史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㉟
「はぁい、史郎おじさぁ~ん……あーんしてぇ~」
「あ、あ~ん……モグモグ……」
「ふふふぅ~、どぉ直美の手料理ぃ~……すっごぉく美味しいでしょぉ?」
ニコニコと笑顔で俺に手料理を食べさせながら感想を聞いてくる直美。
「う、うん……お世辞じゃなくて美味しいよ……それにメニューもしっかりしてるし……」
「えへへ、でしょでしょぉ~……花嫁しゅぎょーをかんばってる直美が本気を出せばこれぐらいちょちょいのちょいなんだからぁ~っ!!」
そう言って胸を張る直美だが、実際にわざわざ早起きして作ったという朝食はそこそこ手が込んでいる。
何せおかずこそ魚の切り身を焼いたものだが、そこに味噌汁までついているのだから。
(頑張ってるなぁ直美ちゃん……尤も霧島への対抗心なんだろうけどさ……)
何せ台所には露骨にもう一人分の料理が残っているのだ。
尤も本人は亮が朝一で遊びに来た時に備えて準備したのだと主張している。
しかしそれが盛り付けられているお皿は、昨日霧島から貰った生姜焼きが入っていたものなのだ。
「さぁさあ、食べ終わってお腹も膨れたらきょぉは直美と一緒に一日じゅぅきもちぃお遊びに付き合ってもらうんだからねぇ~っ!!」
「ま、まあ普通にゲームぐらいなら付き合うけど……ご馳走様、食器はお水に浸しておくよ?」
「ありがとぉ史郎おじさぁん……後で洗っとくからそのまま置いといてねぇ~」
自分が食べ終えた食器を台所へと持っていくが、少し前まで洗い物が溜まっていたはずのそこは綺麗になっていた。
洗い物だけではない、洗濯物も貯め込んであった奴が全て干されて畳まれていて家の中全体が綺麗に片付いている。
皮肉にも霧島への対抗心から、直美はまるで自分が自立していることを見せつけるかのように家事を再開し始めていたのだ。
(あそこまで甘えん坊になった時はどうしようかと思ったけど……霧島の存在は良い意味でも作用してくれてるみたいだな……)
考えて見れば直美は昨日の朝、学校へ行くのも嫌がっている素振りは殆ど見えなかったぐらいだ。
仮にこれが全て霧島への対抗心だとしても、ここまで生活環境が改善してきているのは良いことだろう。
(俺ではどうにもできなかったのになぁ……理由が理由とは言え、やっぱり生みの親の存在は大きいってことかな……)
まだまだ霧島が直美にしてあげれていることは少ないが、それでも彼女の存在がこうして良い変化をもたらせるのならば俺はいつまででも面倒を見ても良いという気持ちにすらなってしまう。
もちろん直美が嫌がればそれまでだが……そこでふと俺個人としてはもう霧島に対して余り嫌悪感を始めとした負の感情を殆ど抱いていないことに気が付く。
(そうだよなぁ……考えてみたら俺が一番あいつに対して許せないって思ってたのは直美に対する仕打ちだもんな……そして今はそれを償おうと必死になってる……なら怨む理由なんか無いのか……)
当時はそれこそあんなにあっさりと見限られたことに怒りや憎しみを抱いていたというのに不思議なものだ。
「……ところで直美ちゃん、結局亮来そうにないけど残ったご飯どうする?」
だから俺は自分から霧島に食事を持っていく役を買って出よう自然に思えて、あえてそう切り出した。
果たして直美は複雑そうな顔をしながらもはっきりと俺を見返しながら、口を開くのだった。
「……冷めたら美味しくないもんねぇ……まあ昨日の生姜焼きはそぉじゃなくても最低最悪の味付けだったけど……」
(流石にそれは言い過ぎじゃないかなぁ……しかも何だかんだ言って一人で全部食べておいてさぁ……でもまあ直美ちゃんの方が美味しいのは事実だけど……またこれを食べたらあいつショック受けて泣くんじゃ……)
「……だけどまあ、余らせたら勿体ないし……持って行っ……て……」
「わかったよ直美ちゃん、今持ってい……っ!?」
言いずらそうな直美に最後まで言わせず、お皿を手に持って行こうとしたが、そんな俺の服を直美は握りしめて力なく首を横に振って見せるのだった。
「い、いい……わ、私が作ったんだし……じ、自分でも、持っていく……から……」
「っ!?」




