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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん63

 ショッピングセンターの一角にあるお洒落なスイーツ店へ今まさに入って行った人影は亮にしか見えなかった。

 しかし俺はむしろ自分の目の方を疑ってしまい、本当に今のが亮なのか自信をもつことができなかった。


(ゲーセンとか、それこそさっきまで俺達が居た玩具屋ならともかく亮がどうしてこんな若い女の子が集まりそうな場所に……そう言えばあいつ、今日はあの子とお出かけするって……)


 そこでふと前に後輩の子と交わした会話の中で、彼女が隣の駅を利用していると聞いていたことを思い出した。

 恐らく彼女自身の住居も近くにあるのだろう……だから亮が気を使ってこちらまで出向いてきたのだとすれば、この辺りで一番大きなこのショッピングセンターへとやってくるのは自然だし、彼女がここに入りたいと言えば断りはしないはずだ。


 果たして入り口から少しお店の中を覗き込んでみると、奥に入っていく亮は後輩の子と共に奥に進んで行っていた。


(あ、あれ……あの子なんか物凄くおめかししてないか?)


 会社とプライベートの違いがあるとはいえ、普段よりずっと美人に見える後輩の姿に何だか困惑してしまう。

 そんな子と見た目では釣り合いの取れていない亮が傍にいるために、周りから物凄く視線を向けられている。

 しかし当の本人は気にした様子もなく……むしろ楽しそうに微笑みながら後輩の子と何かを話し続けていた。


「やっぱりあれとぉるおじさんだよねぇ~……そっかぁここでおデートしてたんだぁ……にひひ、ここであったが百年目ぇ~っ!! 史郎おじさん、私達も乗り込もぉっ!!」


 直美も亮を見たことで昨日の話を思い出したのか、急に悪戯っ子のように微笑むとお店に突撃しようとし始めた。

 どうやらアニメなどでよくあるデート追跡をして影ながらサポート……する振りして茶々をいれたいようだ。


「い、いや邪魔したら悪いからね……それに変なことしたらお店にも迷惑が掛かるし……」

「そ、そうよ……あんな幸せそうにしている嵐野君を邪魔したりしたら駄目よ……」


 だけど幾ら何でもあんなに楽しそうにしている二人の邪魔は出来ない……傍から見ていても結構いい雰囲気に見えているのだから。


(亮が……俺と同じで全く女性と縁がなかったあいつにもついに春が……あの子も幸せそうに笑ってるし満更でもなさそう、どころかあの気合の入ったおめかしからしてむしろあの子の方が……)


 少しだけ同じ境遇にあった同士が先に行ってしまうような気がして寂しい気もするが、俺のことをずっと支え続けてくれた親友には幸せになって欲しい……報われて欲しいと心の底から思えた。

 だから俺は邪魔しないで立ち去るつもりでいるし、多分同じ様に亮に助けられた亜紀もそのつもりのようだった。

 しかし直美だけは、どうにも不満なようで頬を膨らませながら俺達を睨みつけて来る。


「むぅぅ……じゃぁ直美もデザート食べるぅっ!! それでついでに観察するぐらいならいいでしょぉっ!?」

「な、直美ちゃん……流石にそっとしておいてあげようよ……」

「うぅ……だ、だからデザート食べるついでにちょっと聞き耳立てるだけ……声かけたりしないし……邪魔しないからぁ……とぉるおじさんがどんな人とお付き合いするのか知っておきたいのぉ……」


 そして必死に食い下がってくる直美は、最後に寂しそうにそう呟いた。

 その様子からしてどうやらふざけていたのはこの感情を隠すためで、本音はそっちだったようだ。


(そう言えば直美ちゃん気にしてたもんなぁ……亮に恋人が出来たら自分とは疎遠になるんじゃないかって……)


 かつて亜紀に捨てられて、また祖父や祖母も傍から居なくなった経験のある直美にとって、家族のように思っている俺や亮が離れていくことは辛いことのはずだ。

 それでも昨日は亮を止めようとはしなかったし、今だって邪魔をする気はないとはっきり言っている。


(直美ちゃんも亮が大好きだから……亮が幸せになれるなら我慢しようって思ってるんだろうな……思えるようになったんだ……)


 かつての直美ならば、もしも亮に恋人が出来て自分と疎遠になる可能性が出てきたらどうなっていたことか……もっと取り乱していたような気がする。

 しかし亜紀と和解しつつあり、少しずつ精神的に立ち直りつつある直美は、こうして自分の感情より亮の幸せを優先できるぐらいの余裕が出来て来つつあるようだ。


(多分直美ちゃんの心境的には……自分の片親か或いは兄の様な存在が恋人を作ってしまったような感じなんだろうな……だからこそ相手の性格や二人の相性を見極めたうえで、そこを妥協点にしようと考えているんだろうな……)


 ある意味でこれは思春期の直美にとって成長の良い機会なのかもしれない。

 

「……絶対に邪魔しないって約束できる?」

「う、うん……気づかれないようにするから……」

「わかったよ、じゃあ今ならちょうど隣の席が空いてるみたいだから亮の背中側の席を取ろう……そうすれば多分気づかれずに済むだろうし、会話も聞き取れるはずだからね……」

 

 そう思った俺は最終的に直美のお願いに頷くのだった。


「え……い、いいの史郎?」

「ああ……俺もあの二人を出合わせた関係もあって、気にならないって言ったら嘘になるしな……万が一、気づかれても偶然出会ったって言えば問題ないだろ……」

「そ、そうだよぉっ!! ほんとぉにここで出会ったのはぐーぜんなんだからぁっ!! 問題なしなしぃっ!!」

「うぅん……史郎までそう言うなら……ほ、本当は私も気になってるし……じゃあ、慎重にばれないように……ね?」

「「ラジャーっ!!」」


 亜紀もまた内心では気になっていたようで、最後には乗り気になると……直美にそっくりな悪戯を思いついた子供の様な笑みを浮かべた。

 そんな亜紀に二人揃ってそんな返事をした俺は、ちょっと興奮してドキドキする胸を押さえながら亮の傍へと近づいていくのだった。


(ふ、ふふ……何かちょっとスリルがあって楽しい……悪いな亮、こんなところで見つかったお前の不用意さとこちらに気付かなかった観察力の無さを怨んでくれ……というかあいつ、滅茶苦茶緩み切った顔してあの子の顔ばっかり見つめてやがるなぁ……これは観察するまでも無く答えは出てるような気が……まあそれで直美ちゃんが納得してくれるなら……)

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― 新着の感想 ―
[一言] 亮も親代わりのようなものだったとしたら、これは一つの親離れ、になるのかな。
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