史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㊽
「じゃ、じゃあまた明日……」
「えぇ~? ほんとぉに明日会えるのぉ~? 大人どぉしのおデートなんだからとーぜんシーン回想まで……」
「はいはい、それぐらいにしておこうね直美ちゃん……だけど無理してこなくても良いからな?」
まるで逃げるように帰ろうとする亮に、直美はニヤニヤしながら追撃しようとする。
そんな直美を軽く諫めながらも、俺もまた亮に明日は来なくても大丈夫だと告げておいた。
(直美ちゃんの言うようなお泊り案件はないと思うけど、話が盛り上がったりして帰りが遅くなる可能性は無いとは言えないもんな……それにもう毎日様子を見に来てもらわなくても……)
「……そっか……まあ来たいから来てるだけなんだが……確かに遊びに言って疲れてるかもしれないからな……それに就職のことも考えなきゃだし……これからは少し来る頻度減るかもなぁ……」
「……嵐野君」
俺の言葉を聞いて亮は少しだけ霧島を見つめた後で、僅かに頷いて見せた。
(亮は直美の様子見以外にも、霧島が変な行動をとらないよう監視する意味を兼ねて家に尋ねてきてくれてた……だけどもう大丈夫だって思ったんだろうな……)
恐らくその意図が伝わったらしい霧島もまたどこか感極まった様な声を洩らしたが、亮はただ微笑んだままくるりと背を向けて帰って行った。
「じゃあまたなぁ~……そうそう、ネットを介してなら遊べると思うから遠慮なく声かけてくれよ?」
「はぁい、じゃあまたね亮おじさぁ~ん……恋人出来ても直美のことないがしろにしちゃヤダからねぇ~っ!!」
家を出て去っていく亮を追いかけて外に出た直美は、大きく手を振って見送ろうとする。
「ふふ、分かってるよ直美ちゃん……だけど史郎達と……家族と過ごす時間も大切にね……」
「にゃぁ……そ、それは……そんなのわざわざ言われなくても分かってるってのにぃ……もぉ……」
直美を追いかけて俺も外に出たタイミングで亮がそんな声をかけて来て……それを聞いた直美は少しだけ戸惑った様子を見せながらも小さい声でそうボヤくのだった。
「……お家に戻ろっか?」
「……うん」
亮の背中が見えなくなったところで直美に声をかけて共に家の中に戻ろうとするが、直美は何故か寂しそうに何度も亮の去って行った帰路へと振り返っていた。
「どうしたの直美ちゃん……まだ遊び足りなかった?」
「それもあるけど……ねぇ史郎おじさん、もしも本当に亮おじさんとその人がお付き合い始めたらさ……やっぱり直美より恋人を優先しちゃうようになるのかなぁ……?」
一体どうしたのかと尋ねてみると、直美は不安そうな顔で俺を見上げて来る。
(さっきの言葉、本気だったのか……だけどなんでこんなに不安そうに……あっ!?)
一瞬不思議に思うが、家の中に戻ったところで霧島が俺達の食べた食器を片付けているらしい物音が聞こえて来て……そちらへ視線を投げかける直美を見て何となく悟る。
かつて直美の実の母である霧島は、男遊びに溺れて直美に構うことなく家を飛び出して帰ってこなくなった。
それはつまり親子関係よりも恋人を優先したと言っていい……だからこそ直美は亮もまた自分より恋人を優先するようになって……その挙句に見捨てられないか不安になってしまったのかもしれない。
(まして一度は亮が自分のせいで帰ってこなくなったって誤解してた時期もあるし……直美ちゃんからしたら不安で仕方ないんだろうなぁ……)
それでも亮がそんな真似するわけないと信じていたからこそ明るく振る舞っていたようだが、去っていく姿を見てついに不安が堪えきれなくなって噴出してしまったようだ。
「……大丈夫だよ直美ちゃん……俺も亮も直美ちゃんが可愛くて仕方がないんだ……仮に恋人が出来ようと直美ちゃんを蔑ろになんかしないよ」
「……うん……知ってるぅ……だけど直美ちょっとだけね……その……あっ!?」
俺の言葉を聞いて寂しそうに微笑む直美……それがかつて小さい頃に良く浮かべていた顔だったから、反射的に当時のように抱き上げて頭を撫でてしまう。
(小学校ぐらいの時だよなぁ……親が居なくて苦しいのに俺達を心配かけないと無理して笑って……だけどこうして俺達が抱っこしてあげると胸に顔を押し付けて涙を流して……それでも最後はいい笑顔で笑ってくれてたっけ……)
果たして直美は急に抱きしめられたことで戸惑った様子を見せながらも、かつてのように俺の胸に顔をグリグリと埋めてくるのだった。
「……ありがとう史郎おじさん……直美が辛いときいっつもこうして支えてくれて……やっぱり直美、史郎おじさんとこうして一緒に居るのが一番幸せぇ……大好き」
「俺も直美ちゃんが大好きだよ……絶対に何があっても離れたりしないから……安心して、ね?」
「うん……えへへっ!! 史郎おじさんだぁいすきぃっ!!」」
頭を撫でながら耳元で優しく囁いてあげると、そこで直美は顔を上げて……満面の笑みを見せてくれるのだった。
(可愛いなぁ本当に……世界で一番……俺の宝物だ……絶対に誰にも渡……はっ!?)
「だからチューするぅっ!! そしてこのまま押し倒して今日という今日こそ史郎おじさんとの秘め事CGを回収っ!! そのまま専用ルートに入って妊娠エンディングまで一直線だぁっ!!」
「ちょぉっ!? な、何言ってるのぉおっ!? は、離れ……っ!?」
「い、今なんか妊娠って聞こえたんだけどっ!? だ、駄目よ二人ともっ!! わ、悪いこと言わないからせめて高校卒業するまでは我慢してっ!! わ、私を見ればわかるでしょっ!?」
「むぅぅ……お邪魔キャラがぁ……そー言って、自分だけ史郎おじさんのこーかんど稼いでこーりゃくするつもりでしょぉっ!! 駄目だからねっ!! 幾らおか……でも渡……と、とにかく史郎おじさんは直美のなんだからっ!! 今のうちにきせーじじつを作っておくのぉっ!!」
今まで以上に俺に貼りつく直美と、何とかして引きはがそうとする霧島……気が付いたら二人は俺の手を両側から綱引きするように引っ張り始めてしまうのだった。
「もぉぉっ!! は、離してよぉおおっ!! 史郎おじさんが痛がって……ぷぷぅ……」
「だ、駄目だったらっ!! ほら史郎も苦しそうにしてるし手を離して……ふふ……」
「ふ、二人とも笑ってないで手を離してぇっ!! 本当に結構痛いんだってばぁっ!!」




