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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん56

「さあさぁ~、ご飯の食べ終わったことだし直美とゲームで勝負するのだぁ~っ!!」


 直美は食事を終えるなり、すぐに立ち上がり各種ゲームを置きっぱなしにしてある居間へ移動してしまう。


(はしゃいでるなぁ直美ちゃん……元気いっぱいで見てるこっちまで楽しくなってくる気がするなぁ……)


 朝からずっとテンションが高い直美だけれど、ここまではしゃいでいる姿を見るのは友達が出来た日以来のような気がする。

 亜紀に対して色々と思うところがあるはずの直美だが、それでも内心では今の状況に満ち足りた想いを抱いているのだろう。


(少しずつだけど直美も亜紀に心を許し始めてる証拠かもしれないなぁ……)


 実際に直美は昨日、亜紀のことを何度かお母さんと呼ぼうとしていたぐらいだ。

 それだけ打ち解けつつある今、やはり実の母親が傍にいて見守ってくれているという実感にどこか浮かれているのかもしれない。


「はいはい、付き合うからね……亜紀も洗い物終わったら参加するだろ?」

「あー、そうしたいのはやまやまなんだけど、ちょっと今日はやることあるから……夕方からなら大丈夫だけど……」


 直美が使っていた分の食器もまとめて台所へと持っていき、既に調理器具などを洗っている亜紀へ渡しつつ尋ねてみた。

 しかしてっきり二つ返事で頷かれると思っていたが、何故か亜紀は申し訳なさそうな声を出す。


「用事って……もし就活ならそんなに焦らなくてもいいぞ、どうせ今日は日曜だからできることは限られてるし……俺としても直美ちゃんと一緒に遊ぶのを優先してくれた方が嬉しいからな」

「……ありがとう史郎、じゃあお言葉に甘えて……って言いたいけど、やっぱり今すぐは……ちょっとお買い物行かないと晩御飯が……」


 そう言って亜紀は一旦洗い物の手を止めると、冷蔵庫を開いて中身を見せてくれる。


(おおう、卵とかはあるけどお肉が見当たらない……朝ごはんが遅かったから今からお昼は食べられないし……確かにこれじゃあ育ち盛りの直美ちゃんが満足できるボリュームの晩御飯は作れないだろうなぁ……だけどせっかく直美ちゃんと亜紀が遊べる機会なのに……) 


 亜紀の言いたいことはわかるのだが、それでも俺は二人が親しくなるためにも一緒に遊んで欲しいと思ってしまう。


「……それなら晩御飯は出前とかとってもいいし、何なら三人で食べに行ってもいいんじゃないか?」

「うぅ……そ、それはそうなんだけど……私あの子に手料理もっと食べさせてあげたいの……それに料理なら一緒にしてくれるし……何より私がご飯を作るようになってからあの子も少しずつ心を開いてくれるようになった気がして……だから出来るだけ作ってあげたいの……」


 未練がましく別の案を出す俺を見て、亜紀は困ったような顔をしながらもそう呟いた。


(確かにここで下手に家事を怠けるところを見せたら直美ちゃんは逆にがっかりするかもしれない……だから多分亜紀の言う通りにするのが正解なんだろうけど……)


 亜紀の選択は正しいであろうと思うのに、何故か俺は自分が妙にがっかりしていることに気が付いた

 頑張っている亜紀を見て、一体どうしてこんな気持ちを抱いてしまうのか……自分で自分のことがわからなくなる。


「し、史郎? え、えっと私何かまた勘違いして変なこと言ってたりする?」

「あ……い、いやそういうわけじゃ……」

「おっそぉおおいっ!! なぁに直美を置いて二人でイチャイチャしてるのぉっ!! 駄目だぁって言ってるでしょぉっ!! もぉっ!!」


 そんな俺の様子を見た亜紀が不安そうにし始めて、慌てて弁解しようとしたところへ直美が乱入してきた。

 台所に入ってきた直美は俺の腕を両手でしっかりと胸元に抱きしめて俺にくっつきながら、頬を膨らませて亜紀を睨みつけた。


「あっ!? ち、違うからねっ!! べ、別にイチャイチャしてたわけじゃ……」

「そ、そうだよ直美ちゃん……ちょ、ちょっとこの後の予定を……」

「そんなの話し合うまでも無いでしょぉっ!! 可愛い直美と一緒にお遊びできるんだから他のことなんかどーでもいいのぉっ!! もぉ、こぉなったら二人ともコテンパンにやっつけちゃって……」

「ま、待って直美ちゃん……亜紀は晩御飯の買い物があるから今すぐは難しいって……それで……」

「そ、そうなの……ごめんなさい、せっかく誘ってくれてるのに……帰ってきたら参加するから……」

「え……あ……」


 そのまま俺を引っ張って行こうとする直美に何とか事情を説明する。

 すると直美は足を止めて一瞬寂しそうな声を洩らしたかと思うと、すぐに不機嫌そうな顔に戻り再び頬を膨らませて亜紀を睨み直した。


「む、むぅぅ……直美とのお遊びよりお買い物をゆーせんするなんてぇ……じゃあ早く行って早く……帰って来てよぉ……」


 そして亜紀に不満げに呟きながらも……最後にはそっと視線を反らし、俺の背中に身を隠すようにしながら……切なそうにつぶやいた。

 一度は自分を捨てた母親に対して、一体どんな気持ちでこの言葉をかけたのか……それを想うと俺は胸が苦しくてたまらなくなる。

 恐らく亜紀も同じことを感じたようで、嬉しさと申し訳なさと……決意を滲ませてはっきりと頷いて見せるのだった。


「う、うんっ!! わかった急いで行ってくるからっ!! それで絶対に帰ってくるからねっ!!」

「ふ、ふんっ!! あ、あったりまえなのぉっ!! 直美を待たせたら許さないんだからぁっ!!」

「ええ、大丈夫……走って行って走って戻って……多分五時までには戻れると……」

「お、遅すぎぃいいいっ!! な、何でそんなに時間かかるのよぉっ!? ちゃちゃっと駅前まで行って買って帰ってくれば長くても二時間かからないでしょぉっ!? やっぱり直美にいっぽぉてきにやられたから遊びたくないんでしょぉっ!?」


 ようやく納得しかけた直美だけれど、そこで亜紀の帰宅予定時間が余りにも遅すぎて再度怒りを爆発させる。


「お、落ち着いて直美ちゃん……そんなわけないって……だけど確かに遅すぎないか?」

「あぅぅ……そ、それはそうなんだけど……その……と、隣町で買い物するつもりだから……多分私の足じゃ……」

「だ、だから何でそこま…………っ」


 俺も不思議に思っていたが、そこで亜紀の言葉を聞いて俺も直美も途端にピンときて何も言い返せなくなってしまう。


(そうだった……亜紀はこの街では嫌な噂が立ち過ぎてる……まして今日は休日で人も多い……そんな中で駅前なんかに買い物へ行ったら、どんな目で見られることか……下手したらトラブルに発展しかねない……だから……)


 自転車もなく、また俺達に生活費をお世話してもらっている亜紀は電車代も節約して徒歩で隣町まで向かうつもりだったのだろう。

 それでは時間が掛って当然だった。


「……本当にごめんなさい、できる限り急ぐからそれまで待って……」

「……待たないもん」

「っ!?」

「な、直美ちゃんっ!?」


 再度許しを請うように話しかけた亜紀に、直美はふんと顔を逸らしてしまう。

 直美の態度に亜紀は顔を苦しそうに歪めて、俺もまた驚いて直美へと呼びかけた。

 そんな中で直美は顔を逸らしたまま、ゆっくりと口を動かすのだった。


「よ、よく考えたらちゃんと買い物できるかも不安だし……み、道に迷って帰りがもっと遅くなるかもしれないし……ど、どっかで遊んできちゃうかもだし……だ、だから私も付いてって監視するもん……」


 しかし直美の返事は俺達の想像とは真逆であり、それを聞いた俺はほっと胸を撫でおろした。


(そ、そういうことか……び、びっくりしたなぁ……)


 亜紀もまた直美の言葉を聞いて、一瞬喜びながらもすぐに首を横に振って見せた。


「えっ……あっ!? で、でも駄目……私と一緒のところをもし他の人に見られたら大変な……」

「いいのぉっ!! 直美が行くって言ったら一緒に行くのぉっ!! 拒否権はないのぉっ!! そぉでしょ史郎おじさんっ!!」


 はっきりと言いきった直美は、俺を見上げて同意を求めて来る。


(あの直美ちゃんが……お外に出るのをあんなに嫌がってたのに……しかも亜紀と一緒だと余計に変な目で見られる可能性もあるのに……直美ちゃんがそこまで覚悟を決めてるなら俺も……)


「……はは、そうだねぇ……直美ちゃんのことだから行くって言ったら何があっても付いてくだろうからねぇ……諦めなよ亜紀……俺も一緒に行ってあげるからさ……お買い物ついでに三人でお出かけしようじゃないか」

「わぁいっ!! ひっさしぶりに史郎おじさんとおデートだぁっ!! にひひ……たぁくさんおねだりしていっぱい買ってもらっちゃおぉっとっ!!」

「え……えぇっ!? そ、そんな史郎まで……ほ、本当に良いの?」

「ああ、亜紀さえ嫌じゃなければな……」


 俺の言葉を聞いてはしゃぎ始める直美と俺を交互に見ながら亜紀は、恐る恐る尋ねて来る。

 それに頷いて見せると、とたんに亜紀もまた幸せそうな微笑みを浮かべるのだった。


「……二人とも優しすぎるよ……何でこんな私なんかに……あぁ、でもすごく嬉しい……」

「だけど史郎おじさんとお手手つなぐのは私だからねっ!! そ、それにお買い物はすっごく厳しくチェックしちゃうんだからっ!! それに晩御飯のおかずは直美のだいこーぶつにしてもらっちゃうんだからぁっ!!」

「ふふ、はぁい……わかりました……だから好きな食べ物、教えてね?」

「……はは」


 顔を火照らせたまままるで恥ずかしさをごまかすかのように亜紀へと食って掛かる直美。

 そんな二人のやり取りを見ていて、俺は何故か自然と笑みがこぼれて……同時に先ほど抱いた気持ちの正体について気が付いてしまうのだった。


(そうか、俺って直美ちゃんと亜紀が一緒に仲良くしているところを見ていたいんだ……だから亜紀が一人で出かけるって聞いて、直美ちゃんと二人で居れるところが見れないって思ってガッカリしてたのか……亜紀の行動じゃなくて、ただの個人的な不満だったんだなぁ……)

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― 新着の感想 ―
[一言] 三人でお出かけ、かあ。 予定通り隣町まで行くのかな。さてどうなるのか。
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