史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㊾
「ぶぅうううんっ!! さあさあ直美の飛行機がドンドン取って行っちゃうもんねぇ~っ!!」
「えっ!? えぇっ!? な、何でそんなに一気に動けるのっ!?」
「こー言うゲームだからねぇ……うん、今度の駒も直美ちゃんの勝ちだねぇ……」
伏せられている直美と霧島の駒が重なり合ったところで、審判役である俺が互いの駒を確認して強弱を判定する。
これはいわゆる軍人将棋と呼ばれている、三人でなければ出来ない珍しいタイプのゲームだった。
(まさか直美ちゃんから霧島を誘って遊ぶなんてなぁ……)
二人から手を引かれて苦しんでいた俺が何とか開放してもらった後で、直美はまだまだ遊び足りないと不満げに言い出した。
実際に時計を見れば確かにまだ眠るには早い時間ではあったが、お風呂の支度などを考えればそろそろ動かなければいけないはずだった。
しかしそれを察した霧島はこっちの家ならば既に支度が出来ていると言い、何ならば霧島家も自分がやっておくから二人で遊んでおいてと提案してくれた。
最初は悪いと思ったがこれぐらいはやってあげたいと意味深に俺と直美を見つめて来る霧島を見て、任せた方が喜ぶだろうと判断して頷こうとしたところで……直美がそっぽを向きながら呟いたのだ。
(こっちでお風呂入れば無駄に水道代とかかからなくて済むし、二人じゃ遊べるゲーム限られるからもう一人いたほうがなぁって……直美ちゃんからまた一緒に遊ぼうって言われてるようなもんだから、滅茶苦茶霧島喜んでて……だから二つ返事で頷いたんだろうけど……初心者相手にこれは酷いよ直美ちゃん……)
「え、えっと……嘘っ!? じ、地雷も駄目なのぉっ!?」
一方的に蹂躙されている霧島は慌てながらルールブックを読み駒の強弱や動き方を確認しては、何とか直美が飛行機と主張している駒へ対策しようとしている。
「うぅ……こ、これじゃあ私の陣地が……あっ!?」
「ぶぅううんっ!! どぉせさいきょぉの駒は本拠地の中でしょぉっ!! その前に周りを制圧しておいてスパイをぉ……にひひひっ!!」
「あぁっ!? そ、そんなぁっ!? ど、どうすればいいの史郎っ!?」
「……審判だから口出しは出来ませぇん」
どうやら駒の配置まで直美に読み切られているらしい霧島は、涙目で俺に助けを請おうとする……がその顔はやられっぱなしなのにどこか楽しげに見える。
何せ三人で遊んでいるとは言うが、実際のところは審判である俺は脇に控えていて、直美と霧島が二人だけで直接向き合って遊んでいるような状態なのだから嬉しく感じるのも無理はないだろう。
直美もまた圧倒的に勝っている状況が楽しくて仕方ないのか、やっぱりその顔にはとても良い笑顔が浮かんでいる。
(うぅん、てっきり直美ちゃんも霧島との仲を改善したくてあえてこの遊びに誘ったんだと思ってたんだけど……ひょっとしてただ単純に初心者相手に俺強ぇしたいだけだったんじゃ……?)
尤も仮にそうだったとしても直美がこんなに楽しそうに笑っているのならば、霧島としては本望だろう。
だからあえて俺は何も言わず見守ることにするのだった。
「あぁああっ!? か、完璧に詰……えっ!?」
「うぅん、ざんとぉが居ると良からぬ反乱が起こる可能性がありますからなぁ~……ここは一つ、司令部を落とす前に殲滅と行きますかぁ~っ!!」
「うわぁ……直美ちゃん、それは残酷だよぉ……」
勝敗がほぼ決したところで、あえて直美は勝負を終わらせることなく霧島の陣地に残る駒を残らず倒しに掛かる。
それは圧倒的な勝利の優越感に浸りたがっているように見えるが、考えようによってはゲームをする時間を長引かせているようにも見えた。
何よりも直美が困った様子の霧島をニヤニヤと笑いながらも……今までと違って正面から見ていた。
俺の目にはそれはゲームに勝利した喜びよりも、自分の挙動に反応してくれる母親の様子に満足しているように見えるのだった。
(本当に……傍から見たら得意分野で親を上回って喜んでる子供みたいだなぁ……ふふ、そう言えば俺達にゲームで勝てるようになった時もこんな顔してたっけなぁ……)
「うぅ……し、史郎ぉ~……こ、これ降参とかないのぉ~?」
「投了なんか認めないんだからぁっ!! ほらほらぁ~、頑張らないと最後の駒とっちゃうぞぉ~っ!!」
「……大人げないなぁ直美ちゃんは」




