史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㊹
「むぅぅ……じゃあ史郎おじさんたちがインチキしないゲームって何があるのぉ?」
「……」
「……」
「え、えっと……確か変な将棋とかトランプをするときは真面目に遊んでた気がするけど……」
直美の言葉にあえて俺たちが何も答えずにいるために、後ろからこちらを覗き込んでいる霧島がおずおずと答え始める。
「ふぅん……変な将棋ってのは良く分かんないけど……まあいいや、じゃあトランプで勝負だっ!!」
そんな霧島の声を聞いても直美は決して振り返ろうとはしないが、その答えを拒絶して聞こえないふりをしたりはしなかった。
むしろ俺や亮の名前を出さず、またこちらを見ることなく近くにある玩具だけを見つめている辺り霧島が答えることを望んでいた節すらありそうだった。
(わざわざこの場に残ってゲームをしている時点で、もっと霧島と交流したいって思ってはいるはずだ……だけどどうしても素直になれないからこんな形じゃないと駄目なんだろうな……)
そのことを俺も亮も、そして多分霧島も薄々理解している。
だから皆、直美の不器用なやり方に全力で付き合おうと思っていた。
「トランプねぇ……定番だと大富豪、七並べ、ババ抜きに神経衰弱ってとこかな……」
「まあ大抵の奴は出来るつもりだけど、その中からするとババ抜きなんか騙し合いのテクニックもあっていいんじゃないかな?」
その為に直美の提案を受け入れながら、さりげなく遊ぶ人数が多い方が楽しめて互いに干渉しあうゲームに誘導していく。
「むむぅ……別にいいけど三人でババ抜きかぁ……もう一人ぐらい居たほうが楽しめるんだけどなぁ……」
「……っ」
果たして直美はトランプを手に取りシャッフルし始めながら呟いた。
それを聞いて霧島が息を飲んでいる中で、直美はそのまま何かをトランプを配ることなくシャッフルし続けていた。
そんな直美の様子を苦笑しながら見つめていた俺と亮は、やはり何も言わずに霧島へと視線を投げかけた。
「あ、あの……じゃ、じゃあ私が……え、えっと……も、もしよかったら私も一緒に……」
しかしその前に霧島は意を決したように口を開くと、何度も言葉に詰まりながらも直美へと語りかける。
「も、もちろん嫌な……」
「……やるんならさっさとその辺に座って……カード配れないじゃん」
「あっ!? う、うんっ!! えへへ、ありがとう……」
「別にお礼言われるようなことじゃ……むぅ……ふん……」
「……ふふ」
子供のように微笑む霧島に対して、わざとらしく顔を逸らして鼻を鳴らす直美。
その他愛の無いやり取りを見ていると何やら胸が温かくなって、俺はつい笑みをこぼしてしまう。
「はは……」
「むぅ……ほらほら、カード配ったからぁっ!! さっさと始めるのぉっ!!」
「はいはい……お手柔らかにね……」
亮も似たような気持ちだったようでやっぱり微笑んでしまうが、そんな俺たちを見て直美は不機嫌そうに叫び強引にババ抜きを開始してしまう。
(やれやれ、本当に素直じゃな……なぁっ!?)
「う、嘘だろっ!? 何でペアが全然出来ないんだっ!?」
「うぅ……わ、私も全然捨てられなぁい……な、なんでぇ?」
「お、俺もだっ!? こんな事って……はっ!? ま、まさか直美ちゃんっ!?」
「にひひぃ、なぁんのことぉ~? はぁい、直美残り2まぁ~い」
しかしカードを整理し終えたところで、一転して直美は不敵な笑みを浮かべて見せた。
どうやら俺たちが視線を反らした隙にカードをシャッフルする振りをして巧みに入れ替えていたようだ。
(や、やられたっ!? まさかこの為の仕込みとして霧島を誘い入れたのかっ!? な、なんて冷静な手をっ!?)
本格的に直美がゲームに掛ける熱の強さに、俺は少しだけ恐れを抱いてしまうのだった。
「さぁってぇとぉ~、まず一枚直美からひいてぇ……はい残り1まぁ~いっ!! これを史郎おじさんが取ったら……やったぁっ!! 直美いっとうしょーっ!!」
「うぅぅ……ず、ズルいよ直美ちゃぁん……反則だぁ……」
「次からは俺達がカットするからなぁ……うぐぐ……あぁ……」
「あ、あはは……そ、それより続き……え、えっとどっちがどっちを引けば……?」
「よっしゃぁっ!! これで俺が二番だぁっ!!」
「ぐぅぅ、おのれ亮ぅ……右側を選んでおけばぁ……さ、さあ好きな方を引け霧島ぁっ!! 片方がジョーカーだぞっ!! お前に見抜けるかぁっ!?」
「……ふふ、こっちだよね史郎……これで私三番目だね」
「なぁっ!? な、何故バレたぁっ!?」
「だって、あの頃と同じ癖が残ってるんだもん……わかっちゃうよ……」
「し、史郎おじさんの癖って……直美そんなの知らな……むぅぅ……」




