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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん59

「ふっふぅんっ!! どぉだぁ史郎おじさぁんっ!!」


 更衣室のカーテンが開かれて、自信満々といった様子の直美が腰に手を当ててポーズをとる。

 その両肩にはどこから見つけて来たのか、モサモサと羽毛が生えている上着が普段着の上から何故か袖を通さぬまま掛けられている。

 おまけにサングラスまで装着されていて……余りファッションに詳しくない俺の目からしても、痛い人にしか見えなかった。


(……ポーズは奇妙な冒険しそうなあれだけど、見た目は海賊漫画の身体を糸に出来る人みたいな……うぅん、何て言えばいいのやら……)


 尤も年齢の若さと元々の見た目補正があってか、得意げにしている顔を見ていると可愛く思えるから不思議だった。

 或いは相手が直美だからだろうか……中二病と言わんばかりの格好をしている女子高生から、どうしても目が離せない。


「にひひ~、史郎おじさんったら直美のカッコよさに見惚れちゃって声も出ないって感じしてますねぇ~……」

「あのねぇ……せめて袖を腕に通してから言おうねぇ」


 そんな俺の視線をどう誤解したのか満足げに頷いた直美だけれど、こんなことで変な自信を付けられても困る。

 だから咄嗟に言い返そうとしたが俺も流行などには疎いために、そんな当たり障りのない事しか言えなかった。


「これがファッションなのぉっ!! もぉ、史郎おじさんはセンスないんだからぁっ!!」

「ぜ、絶対に違うと思う……」

「違わないもんっ!! 史郎おじさんはもう年貢の納め時だから直美のセンスに付いてこれないのぉっ!!

「えぇ……それどういう意味で言ってるのぉ……時代遅れ的な何か?」

「そんな細かいことどーでもいいでしょぉっ!! ほら、早く直美を褒めるのぉっ!! それで冴えない僕のお嫁さんになってくださいって求婚しなきゃ駄目なのぉっ!!」


 訳の分からない発言で余計に混乱する中で、直美は俺の手を引いて何故か更衣室の中に引き込もうとしてくる。


「ちょ、ちょっと直美ちゃんっ!?」

「ほらほらぁ、そぉと決まったら周りのめーわくにならないよーにこの中で誓いのキスを……」

「し、史郎……ど、どうかなこれ?」


 そこで隣の更衣室に入っていた亜紀が顔を出し、どこか恥ずかしそうに尋ねて来る。

 戻って来てからの亜紀は落ち着いた服装を好むようになっていたが、今回も上下とも地味目の落ち着いた色合いをした衣服を試着していた。

 やはり洋服の種類など良く分からない俺だが、タートルネックと呼ばれている上着とロングスカートを纏っている亜紀は……何というか物凄く似合っていて可愛らしく見えた。


(昔は派手な格好になったとたんに美人になったって印象しかなかったけど、こういう格好も似合うんだな亜紀は……何より大き目な胸が盛り上が……と、とにかくこういうのが普通のファッションって奴だよなぁ……)


 余り自信はないが少なくとも亜紀と直美の格好だけを見た場合、どちらの隣を歩きたいかと言えば……チラリと直美を見てため息をつきながら答える。


「……うん、亜紀の圧勝だね」

「はぁぁっ!? な、何でよぉっ!?」

「えぇっ!? ま、まだ一着目なのにっ!? い、一体なお……貴方はどんな格好……あちゃぁ……」

「な、何よその目ぇっ!! こ、こんな素敵な着こなし他にしてる人いないだからねっ!! りゅーこーのRTA最先端なのぉっ!!」


 最先端どころか独自ルートを突っ走っていることにも気付かずに喚く直美だが、彼女に甘い俺も亜紀も流石にこればっかりは受け入れることができなかった。


「諦めようよ直美ちゃん……ほら、鏡の前に立ってお互いの姿を見比べてごらんよ?」

「むぅぅっ!! こ、こっち来てっ!!」

「あ……う、うん……」


 未だに納得が行っていない様子の直美は、俺に言われるままに亜紀の手を取って自分の更衣室内に引っ張り込んだ。

 そして二人揃って鏡に向かって並んで立ち……とても良く似ている顔が隣り合って映っている姿に、俺はまたしても胸が温かくなってしまう。


(見た目が似通ってるから見比べればわかると思って言ってみただけなのに……こうしてみるとやっぱり母娘なんだなってはっきり見て取れる……そんな二人がこんな近距離に並んでいられるようになるなんて……)


 果たして亜紀もまた同じような心境なのか、鏡に映る直美と自分の顔を交互に見つめて……幸せそうに微笑みながら、自らの顔を直美の肩に寄せていくのだった。

 その姿はまるで仲良く写真の撮ろうとする姉妹か母娘のようで、思わず俺は携帯を取り出して実際に写真に残したくなった。


「うぅぅ……し、史郎おじさんは直美よりこっちのほーがいいっていうのぉっ!?」

「そ、それはまあ……恰好はどう見ても亜紀のほうがまともに可愛いし……」


 しかしその前に不機嫌そうな直美が振り返ってきて、慌てて携帯を隠しつつ答えた。


(こんな状態の直美ちゃんに写真を撮ろうとしているところを見られたら……ああ、恐ろしい……というか何でそんなにファッションのことに拘ってるんだ? あんなにお洒落に興味なかったのに……)


「そ、そんな可愛いだなんて……えへへ……そっか、史郎はやっぱりこういう格好の方が……」

「むぅぅっ!! じゃ、じゃあ直美が着たらもっと似合うってことでしょっ!! ほ、ほら衣装交換っ!!」


 不思議に思う俺だったが、疑問を口にする前に俺の言葉を聞いた亜紀が嬉しそうな声を洩らした。

 すると直美は頬を膨らませながらそんなことを口にして、再度更衣室のカーテンを閉じてしまう。


(……まあ体格は殆ど一緒だから着れなくはないだろうけれど……どうしてそこまでして……?)


「えっ!? そ、それって……あぁっ!? そ、そんな乱暴にしちゃ駄目っ!! い、今脱ぐからちょっと待っ……」

「い、いいからさっさと元のおよーふくに着替えるのぉ……そ、それで……っ」

「…………えぇっ!? ほ、本当にいいのっ!?」

「だ、だって直美…………から…………」

「……そっかぁ……うん、わかったよ……私で良ければ……」


 やはり直美の変貌に違和感を感じていた俺だが、そこでそんなやり取りが聞こえてきて何やらドキリとさせられてしまう。


(な、中で何が……というか何で直美ちゃん、急に声を押さえて……秘密話でもしてるのか?)


 直美の発言を聞いている亜紀が驚きながらもどこか喜びを滲ませた声を洩らしているせいで、余計に内容が気になってしまう。


「……じゃっじゃぁんっ!! どぉだぁ史郎おじさんっ!!」

「……うん、普通に可愛いねぇ……やっぱりこういう普通の格好が良いよ……」


 だからこの場を離れることもできず傍で待機していると、ふいに更衣室が開かれて先ほどまでの亜紀と同じ格好をした直美が姿を現した。

 さっきより遥かにマシだから素直に褒めるが、正直なところほんの少しだけ亜紀の時よりはちぐはぐ感を覚えてしまう。


(うぅん……やっぱりこうしていると年齢の差見たいのを感じるなぁ……若すぎて仕草が似合ってないのかも……それにお胸がさっきより窮屈そ……と、とにかく直美ちゃんならもっと違う格好の方がもっと魅力を引き出せるような……)


「むぅぅ……普通普通って……何かおか……さっきより褒め方がざつぅ……」

「ご、ごめんごめん……凄く可愛いよ」

「ふん、ほんとぉにそぉおもってるんだか……まあ直美ちゃんは優しいから特別に許してあげちゃうんだけどねぇ~……ふふ、このまま史郎おじさんの好みを把握して直美以外見れ無くしちゃうんだからぁ~」


 改めて褒めると直美はようやく機嫌を直してくれた。

 そのことに安堵した俺は、改めて先ほどの会話の内容を聞こうとして……亜紀の姿が見えなくなっていることに気が付いた。

 どうやら俺が直美を褒めて居る間に……何だかんだで目が引き付けられている間に、どこかへ移動してしまったようだ。


「やれやれ……それでそのお洋服は買うの? 買わないなら着替えてそろそろ別のところに……」

「ダメダメぇ~、もっともぉっとファッションショーするのぉっ!! 史郎おじさんが直美に結婚してくださいって言いたくなるぐらい素敵なコーディネートを見つけるまで帰らないんだからぁっ!!」

「絶対にありえないからね……ほら、早く着替えて亜紀を探して……」

「とりあえず何着か持ってきたよ……どうかな?」


 そこへ亜紀が何着かの洋服を持って戻ってきて、笑顔で直美へと差し出した。


「うむ、ごくろーっ!! さぁ史郎おじさんよ、直美ちゃんの可愛さに刮目するのだぁっ!!」

「えっ!? ど、どういうことっ!?」


 サッとそれを受け取った直美は、不敵に宣言しながらサッと更衣室の中に消えてしまう。

 だから残った亜紀へ振り返って尋ねると……物凄く嬉しそうに笑いながら、俺の耳元でそっと囁くのだった。


「あのね、あの子……この前の嵐野君の件で自分がどれだけお洒落に興味なかったのか知って……ちょっとだけ危機感を覚えたみたいなの……だけど実際にお店に来ても全くそう言うのわからなかったからって、私に史郎好みのお洋服を選んで欲しいって頼まれたの……」

「あ……そ、そうだったのか……」

「うん……ふふ、あの子本気で貴方のこと大好きなのね……だけどこんな形でもあの子の洋服を見繕ってあげれるなんて……子供の服を考えるのってすごく楽しいのね……もっと早く気づいていればなぁ……」


 遠い目をしながら感慨深そうに呟く亜紀は、感動とも後悔ともつかない感情を滲みませているのだった。


「……多分俺のことは口実だよ……今までも何度もおしゃれしたらって提案しても動かなかったぐらいだ……だから直美ちゃんは単純に亜紀とこういうことしたくて……ただ素直になれないから……」

「そうかなぁ……そうだと嬉しいけど……やっぱり史郎のことを愛してるからだと思うけどなぁ……」

「あぁあもぉおっ!! こ、これ上手く着れな……ちょ、ちょっとおかあ……て、手伝ってっ!!」

「あ……ええ、もちろん手伝うわ……ふふふ……じゃあ、史郎ちょっと待っててね?」

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― 新着の感想 ―
[一言] ファッションってよくわからない所もあるから… まあ、スタンダードなものから始めるのが無難なんでしょうね。これも勉強か。
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