表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

231/319

史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㊵

「ど、どう……美味しい、かな?」

「……まあ、半分直美が作ったみたいなもんだしぃ……不味いわけないじゃん……」

「あぅ……そ、それはその……ご、ごめんなさい……」


 おずおずと尋ねた霧島から露骨に視線を反らし、不機嫌そうに呟く直美。

 それを聞いて霧島は面目なさそうに小さくなり謝ってしまうが、その目は直美の顔から離れることはなかった。

 そんな霧島を直美は視界に収めないよう、どう考えても食べづらそうなぐらい顔を背けながらモグモグと唐揚げを頬張っている。


(うぅん……ここだけ見ると世話を焼きたがる母親に意地を張る年頃の娘みたいだなぁ……実際はもっと複雑な心境なんだろうけど……)


 それでも二人ともこの状況に居心地の悪さばかりを感じているわけではないようだ。

 その証拠とばかりに霧島は文句を付けつつも一生懸命自分の作ったご飯を食べている直美を見て、時折頬が緩みそうになっている。

 直美の方はずっと顔をしかめっぱなしだけれど、必死にそう言う表情を装っているだけのようで、たまに視線を霧島の方へと向けそうになり慌てて背けるような真似を繰り返しているのだ。


「はは……でも揚げ具合はともかく、味付け自体は霧島が一人でしてたじゃないか……それに……もぐもぐ……うん、今までと違ってお世辞抜きで美味しく出来てるんだからさ……」

「そ、そうっ!! よ、よかったぁ……ふふ、史郎にそう言ってもらえると自信が……」

「むぅ……史郎おじさんの採点は甘すぎ……市販の唐揚げ粉を使ってまともに味付けできないほうがおかしいでしょうがぁ……だいたいそれだって塗しただけじゃん……塩コショウ振ってみたり、みりんとかマヨネーズとか使って柔らかくなる様に工夫したりしたんならともかくさぁ……むぐむぐ……」

「はぅぅ……」


 俺もまた唐揚げを一つ摘まみ味わってみて、それが及第点には十分達していることをはっきりと認めてあげた。

 それを聞いた霧島は顔を上げて俺を見ると安堵したように胸を撫でおろし……逆に直美は俺をジト目で睨みつけながら辛口の感想を述べ始めた。

 途端にすぐ恥ずかしそうに俯いてしまう霧島……俺の評価より直美の言葉の方がずっと気になっているらしい。


 そんな直美も珍しく俺が傍にいるのに霧島の方を意識しているのか、料理の方へと視線を投げかけてばかりだった。

 二人のそんな態度に俺は少し寂しいような気持ちもあったが……それ以上に何故か微笑ましく思えてしまう。


(色々言いながらも直美ちゃんは席を立とうとしない……食事を止めようともしない……本当に霧島を嫌ってたら一緒にご飯なんか食べれないよな……)


 きっとこれは良い兆候なのだと確信した俺は、もう少し無理なく二人の仲が縮められるよう話題を振ることにした。


「きびしいなぁ直美ちゃんは……ちなみに点数を付けるとしたら百点中何点ぐらいなの?」

「っ!?」

「……」


 俺の問いかけに霧島ははっと顔を上げると、何やら緊張した面持ちで直美をじっと見つめ始める。

 それに対して直美は無言でポテトを複数本同時に箸で摘まみ口に運び、また唐揚げと一緒にご飯まで口の中へと放り込んだ。

 そしてゆっくり咀嚼して、ごくりと飲み込むと……小さい声で呟くのだった。


「……食べれるから……六十点……」

「っ!!」

「へぇ……それはつまり、一応合格点ってことかな?」

「……ふん、唐揚げは誰が作っても美味しいもん……」

「っ!!!?」


 果たして直美の答えは、平均点とも思える五十点を越えていて……また一般的なテストに置いての合格点ギリギリの点数とも言うべき数字であった。

 色々と言われていたからここまでいい点を貰えるとは思っていなかったらしい霧島が目を丸くするが、その後のやり取りを聞いて身体を乗り出すほどの感激した様子を見せ始めた。


(直美ちゃんは何度も、美味しくない料理ならいらないって言ってた……だけど逆に言えば美味しい料理なら食べても良いってことだもんなぁ……つまりこれは直美ちゃんなりの……)


「あ、ありがとうっ!! じゃ、じゃあこれからも私沢山料理作るからっ!! こ、これぐらいは貴方にしてあげたいからっ!!」

「……勝手にすればぁ」

「そうだね……霧島が料理を作ってくれるならその分時間が取れてこっちも助かるよ……」


 俺達の返事を聞いて霧島はついに嬉し涙すら浮かべながら、笑顔ではっきりと頷いて見せるのだった。


「う、うんっ!! 任せてっ!! じゃ、じゃあこれからはご飯が出来たら持って行って……そ、それとも声かけた方が良いかなっ!?」

「そうだなぁ……どっちかと言え……直美っ?」

「……油……油こぼして火事とか……あんた不器用だから……だから……料理作る前に声……かけて……」

「えっ!? そ、それってこれからも一緒……っ」

「うっさい……良いからあんたも早く食べなさいよ……せっかくぉぃ……出来てるのに冷めたら勿体ないでしょ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おお、また一緒に料理しますか。 このまま順調にいくといいけど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ