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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん60

「ほらほらぁ~、今度こそゲーム屋さん行くんだから早く早くぅ~っ!!」

「わ、分かったから引っ張らないでってば……」


 直美は時折振り返りつつも、足取りも軽く俺達を置いてどんどん先へと進んでいく。

 その顔には笑顔が浮かんでいて、ご機嫌な様子なのがはっきりと伺えている。


(やっぱり直美ちゃんも女の子なんだなぁ……何だかんだでお洋服屋でのお買い物は楽しんでたみたいだし……)


 実際に俺の両手には直美が先ほどのお店で買った自分用の新しい服と……亜紀の服がいくつも抱えられているぐらいだ。


「ご、ごめんね史郎……いろいろ買ってもらった上に荷物まで持ってもらっちゃって……」


 そんな俺の隣に亜紀は並んで歩いており、申し訳なさそうに呟いてきた。

 元々亜紀は俺に余計な負担を掛けたくなくて、必要最低限のものしか買うつもりはなかったらしい。

 しかし予想外に洋服屋へ入り、しかも直美との交流が楽しくてついつい色んな洋服を持ってきてしまい……一人で上手く着れなかった直美はそれらを買って自宅で着こなして見せると言い出してしまったのだ。


 そしてその際に自分と見比べさせるためだと言って亜紀の分も買うようにおねだりして来て……ただ言い辛そうにしていた辺り、本心は遠慮してばかりの亜紀に対して思うところがあり、遠回しに買ってあげてと言いたかったのだろう。

 もちろん直美のそんな可愛くもいじらしいおねだりに逆らえるはずもなく、結果として二人が選んだ服をほぼ全て購入することになってしまった。


(亜紀は自分が余計なことをしたせいで予想外の出費を強いたと思って反省してるみたいだけど……むしろ直美ちゃんの笑顔と、お洒落に興味を持ってくれたことを想えば、安すぎる買い物なんだよなぁ……)


 直美は俺や亮からお友達にまで色々言われてもお洒落に興味を持たず、俺達のおさがりや学校指定のジャージを私服にしていた。

 流石にこれは不味いとずっと思っていたけれどどうしようもなかったそれを改善させてくれたのだから、そのきっかけをくれた亜紀やこの買い物に不満があるはずがなかった。


「良いんだよこのぐらい……むしろあの直美ちゃんが自発的に洋服を買うきっかけを作ってくれたんだから、感謝してるぐらいだよ」

「け、けど私の分は余分だったんじゃ……私なんかがこんな着飾ったりしていいわけが……」

「そんな事無いって……亜紀がお洒落しているのを見たら直美ちゃんもまた張り合って、色々と覚えようとするから……それに亜紀は戻って来てからずっと質素に暮らしながら俺達を支えてくれたじゃないか……だから少しぐらいご褒美があっても良いって……」

「し、史郎……ほ、本当にそう思ってくれてるの?」


 俺の言葉を聞いて亜紀は感激したように涙目になりながらも、それでもどこか不安そうに尋ねて来る。


(確かに亜紀がお洒落することに思うところはある……何せ亜紀が綺麗に着飾る様になったのは俺と別れた後のことで、そこから一気に堕落していった……もしもこのほんの少しの贅沢が呼び水となってかつてのように戻られたら困るけれど……)


 俺をまっすぐ見つめながら返事を待っている亜紀に優しく微笑みかけながら口を開く。


「……ああ、亜紀もたまには息抜きしても良いと思う……してほしいって思うよ」

「……ありがとう……史郎」


 俺の心の底からの言葉を聞いて、ようやく亜紀は納得した様子で……嬉しそうにそう呟くのだった。


(大丈夫……今の亜紀は信じられる……あの頃みたいに直美ちゃんを捨てて馬鹿な真似が出来るはずない……だって、こんなにも良い笑顔で笑えてるんだから……)


「もぉぉっ!! 二人してなに話し込んでるのぉっ!! 直美を無視しちゃだめなんだからねぇっ!!」

「うおっ!? な、直美ちゃんっ!? い、いや別に無視なんか……」

「ふふ、ごめんごめん……ゲーム屋さんだっけ……私は余り詳しくないから、今度はそっちが教えてくれると嬉しいなぁ……」

「むぅ……しょぉがないなぁ……よろしいっ!! 特別にこの直美ちゃんが初心者向けのゲームを享受して進ぜよーっ!!」


 そこで先の方から直美が顔をむくれさせて俺達へ呼び掛けてきて、亜紀は軽く瞳をこすると彼女の元へと走って行った。

 そして二人して楽しそうに笑いながらゲーム屋へと早足で進んでいくのだった。


(……二人とも打ち解けつつあっていい感じだな……直美ちゃんも自分たちを知ってる人がいないからか外でもはしゃげてるし……この調子でもっともっと仲良くなって……それで精神的な問題も解決してくれるといいんだけど……)

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― 新着の感想 ―
[一言] 二人が家の中ででもおしゃれし始めると、史郎も平常心ではいられないかも。
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