史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん66
「ど、どうだ……無事に帰り着いただろ?」
「うぅぅ……た、ただの奇跡だよぉ……」
「はぅぅ……こ、怖かったぁ……あんなに沢山クラクション鳴らす人がいるなんてぇ……」
何とか自宅まで戻ってきた俺達は、買ってきた荷物を居間まで降ろしたところで疲れ切ってソファーに崩れ落ちてしまった。
(はぁぁ……な、何であそこまで慎重に運転してたのに、クラクション鳴らす奴がいるんだろうか……?)
制限速度をしっかり守って走行していただけなのに酷い話だ。
おかげで運転していた俺は元より、後部座席にいた二人の精神的な疲労も計り知れないものだった。
「も、もぉ直美は二度と史郎おじさんの運転するお車には乗らないんだからねぇ……」
「そんなに嫌わなくてもいいでしょぉ……何だかんだで色々買えたのは車だからだよ?」
そう言って俺は自分一人では一度に持ちきれなかった荷物の山を指し示す。
何せ直美に言われるままに衣服からゲーム機、更には食料品まで大量に買い込んだのだ。
もしも車でなかったら、これだけの量を持って帰るのは不可能に近かった。
「それはまぁ……そうなんだけどぉ……」
「うん、それは本当に助かっちゃった……本当ならこっちの食料品は私が歩いて隣町まで買いに行くところだったんだから……ありがとう史郎」
「うぅ……亜紀だけだよそう言ってくれるのはぁ……なら今度もまた買い物がある時は送り迎えして……」
「あ、あはは……気持ちだけ受け取っておこうかなぁ……」
その事実を指摘すると亜紀は心の底からの感謝を告げてくれるが、それでもやはり俺の運転は嫌なようだ。
亜紀にまでお断りされてガッカリしている俺の前で、直美はやれやれとばかりに肩をすくめて見せた。
「全く、しろぉおじさんは少しぐらい自分の駄目なところ見つめ直したほーがいいってばぁ……でも確かにお車自体は便利だったよねぇ……直美がこぉこー卒業したら免許真っ先にとりにいこぉかなぁ~」
「……直美ちゃんが運転ねぇ」
実際に直美が車を運転するところを想像しようとして……何故か某ゲームのようにカメの甲羅だとかバナナの皮を前方の車に投げつけるところが思い浮かんでしまう。
(まさか幾ら何でもそんな真似……けどドリフト走行とか言って左カーブでインド人を左に……じゃなくてハンドルを思いっきりきったりしそうな感じが……危なすぎる……)
「むぅ……何か不満でもあんのぉ?」
「い、いや別に……だけど教習所にはちゃんと通って運転の仕方は覚えようね?」
「あのねぇ史郎おじさぁん……私を何だと思ってるのよぉ……」
「……そっかぁ……貴方はもうすぐ免許も取れる歳に……ふふ、もうすぐ追い抜かれちゃいそう……」
俺と直美のやり取りを見て亜紀は嬉しさと寂しさが入り混じったような声を洩らした。
(亜紀は免許を持ってないもんな……だけど多分、そういうことじゃないんだろうなぁ……)
今になって直美の親をやり直している亜紀にしてみれば、出来たばかりの子供がすぐに大人に成長してしまったような気分なのだろう。
だからこれまで見過ごしてきた沢山の思い出となるべき出来事を今更ながらに勿体ないと思っているのか、それともこれから共に過ごせる時間の少なさを感じ取っているのかもしれない。
「……なら、亜紀も車の免許取りに行くか?」
「えっ!? い、いやだからいいってば……お金勿体ないし、私が運転できるようになっても何も……そ、それに今から通ったりしてたら、また就職が遅れて……」
「免許の有無でも多少は就職が有利になると思うし身分証としても使える……何より亜紀が運転できるようになれば、あの車も腐らせておかなくて済むからな……この調子だと俺は運転させてもらえなそうだし……」
そう提案した俺だが、内心で思っていたのはもう少しだけ別のことだった。
(車が使えれば直美ちゃんはお出かけできるって分かったからな……だけど俺の運転じゃ嫌がられるからこそ亜紀が免許を取って運転できるようになれば……もっと一緒にお出かけする機会も増やせるはずだ……)
買い物でも何でも、今日の様子からして皆で遊びに行けば直美と亜紀はもっと交流が深まるはずだ。
(過ぎたことは取り返しがつかない……ならその分だけ、これから思い出を作って行けばいいだけだからな……)
「あったりまえでしょぉ……まだ運転する気だったなんてぇ……もぉ良いからおか……あんたが免許取って史郎おじさんから車奪っちゃってよぉ……幾ら初心者マークでもあそこまで酷くないだろうし、そぉしたらまたお買い物だって……」
「あ……」
直美もまた俺の最後の言葉に呆れてはいるがおおむね同意見のようで、そっぽを向きながらも亜紀に免許の取得と……また一緒にお出かけしたいと告げて来た。
「そうだな……俺も亜紀が運転してくれるなら色々と頼めることも増えそうだし……何なら仕事が忙しい日とか駅まで送り迎え頼めたら助かるからな……亜紀さえよければ俺がお金を出すから免許を取って来てほしい……」
「…………わかったよ、うん……二人がそう言ってくれるなら私……ちょっと教習所に通ってみる、ね?」
直美と俺からそこまで言われた亜紀は感激した様子で黙り込んでいたが、少しすると決意を込めた眼差しで俺達を見つめ返してきて……微笑みながらそう答えるのだった。
「ふふふ、じゃあ明日から頑張ってねぇ~……あっ……で、でもあれだよ……えっと……その……ご、ご飯作りとか家事とかはサボっちゃ駄目だからねっ!! 直美が……じゃ、じゃなくて史郎おじさんがお仕事行っている間だけ教習所に通って……」
「……そうだな、確かある程度は時間を選べるはずだから……出来るだけ俺達が出かけて居る間に通って、戻ってきたら家事をやってくれると凄く助かる」
「……ふふ、わかってるよ二人とも……通うのは基本的に平日だけ……貴方達が家に帰ってくる前に戻ってきて家事を済ませておくね……」
「そ、そぉ……ま、まあそれならいいんじゃん……ふぅ……よか……」




