史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん58
「うぅ……な、直美お車きらぁい……」
「あ、あはは……お、遅すぎる車も逆に怖い物なんだねぇ……」
(そ、そんな酷かったかなぁ……うぅ……が、頑張ったのにぃ……)
完璧に法定速度を守った規則通りの運転をしたというのに、目的地へ付いた二人からの評価は散々だった。
(確かに駐車場に入れる際に六回も切り返したのは我ながら下手だったけど……交差点で信号が変わっても曲がり切れなかったのもあれだったけど……まさか休日だと道がここまで混むなんてなぁ……はぁ……異様に疲れたぁ……)
隣町の駅前にある大型のショッピングセンターへ続く道は、休日ということもあり異様に混んでいた。
そんな中で俺の安全運転は何と言うか異様に目立っていたらしく、途中で何度かクラクションを鳴らされてしまった。
おまけにようやくたどり着いたお店の立体駐車場も屋上まで埋め尽くされているほどの満車状態で、車を止めるのにも一苦労だった。
おかげでここまでの運転で俺はかなり神経をすり減らしてしまっていて、直美たちに上手く言い返す気力すら残っていなかった。
「はぁぁ……と、とにかく着いたんだから良いでしょ……」
「だ、だってぇ……帰りもこれに乗って帰るんだと思うとぉ……うぅ……タクシィ……」
「あ、あはは……だ、大丈夫よ帰りはきっと空いてるから……多分……」
車から降りてもずっと苦笑いしている亜紀に泣き真似している直美。
それでも駐車場からお店の中に入り、玩具屋や洋服屋を含めた色んなお店が目に入ると、二人とも段々笑顔になっていく。
「直美こーゆぅとこにくるのひっさしぶりぃ~っ!! ふふふ、史郎おじさんに何買ってもらっちゃおうかなぁ~?」
「ふふふ……貴方はなんか昔の史郎に似てるし、余り買い物とかこないのね……」
嬉しそうにはしゃいで見せる直美を亜紀は感慨深そうに見つめていた。
(亜紀の目からしたらそうだよなぁ……直美ちゃんが買い物とか行かないのは当時の俺みたいにゲームに夢中で半ば引きこもってるとおもってるのか……)
尤も実際に学校をさぼってまで徹夜でゲームをやったりしているので、ある意味では正しいのだが……。
「よぉしっ!! じゃぁまずはぁ……ゲームを見に行くのだぁ~っ!!」
「違うでしょ直美ちゃん……今日は晩御飯の材料を買いに来たんだからね……あくまでもここに来たのは車を止める場所があったからで……」
「そんなの後々ぉっ!! せっかくここまで怖い思いしてきたんだから、色々とリターンが欲しいのぉっ!! だからだから~色々とショッピングしていくのぉ~っ!!」
亜紀の気持ちに気付いていないのか、直美は無邪気に笑いながら俺の手を引っ張って行こうとする。
(ショッピングでこんなにはしゃぐなんてなぁ……何だかんだで直美ちゃんも女の子なんだなぁ……まあそれで見に行くのが玩具な辺りちょっとあれだけど……)
「あ……じゃあ史郎はついて行ってあげてよ……その間に私が食料品とか買ってくるから……」
「い、いやでも……亜紀にばっかり負担をかけるのは……」
「大丈夫、むしろ私がしてあげたいんだから……それに私、ゲームとか見てもよく分からないし……だから……」
そんな直美を微笑ましく見守っていた亜紀は自らそう提案して、俺達を二人きりでゆっくり遊ばせようとしてくれる。
(確かに二手に分かれたほうが効率的だけど……亜紀だってショッピングとかしたいんじゃないのか……?)
ゲームはともかく、洋服などのお洒落に関して亜紀はそれなりに興味を持っていたはずだ。
少なくとも俺と別れる前後辺りからは、それこそ色んな物を買いこんで着飾る様になっていた。
「……亜紀もたまには羽を伸ばしても良いと思うぞ?」
「ありがとう史郎、だけど私お金も無いし……これ以上史郎の負担を増やすわけにも……」
「そう言うの気にするなって……俺から提案してるんだからむしろ俺が払っ……」
「ああもぉっ!! 時間が勿体ないでしょぉっ!! ほら、こっちならいいんでしょぉっ!!」
「えっ!?」
話し合っていた俺達を見ていた直美は、我慢できないとばかりに割って入ると……亜紀の方を見ないままその手を取り、俺たち二人を引っ張って近くのお洒落な雰囲気の洋服屋へと入っていく。
「ちょ、ちょっと直美ちゃんっ!? こ、ここって女性向けの……お、俺には荷が重いよっ!?」
「いいのぉっ!! 史郎おじさんをゆーわくするお洋服を選ぶんだからぁっ!! そ、それに…………にセンスだって負けてないところ見せちゃうんだからぁっ!! これはどっちが史郎おじさんの心を掴める衣服を選べるか勝負なのぉっ!!」
やっぱり亜紀の方を見ようとしない直美だけれど、しっかりと握りしめた手を離すことはなかった。
自らの手を取ってそんな提案をしてくる直美に亜紀は一瞬驚きながらも……物凄く幸せそうに微笑むのだった。
(ひょっとして直美ちゃん、昨日の亮の服装を却下されたのを根に持ってるのかな……まあそれ以上に亜紀と一緒に買い物したいって気持ちがあったんだろうけど……)
勝負事に見せかけているがこれは母娘でのお洋服のお買い物を誘っているようなものだろう。
それは亜紀にとって……そして多分直美にとっても夢に見た瞬間なのかもしれない。
「……こう言ってるわけだしさ、亜紀も遠慮なく見て回ってきなよ」
「……ふふ……うん、わかったわ……勝負するなら付き合うね……史郎の好みの服装かぁ……どんな服にしようかなぁ……」
「ぜ、絶対に負けないんだからねっ!! 直美の方がずっと史郎おじさんの事を知ってるってしょーめいしちゃうんだからぁっ!!」




