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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㊸

「にひひっ!! 直美が最初にこの橋渡ったもんねぇ~っ!! これからのつうこぉりょぉは一億えぇんっ!!」

「うぉぉいっ!! ルールブックには一万って書いてあるぞぉっ!? 横暴だぁっ!?」

「うぐぐ……このままじゃ開拓地送りに……というか直美ちゃん強すぎ……何でルーレットで好きな出目出せるのさぁ……」


 書いてあるルールを無視して好き勝手なことを叫ぶ直美だが、それを抜きにしても既に大差がついてしまっている。

 どうやら直美はルーレットを巧みに操れる技術があるようで、一度も不幸マスに止まることがなかったのだ。

 こんな状態でそんな無茶ぶりをされては俺と亮はほぼ完敗と行って良い状態であった。


「ふっふぅ~んっ!! 直美はゲームと名のつくものなら何だってじょぉずに熟せちゃ……」

「ただい……じゃ、じゃなくてお邪魔しまぁす……ふぅぅ……」


 自慢げに胸を張る直美だったが、そこへお出かけしていた霧島が戻って来た。

 途端に直美はいかにも不機嫌だと言わんばかりの顔を作ると、ゲーム盤にわざとらしく視線を集中させる。

 そこへ軽い足音と共に廊下を進んできた霧島が俺達の遊んでいる居間へと到達して、こちらに気付くと軽く息をのんだ。


「あっ……ま、まだ残っててくれ……あ、嵐野君もいらっしゃい……」

「お帰り霧島……履歴書は出せたのか?」

「う、うん……ちゃんと出してきたよ……はい、これポストに入ってたお手紙……」


 そう言って履歴書を出しに行っていた霧島は、ついでに回収してきたらしい手紙を俺の傍に置いていく。

 チラッと確認して大したものはないと判断した俺は、霧島の手の中に残っている薄い封筒へと目を投げかける。


「……それは……選考結果か?」

「た、多分……だけどこの薄さじゃ……はぁ……ごめんね、やっぱりこれも駄目だったみたい……」


 中身を確認した霧島は疲れたようにため息をつきながら俺たちに結果が掛かれた紙を渡してきた。

 実際に確認して見ると、確かに社名と共に霧島亜紀の不採用を告げる内容の言葉がお祈りの文言と共に書かれている。


(少なくとも履歴書は出してるってことだよな……しかもこの会社って確か……)


 記憶を探りながらさりげなく他の二人の様子も確認して見ると、亮も会社名を読んだのか驚いたような顔をしていた。

 何故ならそれは一般的に忌避されやすい辛くて汚いと言われている仕事に関わっている会社だったからだ。

 落ちたとはいえ霧島がそんな場所で働く覚悟を決めていた事実に、なおさら本気度が伝わってくるようだった。


 果たして直美も興味なさそうな顔をしつつ横目でチラチラと眺めて……何故かちょっとだけ不満そうに唇を尖らせていた。


「やっぱり私の経歴じゃいきなり正社員は無理っぽいねぇ……アルバイトとかパートから始めるしかないかなぁ……」

「まあ、そうだろうなぁ……」


 少しだけ困ったように呟く霧島に、俺はあえて何も言わず頷いて見せた。


(霧島の悪評も顔もこの近辺じゃ広まり過ぎてるから働くとしたら遠くに行くしかないけど、そうなると通勤費がかさむもんなぁ……そしてアルバイトやパートでは通勤手当を出すぐらいなら地元の人を雇うほうを優先するだろうし……)


 尤もそれでも人手の足りない所ならば受からないはずはないが、当然そう言う人の集まらない場所というのは仕事内容が過酷なはずだ。

 果たしてそんなところで今までろくな就業経験のない霧島がやって行けるかどうかは不安であった。


「でもまあ、何度も言うけど焦らずゆっくり考えて慎重に就職先は選べよ? 時間がどれだけかかっても良いから……」

「あ、ありがとう史郎……だけど私も早く働いて皆に迷惑かけないようになりたいからもっと頑張るよ……それでお金を貯めて……せめてお金ぐらい……」


 意味深な言葉を呟きながら霧島は、未だに振り返ろうとしない直美の背中を見つめ続けていた。


「……はぁ……なるほどなぁ……通りで史郎が……俺も少しは……」

「えっ? ど、どうしたの嵐野君?」

「いや、何でもないよ霧島さん……それより俺も今、仕事探していろんなサイトに登録して就職情報集めてるんだ……何なら霧島さんが出来そうな奴調べておくよ」

「あ……そ、それは嬉しいけど……で、でもいいの?」

「ああ、大した労力でもないし……それに直美ちゃんの為に頑張ってるんなら応援しない理由はないって……」


 亮もようやく霧島が改心して頑張っていることを認め始めたのか、久しぶりに微笑みを浮かべながら自ら霧島に語りかけた。

 それを見て霧島もまたほんの少しだけ嬉しそうに微笑み、ギスギスしていた二人の関係も少しだけ改善された事実に俺もまた嬉しくなる。


「…………かく戻っ……外……なくても……」


 ただ一人、頑なに振り向かない直美だけが何やら不満そうにボソボソとそんな言葉を洩らしていた。


「……どうしたの直美ちゃん?」

「ふぇっ!? べ、べっつにぃっ!! わ、私にはかんけぇない話だしぃっ!! そ、それよりしょぉぶの続……にゃぁああっ!? な、直美の残金がぁああああっ!?」


 俺の問いかけで我に返ったらしい直美は慌てて何かをゴマ化性にゲームの続きをしようと促してきて……そこで手元にあるはずの資産がごっそりと減っていることに気が付いたようだ。

 代わりに何故か亮が株券やら紙幣やらを大量に握りしめていて、いやらしそうに直美へと笑いかけていた。


「おやおや、何を言っているのやら……直美ちゃんは最初っからそれだけしか持ってなかったじゃないかぁ」

「さ、最初の所持金に勝手に戻さないでよぉおおおっ!! もぉぉっ!! こぉなったら橋の渡し賃……にゃぁあっ!? な、何で史郎おじさんのお車がそんなところにあるのぉっ!?」

「べ、別にぃ……元々そこに会ったんだけどぉ……決して二人が言い争ってる間に動かしたわけじゃ……あっ!? か、勝手に人の車に触るのは反則だよっ!!」

「もぉおおっ!! インチキばっかりしてぇえええっ!!」

「……よく見たらこのゲームって……ふふ、二人ともあの頃と同じことしちゃって……懐かしいなぁ……」


 そんな俺たちの行動を見て霧島は心底懐かしそうに呟き、あの頃と同じ様な笑顔を見せるのだった。


(ああ……本当に懐かしい顔だ……そうだった、俺は霧島の笑顔が好きでずっと……だけどこうして見ると直美ちゃんにそっくりなような……どこか違うような……)


「うぅぅ……ふ、二人とも昔っからこんなインチキしてたのぉ……?」

「……ゲームに関しては負けず嫌いだったからねぇ……気が付いたら車に沢山子供が乗ってたり、安いマンションを買ったはずなのに一軒家に移ってたり……後、橋の通行量を何百倍にもしてみたり……酷かったよねぇ……」

「あ、あはは……な、何のことやら……なぁ亮ぅ?」

「お、おお……よ、よく覚えてないぜ……なあ史郎?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 直美ちゃんは、働きに出ないで一緒にいてほしい? ボードゲームはTVゲームと違ってインチキもやり放題なのかもしれないなあ/w
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