史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん53
「ほらほらぁ、詰めて詰めて~」
「あぅぅ……そ、そんなに押し込まないでぇ……き、きついよぉ……」
「い、いや流石に三人は無理でしょ直美ちゃん……」
寝間着に着替えてから戻った俺を、ベッドの上に居る直美は毛布を持ち上げながら手招きしてくる。
しかし既に霧島も横になっているために俺の入るスペースはほぼなかった。
それでも直美は必死に後ろにいる霧島を壁際に押し込んで隙間を作ろうとしていた。
(き、霧島滅茶苦茶苦しそうなのに直美に密着されて嬉しそうでも……じゃ、じゃなくて……この二人が一緒に寝てるところを見るなんてなぁ……)
「だいじょーぶぃっ!! 何とかなるなるぅっ!! だからほら早く直美と一緒にネンネしようよぉ~っ!!」
霧島と共にベッドへ横になっている直美は俺の方ばかり見て声をかけてくるが、俺の言った三人と言う言葉を否定したりはしなかった。
何より狭いにもかかわらず霧島がベッドから出ようとしない上に、直美自身も霧島を追い出そうとしていなかった。
だからこの条項は直美が言い出したことなのだろうと何となく察しがついて……それだけでまた胸が温かくなる。
(そこまで仲が改善したのも嬉しいけど……それ以上に直美ちゃんが物心ついてから初めて母親と一緒に眠りながら、二人揃って楽しそうにしているのが……凄い感無量というか……涙が出そうだ……)
「……いや、下手したらベッドが壊れかねないし……今日のところは遠慮しておくよ……」
「えぇ~っ!? 直美史郎おじさんと一緒に眠りたいのぉ~っ!! 史郎おじさんの腕枕じゃなきゃ眠れなぁ~いっ!!」
可愛らしく駄々をこねる直美……普段なら二つ返事で頷いてしまうところだ。
だけどせっかく霧島と……実の母親と親子で眠っているというのに、それを邪魔したくなかった。
「いやいや、俺までそこに入ったら狭すぎて腕枕も何もできるかどうか……というか直美ちゃんだって狭苦しくて眠れなくなっちゃうよ? いつも寝てあげてるし、これからも幾らでも一緒に寝てあげるから今日ぐらいは……」
「むぅぅっ!! やぁっ!! 直美史郎おじさんも……と一緒が良いのぉっ!!」
「そ、そう……貴方がそんなに史郎と寝たいならなら私が出……えっ!?」
そんな俺の言葉を聞いてさらに駄々をこねる直美だが、その際に思わず本音らしき言葉が漏れそうになる。
(……いま直美ちゃん、俺“も”って言ったよな……ひょっとして直美ちゃん、良く物語とかにある川の字で寝たいのかな?)
慌てて言いつくろった直美だが、既に俺も……そしてこちらに遠慮してベッドから出ようとしていた霧島もその言葉をはっきりと聞いてしまっていた。
果たして俺達に注目された直美は、しまったとばかりに顔を火照らせたかと思うと、まるで顔を隠すかのように毛布を頭まで被ってしまう。
「な、なんでもないもんっ!! もういいっ!! 史郎おじさんがそんないじわる言うなら直美一人で寝るもんっ!!」
「……ふふ、ごめんごめん……俺が悪かったよ……そうだね、一緒に寝ようか」
「わ、私もっと頑張って詰めるから……ほら、もっとこっち来て……」
「うぅぅ……知らないもん……」
まるで拗ねてしまった子供をあやすように声を掛ける俺達だが、直美は毛布をかぶったまま顔を見せようとしなかった。
「許してよ直美ちゃん……ほら、三人でも寝れるよう床に布団を引き直すよ……そこで三人一緒に寝ようね」
「あ……じゃ、じゃあ私他の部屋から敷布団とか布団持ってくるから……そ、それまでに顔を見せておいてね……」
「むぅぅ……か、勝手にすればいーじゃん……もぉぉ……ふん……」
意地を張り毛布の中から動かない直美を置いて、俺達は床の上で眠れるように支度を整え始める。
俺がゲーム機などを片付けてスペースを確保していき、そこに霧島が他の部屋に保管してあった寝具一式を持ってきて敷いて言ってくれる。
そうやって俺達が動いている物音を聞いていた直美は、ようやくチラリと目だけを出してこちらの様子を観察し始めた。
「……よし、これぐらい広げれば……ほら、準備できたからおいで……」
「……どぉしても直美に来てほしい?」
「来てほしい来てほしい……直美ちゃんと一緒に寝たいなぁ……だから来てくれると嬉しいなぁ~」
「私も一緒に寝たいなぁ……嫌じゃなければ来てほしいなぁ~……」
甘えるように呟く直美に俺も霧島もご機嫌を取る様な声を掛けると、ようやく顔を出して笑いながら……俺に手を差し出してくるのだった。
「じゃぁ、お姫様抱っこで運んでぇ~……そぉしたら一緒に寝てあげちゃうからぁ~」
「はいはい……わかりましたよ……」
そんな直美を俺は毛布ごと抱き上げて、改めて床に敷いた毛布の上に寝かせてあげるのだった。
(全く、高校生だっていうのにこんなに甘えちゃって……だけど今までの怠け心とか、依存心からくる甘え方とは違うもんな……多分俺達を心の底から信頼してくれているからこそ、あえて我儘言ってるんだろうなぁ……)
まるでかつて子供の頃に甘えられなかった分を取り戻そうとしているかのような直美の態度は、むしろ俺達の目には微笑ましく映る。
だから甘すぎると分かっていながらも、俺達は直美のおねだりに逆らえないまま、共に布団に横になった。
「……えへへ」
両側から俺と霧島に挟み込まれた直美は、子供の様な笑い声を洩らしながら心底幸せそうに目を閉じるのだった。




