史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん55
「とぉ~っ!!」
「ぐほぉっ!?」
急に身体の上に何かがのしかかってくる感触で目を覚ました。
(あ、あれ? 俺いつの間に寝て……と、というか何が……っ!?)
昨晩は眠気も忘れて直美と亜紀の顔を見つめていたはずだが、気が付いたら眠ってしまっていたようだ。
そして直美がボディプレスして起こしてきたようで、見れば俺の身体の上に跨って悪戯っ子のような笑顔をこちらにつきつけて来る。
「おっはよぉ~っ!! 史郎おじさんもう朝だよぉ~っ!! 起きて起きてぇ~っ!!」
「お、おはよう直美ちゃん……わ、分かったから揺さぶらないで……というか降りてくれなきゃ起きれないんだけど……」
「だいじょーぶぃっ!! 直美は軽いからこのまま抱っこして運んでくれればいいのっ!!」
「えぇ……そ、そんなぁ……」
無茶ぶりをしてくる直美だが朝からご機嫌な上に元気いっぱいのようで、そのまま寝ている俺に身体をべったりとくっ付けて力いっぱい抱きしめてきた。
「ほらほらぁ~、早く起きて運んでくんないとご飯が冷めちゃうよぉ~?」
「も、もうご飯できてるの……い、今何時?」
「もぉ十時過ぎ~……史郎おじさんがお寝坊さんだから、直美もうお腹ペコペコなのぉ~……だから早く運んでよぉ~」
「うぅ……わ、分かったよ……」
ちょっとだけ俺をとがめるような声を出し頬を膨らませる直美
決して離れようとしないそんな直美を説得するのを諦めて、俺は心中で気合を入れて何とか直美を抱きしめたまま立ち上がろうとあちこちに手をかけて四苦八苦する。
(あぁ……朝からこんな運動をする羽目になるなんてぇ……亜紀は手を貸してくれな……あれ?)
何とか立ち上がったところで、ようやく室内を見回す余裕が出来た俺はそこで室内に亜紀がいないことに気が付く。
少しだけ気になるが、直美に聞くのは躊躇われた。
(あり得ないとは思うけど朝一で直美ちゃんと仲違いして部屋を追い出された可能性も零じゃないしな……尤もそうだとしたらこんなご機嫌なわけないだろうし……多分下で食事を作ってくれてるんだろうなぁ……)
恐らくは二人ともほぼ同時に起きて、俺を起こす係と食事を作る係に分かれたのだろう。
「はぁ……はぁぁ……な、何とか立てたぁ……」
「わぁい、史郎おじさんたくましいっ!! このまま食卓へGOGOっ!!」
「くぅぅ……こ、腰よ耐えてくれぇっ!!」
俺に抱きかかえられて嬉しそうな声を上げてはしゃぐ直美に、もう俺は逆らう気力もなく腰を気遣いながら部屋を飛び出した。
そして何とか落とさずに廊下を移動していると、台所の方からお味噌汁とお魚が焼ける良い匂いが漂ってきた。
途端に食欲を刺激された俺が、最後の気力を振り絞って直美と共に食卓に辿り着くと、そこで皆が食べれるようご飯とおかずを並べていた亜紀がこちらに気付き……幸せそうな笑みを見せてくれた。
「……おはよう史郎……ふふ、寝癖ついてるよ?」
「そ、そうか……まあ後で直すよ……おはよう亜紀、食事の支度してくれたんだな?」
「な、直美も作ったからねっ!! かんせーしたから史郎おじさんを呼びに行っただけで……というか何で急に名前……むぅっ!!」
何故か急に腕の中で直美が暴れ出し、むくれ顔で俺と亜紀を交互に睨みつけて来る。
「ご、ごめんごめんっ!! 直美ちゃんも作ってくれたんだね、凄く嬉しいよ……ありがとう」
「そうだよ史郎、私だけじゃここまで手際よく作れなかったんだからね……今日も一緒に作ってくれて助かっちゃった……ありがとうね」
「そ、そっちじゃな……ああもぉっ!! 良いから早くご飯食べちゃおうよっ!! そんで今日も一日、史郎おじさんは私と付きっきりで遊ぶのっ!! 良いよねっ!?」
「わ、分かったから暴れないで……ほら椅子に座って……」
「やぁっ!! このまま史郎おじさんに食べさせてもらうのぉっ!! 直美とイチャイチャしなきゃ駄目なのぉっ!!」
そんな直美を椅子に座らせようとするが、直美は俺にしがみ付いて離れようとしなかった。
「も、もう困った子だねぇ直美ちゃんは……また甘えんぼさんになっちゃって……」
「いいのぉっ!! 彼氏に甘えるのは彼女の特権なのぉっ!! だから史郎おじさんは直美をたくさぁん甘やかさなきゃ駄目なのぉっ!!」
「あ、あのねぇ……俺達別に付き合っても居ないでしょぉが……はぁ……」
軽く言い返すが結局俺は直美の我儘に逆らえるはずもなく、抱っこしたまま席に着く羽目になるのだった。
「ふふ、本当に仲良しなんだねぇ二人とも……じゃあそっちに二人分の食事並べるからね」
「す、済まん亜紀……ほら直美ちゃん、食べさせてあげるから機嫌直して……あーん……」
「ふふぅんっ!! それでいいのぉ……あーん、もぐもぐ……んふふ~」
俺に抱っこされながら食事を食べさせてもらったところで、ようやく直美は笑顔に戻ってくれるのだった。
(うぅん……恋人というより完全に父や兄に甘える小さい娘か妹みたいな……いや可愛いんだけどね……これで恋人気取るのは無理があるでしょ直美ちゃぁん……機嫌損ねたら怖いから言わないけど……)
「ほらほら、おててが止まってるよぉ? 史郎おじさん早く次食べさせてぇ~」
「はいはい、ほらあーんして……」
「……いいなぁ」
そんな俺達を見て、亜紀がポツリと小さくうらやましそうに呟いた。
それを聞いた直美は、途端に亜紀へと向き合うと思いっきり首を横に振って見せた。
「むぅ……だ、駄目だからねっ!! 史郎おじさんにアーンしてもらえるのは恋人である私だけの特権なんだからねっ!!」
「だ、だから付き合ってないって……」
「ち、違っ!? むしろ貴方にして……あっ!?」
「ふぇっ!?」
しかしそこで返ってきた答えは予想外の内容で、口にしてしまった本人も聞いた直美もどちらともびっくりしたように目を見開いた。
そしてお互いを見つめて……何やら恥ずかしそうに顔を火照らせながら視線を反らし合うのであった。
(なるほど、亜紀はアーンされてる直美じゃなくてアーンしてあげてる俺を羨ましがってたのか……)
「……ご、ごめんね変なこと言って……ほ、ほら私のことは気にしないで食べて食べて……」
「…………さ、流石にこの歳でおかあ…………にアーンされるのはなぁ……で、でも……うぅぅ……」
「な、直美ちゃん?」




