にとってもだ。
だからこそ亜紀が独り立ちする日のことを思うと俺は妙に胸が苦しくなる。
(もしも亜紀が立派に仕事も見つけて一人暮らしできるようになったら……そしてそのころまでに直美ちゃんと母娘としてしっかり関係を築けたら……二人してこの家を出ることだって……俺、耐えられるかなぁそんなの……)
「……史郎? お箸が止まってるけど……どうかしたの?」
「あっ!? い、嫌別に……」
「ふっふぅんっ!! いらないんなら直美がおかず貰っちゃうもんねぇ~っ!!」
「ちょ、ちょっとぉっ!? 誰もいらないなんて言ってないでしょぉっ!!」
「……ふふ、もう争わないの……私の分、分けてあげるからね?」
ちょっとした考え事をしていただけで亜紀が不安そうに話しかけて来て、ごまかそうとしている間に今度は直美が俺からおかずを奪い去ろうとする。
慌てて直美へ対処する俺だが、そんな俺達の様子を見て亜紀は不安を忘れてしまったかのように笑いだすのだった。
(色々考えても仕方ないな……そんなことしてこの二人を不安にさせたら本末転倒だもんな……それにどのみち、直美ちゃんだってあと数年もすれば独り立ちする時期になるんだから……はぁ……寂しくなるなぁ……)




