史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㊲
「にひひ~、どぉしたの史郎おじさぁん? きょぉは特に動きが鈍いねぇ~?」
悪戯っ子のように笑いながら直美は俺の足の間に乗せている腰をグリグリ押し付けて来る。
(うぅ……な、直美ちゃんは女の子……じゃなくて娘みたいなもの……反応するな俺……あぁ……柔らか……ってだから意識するな俺ぇ……あぁ……ど、どうしてこんなことにぃ……)
小さい頃、良くしたように正面から直美を抱きしめて気持ちを落ち着かせてあげたまでは良かった。
しかし問題は涙をぬぐった直美が見せた笑顔だった……凄く可愛くて愛おしくて、何故かドキッとしてしまった。
それで慌てて視線を反らそうとして直美の身体の方に目が向いてしまい、上着の襟首からチラリと肌色と谷間が覗けてしまったのだ。
途端に俺は直美の平均的な女子より育っているお胸のことを思い出してしまい、そうなると服越しに押し付けられている柔らかな感触にどうしても意識が行ってしまう。
その感触は俺みたいな男にはあんまりにも刺激が強すぎて、咄嗟に距離を取ろうと直美の肩を掴んで身体を離そうとして……そこで直美が物凄ぉくいい笑顔でこちらを見ていることに気が付いた。
(それからわざとらしくギュって抱きしめながら身体押し付けて来て……おまけに後ろに回した手で俺のお尻を撫でまわそうとするし……うぅ……あんなの耐えられないってぇ……)
このままでは理性が飛びそうになり、何とか直美を宥めてゲームに誘い込んだのだが……そこで直美は俺を座らせると特等席だと言って足の上に座り込んできた。
そして格闘ゲームを起動しつつ、こうして俺に身体を密着させて集中力を切らしながら攻め立ててくるのだ。
「ほらほらぁ~、早くていこぉしないと負けちゃうよぉ~?」
「ぐぐぐ……て、テンションゲージを貯まる余裕が……も、もう青バースト使うしか……あぁっ!?」
「はぁい、ざんねぇ~ん……これで……KOっ!!」
直美の身体の柔らかくも心地よい感触に意識を取られてしまった俺は、操作が雑になり起死回生のカウンター技も逆に利用されて敗北まで持ち込まれてしまった。
「うぅぅ……な、直美ちゃんこれはズルい……」
「えぇ~? なぁにがズルいのぉ? ちゃんと言ってくんなきゃ直美わかんなぁ~い?」
わざとらしく呟きながら俺の肩に後頭部を乗せるように首を曲げて、チラリと横目で俺の顔を眺めてくる直美。
その顔は本当に子供のような悪戯っ子の笑顔だけれど……ほんの僅かに肌が赤く染まって見えるのが反則的に色っぽく見えてしまう。
何より密着するほど近い直美の身体からは若い女の子特有の良い香りが漂っていて、それもまた刺激的過ぎた。
「わ、分かってるくせにぃ……な、直美ちゃんももう高校生なんだから異性を相手にこういう真似は……」
「逆だよ史郎おじさぁん……直美、もう結婚できる年なんだよ? だからしょーらいの旦那様になる史郎おじさんならこーいうことしていいのぉ~」
そう言いながら俺に身体をすり寄らせる直美は本当に楽しそうであり、嫌悪感などは欠片も見受けられなかった。
(お友達二人の言葉が正しいなら、男の人のいやらしい視線とか苦手みたいなのに……本当に俺なら平気なんだな……)
それだけ愛されているという事実に嬉しさが無いと言えばウソになる。
しかしこのまま直美の気持ちを受け入れるわけにもいかないとも思ってしまう。
(娘みたいに育ててきた子が凄く魅力的に育ったからって手を出したりできないよなぁ……それじゃあただの屑だもんなぁ……)
何より俺は直美に幸せになってほしい……あれほど辛く苦しい環境に囲まれながらも、こんな良い子に育ってくれた直美にはずっと笑顔でいてほしい。
だからこそ俺みたいな年上すぎる男と付き合って世間から色々と言われるよりは、もっと年の近い良い男と真っ当な恋愛をしてほしいと思ってしまうのだ。
(俺や亮や……ある意味で霧島も出来なかった普通の青春を、直美ちゃんには満喫してほしい……)
尤も直美が男性恐怖症染みた想いを抱いていると知った今、強制しようとも思わない。
むしろもしも直美が社会的にちゃんと自立した一人の大人になって……もっと多くの人達と交流するようになって、それでも俺と結婚したいというのならば受け入れても良いとすら考えている。
(俺なら安心できるってのは事実みたいだし、直美ちゃんがお嫁さんになりたいって本気で思ってるならその夢を叶えてあげたい……そしてその相手が俺しかいないってなら……だけど今は駄目だ……この気持ちを伝えるのも……)
もしも今の時点で俺がこんな気持ちを抱いていると直美が知ったら、それこそ絶対に周りへ見向きもしなくなって引きこもりが酷くなる可能性すらある。
だから俺は直美が成長するまでは……少なくとも立派な社会人になるまでは保護者としての立場を守り抜くつもりなのだ。
(今、直美ちゃんが望んでいるとはいえ男女の仲になったら……俺が直美ちゃんを守るのはその為だと……身体が理由だと無意識のうちに思ってしまうかもしれないから……そうじゃなくて、見返りとか関係の無い無償の愛情があることを俺が教えてあげないといけないんだ……本来それを教えてくれる親が直美ちゃんには……)
そこまで考えたところで、俺の脳裏には霧島の姿が思い浮かんで来た。
戻ってきたから心を入れ替えた様に直美の為に尽くそうとする霧島……そしてその気持ちを素直になれないまでも受け入れようとしている直美。
(もしもあのまま上手く行ったら……直美ちゃんと霧島が親子関係の修復に成功したら俺は……)
何故かそこまで考えたところで、胸が詰まりそうになり慌てて俺は頭をふって思考を紛らわせるのだった。
「……と、とにかく直美ちゃん……そろそろ俺もゲームに集中したいから離れてくれない?」
「えぇ~? じゃぁねぇ……次の試合で負けたほうがいうことを聞くってルールで勝負だぁっ!!」
「えっ!? まっ!? そ、それズル……っ!?」
「ウリウリ~っ!! 開幕カウンターヒットぉっ!! これで七割コンボかくてぇっ!! にひひ、これで直美が勝ったら大人のキスを教えて貰っちゃったりしてぇ~……そのままベッドに……くひひっ!!」




