表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

252/319

史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん61

「えへへ~、史郎おじさんいっぱい買ってくれてありがとぉ~」

「ほ、本当にこんなに買って大丈夫なの史郎? 一緒に出来るよう私の分まで買ってくれたのは嬉しいけど……」

「こ、これぐらいお安い御用ってもんだよ……あ、あはは……」


 玩具屋をご満悦気味に後にした直美と申し訳なさそうにこちらを振り返っている亜紀。

 俺はそんな二人の後ろを大量の荷物を抱えてふら付きそうになりながらついていく。


(ほ、本当に直美ちゃんが楽しそうだし亜紀とも少しずつ会話するようになってるし……その為の出費だと思えば辛くも何ともない……体力を除けばだけど……はぁ……)


 最初に買った洋服の入った袋を腕から下げつつ、このお店で買った据え置き式のゲーム機本体を含めた様々な玩具や漫画を保持して歩くのはかなりきつい。

 おかげで歩く速度が落ちるが、直美は気にせずにどんどん先へと進んでしまう。


「二人とも早く早くぅ~っ!! 急いでおご飯買って帰らなきゃ遊ぶ時間無くなっちゃうよぉっ!!」

「い、今行くからちょっと待って……ねえ史郎、私も少しぐらい持とうか?」

「だ、大丈夫だから……それより休日で混雑してる中で万が一にも直美ちゃんを見失ったら困る……俺は良いから直美の傍に行ってやってくれ」


 それに対して亜紀はこちらを気遣ってくれるが、あえて俺は首を横に振ると直美の元へ向かうようにお願いした。


(まあ流石に直美ちゃんも高校生だし、まさか迷子になるとは思わないけど……人が多すぎるのがなぁ……)


 今でこそ俺達に意識が集中知るために平然としているが、直美の人見知り自体はまだまだ治ったわけではない。

 だからもし一人になったところで周りの視線に意識が向かってしまったら……シャレにならない事態になりそうだ。

 何せ実際に周りを行きかう人達の中に、時折俺達へ意識しているかのように視線を投げかけている奴がいるのだから。


(直美ちゃんも亜紀も見た目良いからなぁ……おまけに服の上からでもわかるぐらい胸も大きい……そりゃあ良い意味でも悪い意味でも視線を集めるよなぁ……)


 恐らく今のところ亜紀にまつわる噂を知っていそうな奴はいなかったが、それでも直美がそう言う男からの視線に気づいてしまえば正気ではいられなくなりそうだ。

 だからこそ常に亜紀か俺が傍にいる状態を作って意識を逸らしておきたかったのだ。

 ただ亜紀は直美のそんな精神状態を知ってはいないし、少なくとも今は知ってほしくも無い。


 そう考えてわざと歳にそぐわない迷子を口実にしたのだが、意外にも亜紀は疑うことなくはっとした様子で俺と直美を交互に見つめ、真剣な面持ちで頷いた。


「あ……そ、そっか……迷子になったら大変だもんね……あ、あの子可愛いし下手したら誘拐とかされて……っ!? い、今行くからぁっ!!」


 そして考えをそこまで飛躍させて顔色を変えると、直美の元へ早足で向かっていった。


(ゆ、誘拐ってそんな……ああ、でもよく考えたら亜紀は反社組織に連れていかれて軟禁されてたっけ……自分がある意味で誘拐されたようなもんだから余計に不安なのか……)


「おっそいんだからぁ~っ!! 史郎おじさんも早……ふぇぇっ!?」

「ちょ、ちょっと混んでるから手を繋いでいきましょうっ!! 嫌かもしれないけど迷子になったら大変だからっ!!」

「な、な、ななななぁっ!?」


 実際に亜紀は直美を攫わせまいとばかりにその手を取ってしっかりと握りしめて……それを見た直美は困惑して声もろくに出せなくなってしまう。

 そしてその顔は茹でたタコのように赤く染まっていったかと思うと、少ししてから振り払わんばかりにその手をぶんぶんと振り回し始めた。


「ちょ、ちょぉぉっ!! な、直美これでもこうこーせいなのっ!! い、今更おか……じゃ、じゃなくて……と、とにかく恥ずかしいから止めてぇっ!!」

「で、でも何かあったら困るでしょっ!! 史郎がこっちに来るまででいいから少しだけ我慢してっ!!」

「も、もぉおぉっ!! 子ども扱いしないでよぉっ!! し、史郎おじさん早く来てぇっ!!」


 よほど心配なのか亜紀は直美が幾ら抵抗しようともその手を強く握りしめて離さなかった。

 そんな亜紀を直美は恥ずかしそうに見つめながらも、それ以上の抵抗はしなかった。

 両手を使うなり何なり、本気で嫌ならばやれることはあるだろうに……だから傍から見れば子供が親とじゃれているようにしか見えなかった。 


(もしも直美ちゃんが小学生ぐらいだったらもっと微笑ましいやり取りに見えただろうなぁ……むしろ当時できなかったからこそ、今やり直しているのかもなぁ……そうだったらいいなぁ……)


 そんなことを考えながら、俺は少しでも亜紀と直美が手を繋いでいられる時間を伸ばそうと、ゆっくりとした歩みで二人の元へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 服だけならまだしも、他のものはさすがに重そうだなあ。 手をつなぐのは良くても、つながれるのは恥ずかしいと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ